転送
「……ナギ様」
床に伏したまま、
ルミエルがかすれた声を絞り出す。
「私は……教祖様から頂いた、
転送石を……持っています」
震える手のひらに、
淡く光る石。
「ナギ様だけでも……」
「お逃げ下さい……」
ナギは、ゆっくり首を振った。
「……だめ」
歯を食いしばり、
体を起こす。
「私とアレンとシスターは、
そこそこ頑丈だ」
アレンも血を吐きながら、
無理やり笑う。
「だな……」
「まだ、即死じゃない」
ナギは視線を巡らせ、
セリオを見る。
壁にもたれ、
息も絶え絶え。
「行くべきなのは……」
「セリオだ」
セリオが目を見開く。
「は……?」
ナギは叫んだ。
「ルミエル!」
「石を――セリオに投げろ!」
最下層ボスが、
こちらに向き直る。
『相談は……終わったか』
「セリオ!」
ナギが叫ぶ。
「冒険者ギルドに行け!」
「応援を頼め!」
「ここが最下層だって!」
ルミエルは、
最後の力を振り絞り――
転送石を、
セリオへ投げた。
「……必ず……戻ってください……」
石が、
セリオの胸に当たる。
光が、弾けた。
「ちくしょう……!」
セリオの声が、
光の中に消える。
次の瞬間、
セリオの姿は消失した。
残された三人。
最下層ボスが、
ゆっくりと笑った。
『数を減らす判断は……正しい』
ナギは剣を握り直し、
血に濡れた床に立つ。
「……それでも」
「時間は、稼ぐ」
ルミエルは、
かすかに微笑んだ。
「はい……」
「それが……料理の前準備です」
絶望の中で、
最後の防衛線が――
張られた。




