白旗
公国が「休戦」という言葉を使い始めたのは、
戦況が悪化したからではなかった。
戦況という概念そのものが、
すでに存在しなくなっていたからだ。
最初の使者は、白旗を掲げて出された。
武装解除。
神への祈り。
最大限の誠意。
だが、戻ってこなかった。
殺されたわけではない。
捕らえられたわけでもない。
――誰にも、会えなかった。
次の使者は、別の経路を選んだ。
戦場を避け、村を回り、噂を頼りに進む。
「サクラに伝えてほしい」
「我々は、もう戦わない」
「話し合いたい」
そう告げるたび、
返ってくる言葉は同じだった。
「サクラ?」
「知らない」
「ここには来ていない」
三度目の使者は、言葉を変えた。
「神の加護を受けた魔法使いに」
「戦争を終わらせたい」
その瞬間、相手の顔色が変わった。
「……終わってないんですか?」
公国側は、その問いに答えられなかった。
なぜなら、
誰と休戦すればいいのか、分からなかったからだ。
軍ではない。
国でもない。
教会でもない。
単騎。
休戦とは、本来、
継続している戦いを止めるための言葉だ。
だが、
止めるべき“戦い”が、どこにもなかった。
前線は空白。
敵影なし。
攻撃なし。
ただ、
「行けば消える」という過去だけが残っている。
公国は理解する。
彼女は、
宣戦布告を聞いていない。
休戦交渉も、受け取っていない。
ただ、
必要な時に現れ、
必要がなくなれば、いなくなる。
休戦の言葉は、
戦争の中にいる者にしか、届かない。
そして、
その戦争は、すでに――
彼女の側には存在していなかった。




