限界現実
今や学生のほとんどが始めるアルバイト。その大半は塾講師と飲食系に分かれる。塾講師とは塾生に勉強を教えることを主業務とし、中には進路面談や書類管理等まで行うところもあるらしい。もう一つの飲食系、これは簡単に言えば接客と調理である。先輩の主婦さんや社員さんに丁寧に教えてもらいながら調理スキルや接客スキルを高める。中には両方を必要とする店も少なくない。そんな飲食業界だが、人手不足が大きな問題となりつつある。いや飲食に限らず社会的にそうなのだろう。だが、特にブラックだと言われるのは飲食業界である。ワンオペの廃止や安全対策等が積極的に進められる一方で、最低賃金の底上げが企業利益を蝕んでいるのが現状である。これは飲食店でアルバイトを始めた学生が見た、リアルな飲食業界の一部を書き記すものである。なお、本作では特定の企業や飲食店の批判、政治的発言を意図したものではないことをご承知の上、読み進めていただきたい。
「いらっしゃいませ。そちらのタブレットからご注文をお願いします。」
今日もお店はにぎわっている。家族連れから年配の方までが訪れるファミリーレストランカイツ。私はそこでアルバイトをしている。始めてはや4ヶ月。だいぶ仕事に慣れ、スムーズにこなせるようになった。私の担当はホール。接客がメインで、料理を出したりお客様の要望に柔軟に答えたり、調理場とのパイプ役になったり清掃を行ったりと、盛りだくさんである。
「すみませーん。」
「はい、ただいまー。」
今日もハードなランチタイムであった。
激込みのランチタイムを捌ききり、私は更衣室へと向かった。今日のシフトはここまで。後は次の方々にお任せするのだ。
「今日もお疲れ様。」
そう声をかけてきたのは店長。柔らかい物腰でいつも私を労ってくれる。
「お疲れさまでした。」
優しそうな店長は、事務所にいるときや少しゆとりがあるときに見られる。基本ハードな時間が多い飲食業務で店長ともなればその負担は計り知れない。その時の彼は大体目がキマっている。そんな感じで彼はいろんな人にあまり好かれていないらしい。だが私はそんなことは思わない。機嫌が良いときは普通に優しいし面白い。だから私はシフト終わりに結構な頻度で彼と少し会話をするのだ。
「今日は結構混んでますね。」
「うん、今日は目標金額達成できそうだな。よしよし。」
「じゃあお先に失礼します。」
「うん、お疲れ様―。」
ご機嫌そうな店長を見納め、私は帰路につくのであった。
店長とは知らぬ間に仲良くなっていた。だが、他の人とはあまり仲が良いわけではないらしい。よく分からないが就活も迫ってきていることだし、巷でやばいやばいと言われ続けている飲食業界の内情を少し探ってみることにした。
ある日、いつものように業務を終え、店長と話す機会があった。
「先月もお疲れ様ね。」
そう言われながら手渡されたのは給与明細だった。
「ありがとうございます。」
ここで私は気になったことを単刀直入に聞いてみることにした。
「飲食ってブラックブラック言われてますけど、実際どうなんですか。」
「いや~ブラックだよ、とっても。」
思ったよりはっきり返答が返ってきて驚いた。
「俺なんか先月30日のうち、28日出勤だったよ笑。で残業代なんて出ない。社員より君らの方が給料高いからね~笑。」
自虐的に笑いながら話が弾みだした。なんと社員はアルバイトよりも給料が少ないのか。もちろん時給換算ではあるが。
「え、まじですか。」
「ほんとほんと~。計算しちまったんだよ~。時間数で給料割ってみたんだ。そしたらなんと!400円ちょい!笑っちまうだろう?」
なんと残業代が出ないところに全ての原因がありそうな気もしないでもないがなんと社員さんは時給400円で働いていることになるらしい。最低賃金は機能していないんだなと強く感じたのだった。
この世界は無常だ。頑張ったら頑張っただけの対価を得られる。それが資本主義。だが、経済はずっと落ち込んでいる。失われた何年とよく言われるが、まさにそれだ。最低賃金は毎年引き上げられているが実際支払われているのだろうか。アルバイトの時給は上がっている。だが社員はどうか。企業利益が失われつつあるのだろうか。機能していない制度ほど無意味なものはないだろう。そう感じてしまうのである。この社会は大丈夫なのか、このままでいいのだろうか。この現実という空間は、社会は、限界を迎えつつあるのだろう。だが誰もがそれに目を向けようとはしない。この社会は変えようとしなければ変わらない。だが誰も変えようとしないのだ。変えたことで起こる何かにおびえているのだ。いや、面倒くさがっているのかもしれない。
今を生き抜くためには働かないといけない。だが、給料が少ない。生きていけない。さらに働く。だが、給料は増えない。生きていけない。今を楽しく過ごすためにもっと頑張らないとと考え、より働くようになる。だが、給料は足りない。そんな限界を超えた生活、楽しいだろうか。皆が幸せになれる社会は何処に行ったのだろうか。
そんな社会はもう来ないのかもしれない。ならば今を楽しんで生きよう。労働だけに縛られず、今あるもので幸せを見つけてみよう。労働でつらい毎日を送るよりも、今の生活に一つでも楽しさを見つけよう。そうすれば生きる意味、希望が出てくる。幸せはいつだって見つけられる。あなただけの幸せを探しに行こう。この限界現実を生きるために……。