ザビエル詰む
玉座の間は、ひどく静まり返っていた。
壁に掛けられた聖像は撤去されていない。
だが、もはや誰も祈ってはいなかった。
法王ザビエルは、その空白を踏みしめるように歩いた。
香も、聖歌もない。
信仰が消えたのではない。居場所を変えただけだ。
玉座に座る女王は、簡素な王衣を纏っていた。
王冠はある。
だが宗教的な装飾は、一切身につけていない。
「久しいわね、ザビエル」
その声には、敵意も敬意もなかった。
すでに結論が出た相手への声だった。
「……陛下」
彼は跪かなかった。
それが、最後に許された形式だった。
「確認のために呼んだだけよ」
女王は淡々と言う。
「あなたの権限が、今後も一切戻らないこと」
ザビエルは答えなかった。
否定も、抗議も、意味を失っている。
「王都での説法は禁止されたまま。
徴税権も、宗教裁判権も、布教の自由も――すでに終わっている」
「……なぜ、そこまで急ぐ」
女王は少しだけ、考える素振りを見せた。
「私は、サクラの教えを選んだ」
名を、敬称もつけずに呼ぶ。
「改宗、ですか」
「ええ。
神を否定したわけじゃない」
女王は真っ直ぐにザビエルを見る。
「裁かないという思想を、国家が必要としただけ」
「サクラは、人を甘やかす」
「そうね」
即答だった。
「でも、あなたの教えは人を壊した」
沈黙。
「サクラは言ったわ」
女王は続ける。
「『人は、正しくなくても生きていい』と」
ザビエルの指が、かすかに震えた。
「それでは、秩序が――」
「秩序のために切り捨てられた者が、
もう国を支えてくれなくなったの」
女王は立ち上がる。
「あなたの時代は終わった。
それだけのことよ」
「……私は、神に仕えてきた」
「ええ」
女王は静かに頷く。
「でも今、人々が求めているのは――神ではなく、許し」
衛兵が一歩前に出る。
剣は抜かれない。
「最後に忠告をするわ、元・法王」
その呼び方には、わずかな情が残っていた。
「もう一度、裁こうとすれば――
今度は『過去の遺物』として、静かに排除される」
ザビエルは踵を返した。
扉が閉じる。
それは追放の音ではない。
世界が、彼を必要としなくなった音だった。




