神の奇跡
王城・回廊。
出陣前。
王国軍の士気は、なぜか異様に高かった。
「よし、いけるぞ」
「なんか負ける気しねぇ」
「祈っとくと安心するよな」
そんな声が、あちこちから聞こえる。
その様子を、少し離れた柱の影から、
ナギは首を傾げて眺めていた。
「……?」
見た目はただの少女。
光ってもいないし、浮いてもいない。
完全に普通だ。
「ねえ」
隣にいたアレンに声をかける。
「なんでさ」
「みんな、あんなに元気なの?」
アレンは一瞬、言葉に詰まった。
「……いや」
「それ聞く?」
セリオが肩をすくめる。
「お前のせいだろ」
「え、わたし?」
ナギは本気で驚く。
「なにもしてないよ?」
「昨日も地図見てただけだし」
「減らすとか言ったけど、言っただけだし」
「その“言っただけ”が致命的なんだよ」
アレンが即答した。
そこへ、書類を抱えたサクラが走ってくる。
「ナギ!」
「兵士たち、すごく士気が高いです!!」
「そうなんだ」
ナギは素直に言った。
「で、なんで?」
サクラは一拍も置かずに答える。
「神がいるからです!!」
「……?」
ナギは完全に理解していない顔だ。
「いやでも」
「わたし、ほんとに見てただけだよ?」
「それが大事なんです!!」
サクラは力説する。
「神が見ている」
「それだけで人は頑張れるんです!!」
「そんな単純かなぁ」
セリオがぼそっと言う。
「単純だよ」
「戦争前なんて、特に」
アレンが腕を組む。
「希望が欲しいんだ」
「理由は何でもいい」
ナギは兵士たちを見る。
祈っている者。
サクラ教の紙を握りしめている者。
なぜか清々しい顔の者。
「……ふーん」
少し考えてから、言った。
「じゃあさ」
二人を見る。
「もし、わたしが」
「本当に何かやったら」
一拍。
「どうなると思う?」
アレンとセリオが同時に答えた。
「やめとけ」
「ろくなことにならない」
サクラは即座に跪く。
「世界が変わります!!」
「極端!!」
ナギがツッコむ。
「そんなつもりないって!」
「ちょっと風向き良くするとか!」
「天気を微調整するとか!」
女王が少し離れた場所から、静かに言う。
「……それでも十分です」
ナギは肩をすくめた。
「人間って」
「大変だね」
そう言って、空を見上げる。
その瞬間、
雲の切れ間から日が差し、
戦場の方角が明るくなった。
「……今の」
「偶然だよね?」
アレンとセリオは顔を見合わせる。
「……偶然」
「たぶん」
サクラは震える声で呟いた。
「神が」
「ご機嫌です……」
「だから違うって」
ナギは首を傾げたまま、笑った。
「まあ」
「がんばってるなら」
「応援くらいは、するよ」
その一言で、
兵士たちの士気は、
また一段階、上がった。
なお――
本人は最後まで、
それが奇跡扱いされている理由を
理解していなかった。




