BL本、教会へ
ローマ公国、旧教会区。
聖堂の鐘は鳴らなかった。
代わりに、掲示板に新しい通達が貼り出された。
「本日より、当教会は
サクラ教エリザベス支部とする」
司祭たちは、その文面を前に沈黙した。
老司祭
「……異端、ではないのか」
若い司祭
「“異端審問は行わない”と明記されています。
というか、審問制度そのものが廃止だそうです」
別の司祭が、次の紙を読み上げる。
「教義教材:
『第二百十号室に記された二人の関係性』」
沈黙。
さらに、沈黙。
若い司祭
「……これは、比喩、でしょうか」
老司祭
「愛と絆を説いているのかもしれん」
修道女が、恐る恐る口を開く。
修道女
「でも、注釈に
“深読みは禁止。素直に読むこと”
とありますが……」
その頃、民衆側はというと。
「戦争を終わらせた魔法使いの教えだって?」
「神様が書いた本らしいぞ」
「難しい説教は無いらしい」
期待は、不安よりも先に立った。
最初の説教の日。
司祭は、震える声で読み上げた。
「――二人は同じ部屋にいた。
それ以上でも、それ以下でもない」
聖堂は、しんと静まり返った。
数秒後。
「……分からんが、否定はできん」
「少なくとも、争えとは書いてないな」
「前の教義より、優しい気がする」
その日、
ローマ公国で最初のサクラ教信徒が生まれた。
信仰心からではない。
恐怖からでもない。
――**面倒がなさそうだったから**である。




