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帰還
最下層の奥、
崩れた壁の向こうに、それはあった。
古びた石床に刻まれた、円形の紋様。
淡く脈打つ光が、まだ生きていることを示している。
「……テレポートの魔法陣だ」
シスターが、ほっと息を吐いた。
最下層に存在する帰還手段。
噂では聞いていたが、実物を見るのは初めてだった。
店長が解体した素材を抱え、
私たちは魔法陣の中央に集まる。
「全員、乗ったな」
光が強まり、
視界が白に塗りつぶされる。
浮遊感。
引き剥がされる感覚。
次の瞬間。
鼻をくすぐる、炭火と香草の匂い。
聞き慣れたざわめき。
木の床の感触。
――赤竜亭。
私たちは、無事に戻っていた。
「……生きてる」
誰かが、そう呟いた。
カウンターの向こうから、
血相を変えた人物が駆け寄ってくる。
「ナギ様!」
セリオだった。
涙を浮かべながら、私たちの無事を確かめる。
「本当に……本当に良かった……!」
店長は素材の袋をカウンターに置き、
いつもの調子で言った。
「ただいま」
「あとで厨房、借りるぞ」
状況が飲み込めていないセリオと、
山のような最下層ボス素材。
赤竜亭に、
またひとつ――
とんでもない夜が、始まろうとしていた。




