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店長一閃
店長は肩に剣を担いだまま、こちらをちらりと見た。
「転送石は高いんだぞ」
軽い口調なのに、妙に現実的な一言だった。
「帰ったら、金もらうからな」
その瞬間、
張り詰めていた空気が、ふっと抜ける。
……この人、
たった今、最下層ボスを一閃で斬り裂いた張本人だよね?
アレンが呆然とした顔でつぶやく。
「命の恩人に、請求書を出す人……初めて見ました」
シスターは胸の前で手を組み、涙目になりながら頭を下げている。
「ほ、本当に……ありがとうございました……!」
店長は少しだけ困ったように頭をかいた。
「いや、別に」
「店の常連が死にかけてるって聞いたら、放っとけないだろ」
――常連。
最下層ボス討伐を、
それくらいの理由で片付ける人間がいるとは思わなかった。
崩れ落ちたボスの残骸を一瞥し、店長は踵を返す。
「じゃ、帰るぞ」
「ダンジョンの後は、腹減るからな」
その背中は、
どう見ても――
世界を救った英雄のものではなく、
いつもの、赤竜亭の店長そのものだった。




