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援軍要請
「――伝令を呼べ」
宰相の一声に、控えていた書記官が即座に身を正した。
「サクラ殿、ならびにナギ殿一行へ支給命令を出す」
「武具、金貨、携行食、転送用の補助物資まで含め、即時だ。理由は問わせるな」
一瞬、重臣の間にざわめきが走る。
その名は、この場に集う者たちの多くが知っていた。
表には出てこないが、幾度となく国の裏側を支えてきた存在――
切り札として、最後まで温存されていた者たちだ。
「宰相、それは……」
軍務卿が口を開きかけたが、宰相は静かに手を上げて制した。
「今は非常時だ」
「ザビエルの反乱、聖ローマ公国の動き――どちらも、通常の戦力だけでは対応しきれん」
書記官は素早く羊皮紙に書き付ける。
「支給内容は最上位規格でよろしいでしょうか」
「構わん」
宰相は迷いなく答えた。
「必要とあらば、王城の備蓄を削れ。彼らが生きて動けることが最優先だ」
その言葉に、会議室の空気がわずかに変わる。
誰もが理解したのだ。
この命令は単なる補給ではない。
**国として、彼らに賭けるという意思表示**であることを。
「急げ」
「夜明けまでに連絡を完了させろ」
書記官は深く一礼し、足早に円卓の間を後にした。
その背を見送りながら、宰相は心の中で呟く。
――もはや、後戻りはできぬ。
サクラとナギ。
彼らが動くとき、この国は必ず、大きく血を流すことになる。




