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スライムの触手

ダンジョンの奥で、嫌な音がした。

ぬるり、と床が波打つ。

「――スライム、来ます」

ルミエルが前に出た、その瞬間だった。

天井から落ちてきたのは、さっきまでのとは違う。

黒ずんだ、粘度の高い個体。

魔力が、明らかに濃い。

「ルミエル、後ろ――!」

間に合わない。

スライムの触手が、彼女の背中へ伸びる。

考えるより先に、身体が動いていた。

「っ!」

なぎは剣を握ったまま、ルミエルの前に飛び出した。

重たい衝撃。

粘液が服に絡みつく感触。

「なぎさん!?」

視界が揺れる。

足を取られて、膝が床についた。

――やばい、これ。

でも、不思議と後悔はなかった。

前の人生では、

座って、逃げて、何もしないで終わった。

今回は違う。

「……大丈夫」

声が震えないように、そう言った。

スライムが再び動こうとした瞬間、

ルミエルの声が低く響く。

「――ウォーター・ウォール」

水の壁が展開し、スライムを押し返す。

続けて、モーニングスターが振り下ろされ、

粘液は床に四散した。

静寂。

ルミエルが、なぎの前に膝をつく。

「……なぜ、庇ったんですか」

金色の瞳が、まっすぐこちらを見ている。

「だって……」

言葉を探して、少しだけ目を逸らす。

「ルミエルが傷つくの、やだった」

それだけだった。

勇者でも、聖人でもない。

ただ、それだけ。

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