静かな一日
朝は、カーテンの隙間から差し込む光で始まった。
目覚ましの音はない。誰かに呼ばれることもない。
部屋が少しずつ明るくなり、夜が終わったことを知らせるだけだった。
彼はしばらく目を開けたまま天井を見てから、ゆっくりと身体を起こした。
机の隅に置かれたパソコンは、昨夜のままスリープ状態で、小さなランプが淡く点滅している。
扇風機が一定のリズムで回り、外からはまばらな車の音が聞こえた。
すべてが、いつも通りの位置にあった。
顔を洗いに立ち上がる。水は冷たく、鏡は少し曇っている。
特別に確認することは何もなかった。
机に戻り、パソコンの電源を入れる。
画面が、いつもよりわずかに遅れて明るくなった。
新しい通知はなかった。
それで気分が沈むこともない。
作業中のプロジェクトを開く。
保存されていないファイルが一つ、画面の端に残っていた。
数行のコードを読み返し、小さなミスを直して保存する。
軽いクリック音が鳴る。
彼はその音に慣れていた。
物事が、とても小さく、とても静かに前へ進む感覚にも。
時間は、区切りなく流れていく。
彼は原稿のほうにも手を伸ばした。重要な章ではない。
文章を少し整え、余分な一文を削り、短い一行を足す。
今すぐ完成させる必要はなかった。
ただ、触れておくことで、自分がまだここにいると確かめる。
気づけば、同じ姿勢のまま長く座っていた。
立ち上がり、キッチンへ向かう。
朝食は簡単なものだった。パン一枚と、水。
ゆっくり食べる。スマートフォンは見ない。
返す必要のあるメッセージは、ない。
机に戻ると、光の角度が変わっていた。
太陽が高くなり、机の端を照らしている。
彼はカーテンを少しだけ引いた。
画面が見やすくなり、作業を再開する。
ビルドが通らないこともある。
ログを読み、エラーの行を探し、修正する。
もう一度実行する。
今度は問題なく動いた。
彼は特別な反応を示さなかった。
こうなるべきだった、という程度の納得だけが残る。
昼になって、ようやく空腹を自覚した。
画面の時計が時間を示している。
外へ出て、いつもの店で食事を買う。
多くを注文する必要はない。
持ち帰り、ひとりで食べる。
料理はすぐに冷めたが、最後まで食べきった。
昼の時間は、ほとんど音もなく過ぎていった。
ベッドに横になり、完全には眠らず、目を閉じる。
白い天井には、数えるものが何もない。
しばらくして起き上がり、再び机に向かう。
午後は、午前とよく似ているが、少しだけ遅い。
音楽を流し、止め、また流して音量を下げる。
結局、そのままにした。
他の誰も気づかないような細かい部分を整える。
行間。
同じ言葉の繰り返し。
少し長すぎる一文。
ふと、窓の外を見る。
空の色が変わっていた。
特別な出来事は起こらない。
ただ、光の向きが変わり、影が長くなる。
ファイルをもう一度保存し、新しい名前を付ける。
誰かに送って確認してもらう相手はいない。
それでも問題はなかった。
仕事はそこに残る。
見られなくても、消えるわけではない。
外が暗くなり、彼は立ち上がって灯りをつける。
黄色い光が部屋を満たす。
机の上を少し整え、パソコンの電源を切った。
画面がゆっくりと暗くなり、ランプが消える。
夕食も簡単に済ませる。
皿を洗い、乾かす。
動作は決まった順番で進む。
考える必要はない。
眠る前、ベッドに横になり、もう一度天井を見る。
今日という日は、昨日と大きく変わらなかった。
明日も、たぶん同じだろう。
彼は灯りを消した。




