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【第八話】刻が未来に進むと思ったのか!(1)

 言うまでもなく、と前置きするまでもない常識的コモンセンス案件であるとは思うのだけど念の為に言っておく。時間は常に進み続ける。


 自分で言っていて『何を恥ずかしい事を言っているんだ俺は!』と若干の後悔が出てしまうほどの当たり前であるが、今俺の…正確に言えば俺達の中でその観念が危機に晒されている。そしてここは地下、このままではあと数時間もすれば『時間は進むもの』という考え方すら崩壊しかねないのだ。


 その原因は何故かと訊くのならば、少し嬉しい事に俺は全ての根源的な完璧なアンサーを持っている。

なんでこんな事を書く羽目になったのか、何故こうなったのか、その原因は一つ。

              時計が壊れそうだからである。


 「あ、また止まった」俺に喜んで知らせる意図はなくとも自然と言葉はそんな調子になる。


「もう寿命だな…」

諦めの雰囲気を感じさせながらもフルトーさんは腰を上げて、棚の置き時計に向かい、それのネジを回す。


「拾い物だしな…」

「拾い物ですか…」

昨日の晩から定刻を知らせる鈴の音すらも不協和音になり、ただでさえ木箱の上という史上五番目に不快なベッドで身を横にしているのもあり、いよいよ注目せざるを得なくなった。


 どうなったと俺も立ち上がって時計の針を見ようとした。けれど一見順調そうに見えたその回転運動は夏休み中盤のやる気のようにぎこちなくなり、とうとう動きすら止めてしまった。これは先生に怒られる。


「何年動いてるんです?」

「拾ったのは八十年前だが、それより前から動いていただろうから…もうしょうがないだろうな」


 八十年前、その年月の重みを考えれば時計への見方も多少変わる。

劇場の模しただろうその姿は既に塗装も装飾品も劣化し、精々中心の時計盤と舞台上に置かれた人形だけが当時のままなのだろう。実用品でなく、道楽やらの嗜好品であるのは明らかだ。それでよく八十年前も動いてこの程度の劣化に抑えた、と俺の心の中ではその置き時計に敬意を払い始めた。


「拾い物にしては…なんて言うか凝ってますよね」

その言葉を標的であるフルトーさんは棚の近くに置かれていた工具箱から道具を取り出し、一応の修理を試みていた。


「多分観光気分で迷宮(ここ)に来た奴が持ってたんだろう。近くにいた従者っぽい奴の死体の身なりもそこそこ良かったからな」


修理しようとはしていたが、仮面越しからでも判るほど乗り気ではないようで、比較的楽し気にそう答えてくれた。買い換えようと思い、どうしようかと思う瞬間が結局一番楽しかったりする。


なんだろうな、あのワクワク感。


「…うん、諦めよう」

彼は潔かった。道具を工具箱に戻しながら上を向いて、この後どうしようか考えた。


「…また拾いに行きます?」

「そうやって新品を手に入れられればいいんだが…」

そう上手くはいかないと解っているからか、あくまでそれは最善で、本命は修理できる事であるらしかった。


 昨日のように最初から戦いに行くわけではないので、俺も彼も比較的軽装。


武器も初日のように短剣と戦斧、俺は槍 ―一応は杖として使うつもりだ。


「どこに行くんです?」

「人がいるのは上層だが、そっちに行くと賞金稼ぎやならず者が多くてな、不都合がある。だから下層だな」


って事は昨日と同じく下る感じか。

―どこまでだろう? ここは迷宮(ダンジョン)、地下だ。下るには限りがない。


「…思い切って第四帯まで行くか」

「二日連続ですか…」


昨日は正確に言えば第十九層―第四帯とは第二十から二十三層のことなので、寸前ってだけだけど。


「昨日は狩りを念頭に置いて動いたつもりだが、今日はあくまでも探索だ。そう戦う機会はないだろうし、まぁ大丈夫だろ。それに―」

「それに?」

「…リールスに色々と教わったろ?」


「―」

その名を出されると色々と思うところがある。


 リールス―苗字も知らない、それが本名なのか判っていない半トガリ耳(ハーフエルフ)の暗殺者。

顎のラインと協調するように切り揃えられ、可愛らしい眉を隠さない金髪と翡翠のような緑の瞳。そして握り返すこともなく払ってしまった芯の温かい手…彼女を思い出すどれもが苦々しく、けれども甘い感覚を覚えるものばかりだ。


 それはきっと、きちんと思い出が経験として糧になった証でもあるのだろう…


「まぁ、ちょっとは」

「…上出来だ。昨日と同じ装備をしろ、戦ってもいいようにな」

言葉の調子からして俺はあんまり戦闘要員として期待されてない。寧ろ、そうじゃないとまずいんだけどさ。


 倉庫の扉を開け、中に置いた作業着を着て、杖を持つ。


 …昨日は岩潜亀竜(ロヴァトーカ) ―デカブツを運んだ時に刺さって痛かったので、今日は手袋の上からそこらにあったグローブを重ねて装着する。

それは親指から中指にかけて革製で、薬指と小指の部分はまた別の布かなにか―かなり通気性のいい素材で出来ている。


昔家庭科の授業で使ったミトンよりも薄いが、かなり手になじむ。違和感はなく、都合のいい事にサイズも問題ない。きっと下にもう一つ着けているから多少誤魔化せているだけで、実際は問題あるんだろうな。

…だとするとこのグローブ、心なしか指が細い感じがするけど。設計の欠陥はまぁ、あるさ。


「その手袋…どこにあった?」

倉庫から出て杖がちゃんと"変形"するか確認していると、俺の準備を待ち、近くで座っていた彼は例のグローブが目に留まったらしい。

「えっ?」


まずかったの?―それに似たいくつもの不安の言葉が脳裏に浮かぶ。しかし、問い詰めるようでも諌めるようでもないので、きっとただ確認しただけだろう…切にそう願う。


「そこの倉庫に…皮鎧の隣あたりに置いてたので…すいません今外します」

「いや、いい。着けてろ。槍で刺す時、指痛いだろうしな」

どうやら問題はなかったらしい。しかしどうも反応が気にかかる。


 確認の途中、昨日は見られなかった部品が見つかった。

持ち手っぽいというか、にしてはスライドするからあんまり役に立たなそう…


「フルトーさん! この筒っぽい部品、フルトーさんが取り付けました?」

「あ゛? ―あぁ、俺がやった。不都合なら固定して動かなくしてもいい。いずれ役立つと思っての工夫だったんだがな。そこは使用者のお前に任せる」


…さっきから意味ありげだなー、この感じ。

彼の事だから絶対なにかしらの作戦とか策があるんだろうし、それに則っての行動だろう。知識ない俺がどうこうするのもアレだし、変にいじらずにフルトーさんのやったままにしておこう。

 

 どうにもならないモヤっとした予感と共にそう心の中に書き留めて、今日の冒険が始まった。

【ひとこと】

 危機感と言うか、月末の土曜00:10に投稿する今のペースだと一年で十二話という驚異のダラダラだったので、もっと切り分けて投稿しようと思います。

今日は雨でした(小並感)


至らぬ点ありましたら、どうぞご意見お願いいたします。

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