宗教戦争
王城東区画、旧聖堂を改装した私設補給庫。
薄暗い天井から垂れる燭台の下で、サクラは愉快そうに笑っていた。
「へえ……これ全部、私に?」
並べられた木箱を一つ一つ確認しながら、彼女はまるで贈り物を前にした子どものような表情を浮かべる。
刻印入りの武器、対異教徒用の祝福油、法的免罪を示す赤い封蝋文書。
それらはすべて、彼女が“何をしても裁かれない”ことを意味していた。
「異教徒殲滅権、正式発動かぁ」
サクラは命令書を指先で弾き、喉の奥で小さく笑う。
その笑みには、ためらいも、恐れもなかった。
「ザビエル派は全員対象……いいね。話が早い」
補給官が一瞬、目を伏せる。
だが何も言わない。
彼女がそういう存在であることは、王城では周知の事実だった。
「準備は万全にしておいて」
サクラは軽い口調で言った。
「今回は、楽しめそうだから」
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一方その頃――
王城西端、騎士団詰所の一室。
ナギは椅子に腰を下ろしたまま、机の上の命令書を睨みつけていた。
赤い封蝋は、彼にとって不吉な色でしかない。
「……またかよ」
低く吐き捨てるように呟く。
支給された装備は過剰だった。
高級回復薬、予備武器、緊急脱出用の転送符。
それはつまり、「危険な任務に行け」と言われているのと同義だ。
「異教徒討伐支援、前線偵察、状況次第で単独行動……」
読み上げるほど、気が重くなる。
「サクラは大喜びだろうな」
ナギは苦く笑った。
「……あいつは、こういうの好きだから」
彼は剣に手を伸ばしかけて、途中で止めた。
本当は、剣を握る理由などとっくに失っている。
それでも、命令書は容赦なく現実を突きつけてくる。
「信仰だの、聖戦だの……」
「俺は、ただ生き延びたいだけなんだけどな」
詰所の外から、遠く鐘の音が響く。
王都が、戦争へと踏み出した合図だった。
ナギは深く息を吸い、ゆっくりと立ち上がる。
「……行くしか、ないか」
同じ命令を受け取りながら、
サクラは笑い、ナギは歯を食いしばる。
二人はまだ、互いの姿を知らない。
だが確実に、同じ戦争へと引き寄せられていくのだった。




