イケメンパーティー
ダンジョンに足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
湿っていて、冷たい。
酒場の匂いも、朝のざわめきも、ここにはない。
「……いますね」
ルミエルが小声で言う。
私は頷いて、物陰に身を寄せた。
奥の通路。
淡く灯る魔石の光の中に、三つの影が見えた。
――男のパーティーだ。
前に立つのは、背の高い戦士。
無駄のない動き。
鎧は使い込まれているのに、手入れが行き届いている。
その少し後ろ、ローブ姿の魔法使い。
詠唱は短く、魔力の制御が綺麗。
視線は常に、前衛の背中を追っている。
……あ、これ。
完全に信頼してるやつだ。
戦士が一歩前に出る。
魔法使いが、迷いなく援護を入れる。
言葉は少ない。
でも、動きだけで通じ合っている。
(うわ……)
喉が鳴った。
(薄い本が厚くなるやつだ)
二人の距離感が、ちょうどいい。
近すぎず、でも離れすぎない。
戦士が敵を弾き、
魔法使いが詠唱を終える前に、
戦士が一瞬だけ振り返る。
「今だ」
短い声。
魔法が放たれ、モンスターが崩れ落ちた。
完璧だ。
「……強いですね」
ルミエルが呟く。
「うん」
私は目を逸らせなかった。
あれが、前線。
あれが、冒険者。
(私、あそこに立てるのかな)
胸の奥が、きゅっと縮む。
あの二人は、
何度も修羅場を越えてきたんだろう。
私みたいに、
一匹倒しただけで腰抜かした初心者とは違う。
「なぎさん」
「なに」
「見すぎです」
「……いや、あれは不可抗力」
「?」
説明できる気がしなかった。
イケメン戦士が剣を肩に担ぐ。
魔法使いが、何か冗談を言ったらしい。
戦士が、ほんの一瞬だけ笑った。
(尊い)
危険な感情が芽生えた。
その瞬間、
足元の小石を踏んだ。
カチ、と乾いた音。
戦士の視線が、一瞬こちらを向いた。
(やば)
私は、息を止めた。




