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天罰
夜更け。
司祭マルコスの私室に、音もなくサクラは現れた。
ノックはない。
前触れもない。
気づいた時には、マルコスは床に転がっていた。
「っ――!」
声を上げる暇すら与えられない。
腹部に一撃。
息が抜け、視界が白く弾ける。
「質問は一つだけです」
サクラの声は穏やかだった。
それが、いちばん恐ろしかった。
「あなたは“分からない”のですか?
それとも“責任を取りたくない”のですか?」
返事はなかった。
代わりに、二発目。
骨がきしみ、壁に叩きつけられる。
「……なるほど」
サクラは理解したように頷いた。
「どちらでも、同じですね」
魔法は使わない。
必要がないからだ。
髪を掴み、無理やり顔を上げさせる。
「“これは個人的見解である”」
「“かもしれない”」
一語ごとに、拳が落ちた。
やがてマルコスは動かなくなり、
――だが、死なない程度で止められた。
サクラは手を離し、静かに立ち上がる。
「伝言です」
耳元で、はっきりと告げる。
「神は、逃げる言葉を嫌います」
「次は“書き直し”です」
転移の光が消えたあと、
部屋には、うめき声だけが残った。
翌日。
司祭マルコスの新しい説教は、こう始まった。
「神は、こう言われた」
……
もはや「かもしれない」は、どこにもなかった。




