神ナギ
王城内・軍事会議室。
重苦しい空気の中、地図を囲んで将軍と貴族たちが沈黙していた。
「北方、聖ローマ公国。兵力、およそ十万」
「東部、ザビエル反乱軍。三万前後」
軍務大臣の報告に、誰もが言葉を失う。
「我が国の動員数は最大で七万……」
女王が深く息を吐いた、その時。
「失礼しまーす!」
場違いに明るい声と共に、扉が開いた。
「伝令とお茶と追加資料を持ってきました!」
「あと誰か呼んでました!」
教祖サクラだった。
腕いっぱいに書類と湯気の立つカップを抱えている。
「……なぜ教祖が」
「雑用担当だからです!」
即答だった。
サクラは空気を読まずに円卓の端に立つ。
「えーっと、状況まとめると」
「北が十万」
「東が三万」
「こっちは七万」
指を折りながら確認する。
「……数、足りてませんね?」
誰も答えない。
その時、ふわっと会議室の中央が光った。
「へぇ」
少女の声。
ナギだった。
いつの間にか宙に浮いている。
「じゃあ」
「六万くらい足りないんだね」
「……」
「……」
空気がさらに重くなる。
将軍が苦い声で言う。
「はい、神ナギ様……」
ナギは首を傾げた。
「でもさ」
全員の視線が集まる。
「別に、数って」
「そんなに大事?」
――沈黙。
女王が慎重に口を開く。
「神ナギ様、それは……」
「だって」
ナギは楽しそうに笑った。
「減らせばいいでしょ」
「向こうの数」
「……は?」
サクラが目を輝かせる。
「え、敵を?」
「神パワーで?」
「うーん」
ナギは少し考えて、
「半分くらい」
「初日にいなくなれば楽だよね」
空気が、壊れた。
「半分!?」
「十万の!?」
「軽く言うな!?」
貴族たちが一斉にざわめく。
サクラは感動して跪いた。
「さすが神様!!」
「発想が違います!!」
「いや教祖落ち着け!!」
女王が額を押さえる。
「神ナギ様」
「それは、軍事的というより……」
「神事だよ?」
ナギはきょとんとした。
誰も言い返せない。
将軍が小さく呟いた。
「……我々」
「戦略立てる意味ありますか?」
ナギはにこっと微笑む。
「あるよ」
「後片付けとか」
サクラが即答する。
「それ私の仕事ですね!!」
こうして、
史上もっとも真面目な軍事会議は、
神の一言で完全に形骸化した。
なお、
この後サクラは雑用として
「神の気分次第」という新しい作戦項目を
正式議事録に書き足すことになる。
――誰も止めなかった。




