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BLほんを解釈する司祭
【司祭、解釈を始める】
ローマ公国旧教会区、書庫。
机の上には分厚い紙束と、問題の教義が置かれていた。
老司祭は眼鏡を押し上げ、深く息を吸う。
老司祭
「……感情で否定するのは、学ではない」
彼は羽ペンを取り、表紙にこう記した。
『第二百十号室注解書
――沈黙と距離の神学』
老司祭
「“同じ部屋にいた”とは何か」
ページがめくられる。
老司祭
「これは共存の象徴だ。
争わず、逃げず、しかし踏み込まない。
極めて高度な距離感……」
別の司祭が覗き込む。
若い司祭
「ですが、次の頁では
“特に何も起こらなかった”
とありますが」
老司祭
「それこそが要点だ」
若い司祭
「要点……?」
老司祭
「人は常に“意味ある出来事”を求める。
だが神は、何も起こらない時間こそ尊いと示している」
沈黙。
若い司祭
「……なるほど」
老司祭
「注釈三。
“何も起きなかった”は、
神が見守っていた証左である」
その日、
解釈書の第一巻が完成した。
厚さは、原典の十倍あった。




