表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/163

静寂

その頃――サクラは、静かな場所にいた。


戦場から離れた、小さな森の縁。

倒木に腰を下ろし、靴についた土を払っている。

周囲に、敵影はない。


「……あれ?」


ふと、顔を上げた。


空気が、変わっていた。

魔力の流れが、薄くなっている。

張り詰めていたものが、ほどけていく感覚。


サクラは、首を傾げる。


「もう、終わった?」


誰に聞くでもなく、独り言。

返事は、当然返ってこない。


少し前まで、

あちこちにあった“集まり”が、感じられない。

大きな塊も、小さな動きも、どれも遠ざかっている。


「……撤いたのかな」


疑問形だが、深刻さはない。

ただ状況を確認しているだけだ。


サクラは、指先で小さな魔法陣を描く。

探知でも、索敵でもない。

位置確認用の、ごく簡単な術だ。


「……うん」


反応は、ほとんどない。

戦争に使うほどの密度では、もうなかった。


サクラは、少し考える。


考える内容も、

次の一手ではない。

勝利条件でもない。


「呼ばれてないし」


それだけだった。


命令がない。

対象がない。

なら、やることはない。


サクラは立ち上がり、

外套の裾を整える。


「じゃ、帰ろ」


それは撤退宣言ではない。

休憩でもない。


“用事が終わった”という判断だった。


歩き出しながら、

ふと思い出したように空を見上げる。


「……また呼ばれたら、行くか」


それで十分だった。


同じ時刻、

公国軍では将校たちが声を潜め、

法王ザビエルは命令を重ね、

兵たちは夜のうちに陣を抜けていた。


だが、

その中心にいるはずの魔法使いは、

戦争が終わったかどうかすら、

確信していなかった。


サクラにとって、

戦争は“始まっていなかった”のだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ