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教祖前線へ

サクラは野営地の端で、魔法陣を書いていた。

剣ではなく、杖でもなく、指先だけが淡く光っている。

式はすでに組み上がっていたが、あえて完成させず、途中で止めていた。


「サクラ」


名を呼ばれ、サクラは振り返る。

そこに立っていたのは、女王とナギだった。

――そして、ナギの背後には、言葉にできない“圧”がある。


女王

「命令です」


サクラは軽く頭を下げた。

跪かない。だが、拒みもしない。


サクラ

「聞きましょう」


女王

「公国軍が動きました。

あなたには、単騎で前に出てもらいます。

魔法使いとしてです」


サクラは一瞬、目を伏せる。

恐怖ではない。

計算だ。


サクラ

「……目的は?」


ナギが、静かに口を開いた。


ナギ

「なんでもいい」


その言葉に、サクラは顔を上げる。


ナギ

「止めてもいい。

壊してもいい。

殺さなくてもいいし、殺してもいい。

混乱させてもいいし、逃げさせてもいい」


女王が息を呑む。


ナギ

「お前が選んだ結果を、全部受け入れる。

それが神の役目だ」


サクラは、しばらくナギを見つめていた。

その視線には、畏怖と、諦観と、ほんのわずかな安心が混じっている。


サクラ

「……随分と、重い後ろ盾ですね」


ナギ

「背負わなくていい。

投げてこい」


短い沈黙。


サクラは、未完成だった魔法陣を指でなぞり、あっさりと消した。


サクラ

「期限は?」


女王

「設けません」


サクラ

「失敗したら?」


ナギ

「それも含めてだ」


サクラは小さく笑った。


サクラ

「神ってのは、便利ですね」


ナギ

「不便だぞ。

全部、見届けなきゃいけない」


サクラは立ち上がり、深く息を吸う。

周囲の兵たちは、誰一人として声をかけられなかった。


サクラ

「了解しました。

魔法使いサクラ、単騎で出ます」


一歩踏み出し、振り返らずに言う。


サクラ

「――全部、持っていきますよ」


ナギ

「行ってこい」


その声は祝福でも命令でもなく、

ただ“受容”だった。


次の瞬間、サクラの姿は魔法陣の光に溶け、

戦場の彼方へと消えていった。

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