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さくら
公国軍の前線司令部に、異様な沈黙が落ちていた。
伝令が震える手で差し出した報告書には、戦況ではなく「消失」という文字が並んでいる。
敵軍壊滅。
死体なし。
焦土なし。
ただ、数万人規模の軍勢が、存在そのものを失ったとしか書きようがなかった。
最初、司令官たちはそれを誇張だと切り捨てた。
流言、あるいは敗走兵の錯乱だと。
だが次々と届く報告は、すべて同じ内容だった。
――サクラ。
ただ一人の魔法使いの名だけが、共通して記されていた。
「神の加護を受けた魔法使い」
公国軍は、そう呼び始めていた。
サクラは日本からの転生者だった。
この世界に来た当初、冒険者ギルドで能力鑑定を受けた際、水晶は悲鳴を上げるように砕け散った。
計測不能。
前例なし。
世界が許容できる限界を




