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大魔法のあとで

その頃――サクラは、戦争のことをほとんど考えていなかった。


戦場から少し離れた丘の上。

サクラは一人、腰を下ろし、地面に簡素な魔法陣を書いていた。

複雑なものではない。

湯を沸かすための、ごく初歩的な術式だ。


「……ちょっと熱すぎたか」


指先で魔力を絞ると、湯気は落ち着き、静かな音だけが残る。

戦場は遠く、爆音も悲鳴も、ここまでは届かない。


サクラは器を手に取り、一口飲んだ。


「ん、大丈夫」


誰に聞かせるでもない独り言。

返事をする者はいない。


空を見上げる。

雲の流れを確認するような目だった。


「向こう、また軍まとめてるんだっけ」


思い出したように呟くが、声に緊張はない。

敵意も、怒りも、使命感もない。


ただの情報確認だ。


サクラは、日本にいた頃からそうだった。

必要なことはやる。

余計な感情は挟まない。


「単騎で十分だし」


誰に命じられたわけでもない。

だが、やるべきことは分かっている。


サクラは立ち上がり、外套の土を軽く払う。

魔法陣は、そのまま残した。

戻ってくるつもりだからだ。


「終わったら、また続きをしよ」


湯が冷める前に戻れるか。

それくらいの感覚だった。


遠くで、かすかに空気が歪む。

公国軍が動き始めた兆候だ。


だがサクラは、急がない。


準備も、詠唱も、祈りもいらない。

必要なのは、行くことだけだ。


サクラは一歩、前に出る。


次の瞬間、その姿は空間から消えた。


その頃、

法王ザビエルは焦りの中で命令を重ね、

公国軍は恐怖で隊列を組み、

世界は、この戦争に意味を与えようとしていた。


だが、

その中心にいるはずの魔法使いは、

ただ「用事を済ませに行った」だけだった。

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