ダンジョンの仕組み
「間に合ってよかったです。煮ます? 焼きます?」
「……は? なに言ってるんですか」
「ゴブリンです。煮たほうがいいですか? 焼いたほうがいいですか?」
「いや、だめでしょ。シスターが肉食べるのは……」
「私の宗教では肉食は問題ありません」
「そうじゃなくて! ゴブリンは……その……人として色々だめだろ!」
私は震える手で、店長が持たせてくれたサンドイッチを取り出した。
だが――
「あれ……?」
パンは湿って崩れ、具材も黒ずんでいる。
シスターはそれを見て、静かに言った。
「なぜダンジョンに糞便や死体、食料の腐敗臭がほとんどないか、わかりますか?」
首を振る私に、彼女は淡々と続ける。
「ダンジョンは、生命を失った有機物を魔力へ変換します。
魔物も、冒険者の死体も、排泄物も例外ではありません」
「変換された魔力は、新たなモンスターを生み、
またダンジョンそのものを維持する――
それが、この場所の“循環”です」
サンドイッチを一瞥して、彼女は言った。
「それをくれた方は、あなたが短時間で帰還することを想定していたのでしょう」
そして、モーニングスターを肩に担ぎ、はっきり告げる。
「ですが、冒険者として成長したいなら――
モンスターの調理は必須技能です」
「ダンジョンの中では、
“食べられるものを見極める力”も、生きる力ですから」




