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おかしい聖書
司祭マルコスは、沈黙の中で決断した。
解釈本は厚すぎた。
確定的すぎた。
何より――著作権料が高すぎた。
彼は震える手で原稿を削る。
ページ数を減らす。
断言を消す。
主語を曖昧にする。
余白が増え、
「〜とも考えられる」
「〜という可能性も否定できない」
「これは個人的見解である」
という但し書きが、ページの至る所に溢れ始めた。
やがて、説教台の上で彼はこう語る。
「神はこう言われた、
……かもしれない」
信徒たちは顔を見合わせた。
誰も異端とは言えない。
だが、誰も理解もしていなかった。
マルコスは胸を撫で下ろす。
――これなら、誰にも訴えられない。
神の言葉は、
ついに断定されることをやめた。




