すらいむおいしい
ダンジョン下層。
ぬめった床の奥で、ぷるん、と音がした。
「来ます」
現れたのは、半透明のスライムだった。
「……弱そう」
油断した瞬間、跳ね上がってくる。
「うわっ!」
私は剣を振り下ろし、どうにか斬り伏せた。
思ったより手応えは軽い。
「倒しましたね」 「う、うん……」
ルミエルは頷くと、迷いなくスライムに近づいた。
「調理します」 「え、今ここで?」
返事の代わりに、彼女は小鍋を取り出す。
慣れた手つきで処理され、透明なスープが出来上がった。
「どうぞ」 「……食べるの?」
「栄養効率、良いです」
覚悟を決めて口に運ぶ。
「……あれ? おいしい」 「でしょう」
体の奥が、じんわり温かくなる。
──最大MPが上昇しました
その直後だった。
「……なに、これ」
胸の奥に溜まった魔力が、勝手に流れ出す感覚。
思わず手を前に出す。
「えいっ!」
水の塊が放たれ、壁に当たって弾けた。
──ウォーターを習得しました
「食事由来の魔力増幅ですね」 「そんなのあるの……?」
返事をする前に、奥から別のスライムが飛んでくる。
「危ないです」
ルミエルが前に出た。
「神よ、障壁を」
水が渦を巻き、壁のように広がる。
酸は弾かれ、床に落ちて消えた。
──ウォーターウォールを習得しました
「……防御も、食べてから?」 「はい。魔力が安定してから、ですね」
なるほど。
食べて、強くなって、覚える。
このダンジョン、
思ってたより理にかなってる。
私は剣を握り直した。
「……もう一匹、行ける気がする」 「無理はしないでくださいね」
そう言いながら、ルミエルは次の鍋を準備していた。




