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【第六話】僕らはみんな生きている(中)

 ラク・ロゥは初めて自らの手で命を奪ったロヴァトーカを運ぶ。

その最中、暑さによって焦燥感を煽られるが恩人であるフルトーから一喝され、

ようやく冷静さを取り戻す。そしてまた、彼は歩き出す。

 岩潜亀竜(ロヴァトーカ)の死体自体にも凍結魔法を使い直し、今度は無理に急ごうとはせずに適度に進む。一歩前に踏み出して、綱引きのようにタイミングを合わせて後ろの足も前に出す。

言ってしまえばこっちが侵入者なので文句も言えないが、たまに道の真ん中で水たまりのような横断した時に残された溶岩があって、脳が危険信号を出す事もある。

「右?」

「左だ。お前のいるそっちの方が若干広いが、来た時に歩いた感覚では脆い感じがした。多分重量を偏らせれば一部が砕けて、お前の足先が溶ける」

彼の言う事が本当なら、左に避けるべきなんだろう。けど左は幅が狭い、綱渡りみたいになるんだろう。はっきりとキツイだろう、けどフルトーさんなら無理じゃない。

「任せます」

「あぁ」

彼は勿論と言わんばかりにすぐ答えた。

 こんな調子で道中は立ち止まる事はあっても必ず進んだから、来た時と比べると割と時間はかからなかったと思う。その理由として多分さっき喧嘩を売ってきた大男、ヨアレスの影響もあったんだろう。彼が暴れてそこらじゅうの魔物や魔獣を殺していったおかげで、この階層にいるそれら―少なくとも整備された道に近づくような個体は怯えてるというか、警戒していて慎重になっている。だから余計な事をしなければ、特別問題が起きない。

「止まれ」

制止したフルトーさんの視線が突き刺さった場所はさっきそのヨアレス達と喧嘩した小道の入り口、それ自体はなんてことはない。けれどどうにもその方向から聞こえる音には違和感があった。自分で行ったからこそ判る歩きにくさ、だからこそ異様と思える進みの速さ。一匹じゃないと知らしめる遅いが重なる行進しているような足音、そしてそれに混じる鈍くなにかを踏み潰したような音。声のようにも思える(うな)るよう鳴き声…どんなやつが来ているんだろう。どんな生物がこちらに向かっているのだろう。そう思っていたが相手を見れば、彼が止まれと言ったのが何故かと、言葉の理由を考える必要なんてなかった。

 朽ちた鎧や兜を外さず、鋭さのなくなった(なまく)らな武器を腱の切れた糸のようにか細い腕で振り子のように動かす彼らの姿は皮膚の間から脂肪が溶け、皮が腐り破け、血液が流れる事もなく爛れて穴の開いたそれはもはや―直感で理解できる、あれはもう()()物じゃない…

不完死屍(アンデット)…あんま呼吸すんな、発してるガスが肺に入ると腐るぞ…」


中学生の頃に京都の小さな寺で見た『九相図』ってやつを思い出した。死んでから白骨化するまでの様子を描いたもので、こいつらはきっと三番目の『血塗相』に近い。そんな奴が遠くでも視界の端に映ってみろ! 混乱と緊張で溶岩洞で熱せられた体にひやりとした汗が背骨に沿って流れ、蒸れた脚まで伝い、かかとに落ちる。それが過ぎた時には汗に撫でられた場所はレールになったかのように鳥肌が立つ。額から出る脂汗は目がしらに溜まり、もはや自分が泣いているのかすら分からない。

 しかも一体じゃない。群れてるわけでもない、狩りの成功率を上げる為に―餓死しない為に集まっているのではない。貪る為だ。ある手は皮膚を剥ぎ、ある爪は肉を裂き、ある歯は骨を削り、そこには人間だった筈の塵しか残らない…

 泡沸大蛙(ウェボロック)岩潜亀竜(ロヴァトーカ)も生き物だった。生物だった。そこには生態があって営みがあって、そういうものだと納得すれば殺しに恐怖は覚えても存在そのものに恐怖は覚えなかった。だがこいつらは違う!

死んでいる…何の意味も目的もなく、ただ生きようとするある種の言葉にできない高潔さすらない。今まで見てきた魔物・魔獣にはどこか共感できた。だがこいつらは無理だ、獣じゃない、怪物だ…

「…っ!…っ…ぁ!」

恐れろと、冷静になれと叫ぶ心はあっても、どこにも大丈夫だと言う心はなかった。表も裏も、建前も本音も、深層心理を漁ったって、どこにも安心や慰めを言う心は存在しなかった。

理屈を屈服させる圧倒的な恐怖?…いや、少し違う。強いて言うなら()()()だ。自分の知るどこにもそれに安心できる要素を探せない、『こうすれば対処できるから安心していい』と諭してくれる存在が自分の中には絶対にいない。だからこそ生まれる恐怖すら吞み込んだ《奴は化け物だ》と叫ぶ危機感が俺のニューロンを支配し、脳細胞を震え上がらせていた。

「…ぁっ!…ぁッ…!」

「黙れ」

俺の乱れた息を静止させるようにフルトーさんは右腕を首にまわし、そこから俺の口をふさいだ。

「…どうせ足止めだ、岩潜亀竜の死体(こいつ)を下ろす。ゆっくりな。そしたら息を整えろ、落ち着け」

彼の言葉が耳に入ると、心なしか詰め込められっぱなしだった息も次第にほぐれて、意味を理解できる頃には呼気も少し穏やかになった。

「…はい」

慎重に肩を下げて、腕の位置を下ろし、手を傾ける。銛の柄の端が地面に着くまで安心はできない。

「…」

「…?」

地面にしっかりと着くのを確認する為かフルトーさんは手を俺の方に突き出し、『退いてろ』と示すようだった。

だがそうではなさそうで、地面に着いた柄の上に手をかざすと、溶岩洞の時に俺達にまとわせたような"冷たい膜"を張った。その膜には次第に花のような霜が浮き出て、いつしか氷塊が杭のように地面に突き刺さっていた。

 そのあとはただ息を殺すだけだった。筋繊維の一本まで意識を張り巡らせ、歪みやたわみのないように体を自制する。そうしていれば不思議と自分の体が石になったように、辛くなかった。そうやって自分が機械の操縦士のように思えるまで、ただ息を殺すだけ…ただ息を殺し、そこに()()していればいいだけだった。

…それで良い筈だった。


 「グォァッキ…」

鳴き声、それも近い…誰だ?なんだ? いや、もう解ってるだろ。目の前にいるんだ。

「グォァッッツキ!」

踏み潰されたゴキブリの足が死してなお動くように、今、止めを刺した筈の岩潜亀竜(ロヴァトーカ)の口からえずくような音と共に溶岩が吐き出され、それに連れられたように氷塊がベキベキと音を立てて崩れ去った。そしてそれは同時に危機管理能力が正常に動作している証明にもなった―これはヤバイ!


 アンデット共の反応は早かった。

ショットガンに撃たれてビビったエンジンがすぐにかかるように、骨さえ剥き出しになった体はほどけた筋肉を機敏に動かし、自らの傷を顧みない一心不にこちらに走った。

「チッ…!」

けれど、軽い舌打ちをしただけでフルトーさんの動きも早かった。

今までせき止めていた岩が除かれた滝の流れを受けた水車のように、静止していた腕が力強く動かし、背負った斧を遠心力を活かして振った。

 まずは一体、返す刀でもう二体。わずか二秒で既に三体…しかしそれだけでは氷山の一角を削ったに過ぎなかった。

「…感染(うつ)ってやがる…」

元々いたのが何体だったのか? それは装備の劣化具合から多少は推測できる。大きく分けて多分三つ。

 朽ちかけた服を着た肉のほとんどが落ちた個体。歯や指の大部分が欠損している。多分コイツがオリジナルだろう。

 次に鉄製の装備に錆が見られる連中。骨が暴かれている部分は少なくても一部が吹き飛ばされていたり、斬り飛ばされていたり…最初の被害者なんだろう。

 最後にほとんど腐敗すらしていない連中…なんだか生前の顔が見えるからこそ、裂けた肉の合間から見える骨や焦点を合わせる事を放棄した濁った眼が痛々しくて仕方ない…だが、

「んなもん…今はどうでもいい…」

だって、今は俺達を襲う敵に過ぎないのだから。被害者だからとか、そういうのはちゃんと死んでから言ってくれ!

 敵を見るだけじゃない、今見るべきは自分の手だ! 銛は―槍は岩潜亀竜(ロヴァトーカ)に刺さったまんまだ…武器はない。こいつらの相手をする前に、自分すら守れない…

ヨアレスの時の暗殺者相手のように、松明の炎がうやむやに燃やしてくれればいいけど…そういえばアレは―両手を使う為に火を消して…フルトーが持ってる?

「フルトーさん松明!」

「腰、左!」

言われた通りの場所に携えられていた松明を引き抜き、手に持つ。

「戦おうと思うな、時間稼ぎに徹しろ」

「はい…」

彼のその釘は自分でも打った場所に刺さった。二度目の傷はいっそう深くに突き刺さった…身に染みて分かったってもんだ。

 距離を保つ―前には行けるが、後ろには退けない。

それさえ意識していれば良いわけではないけど、時間稼ぎだけなら…ドッチボールの要領でやりようがある。

「えっ…!?」

…まぁ、それは人間相手の話であって、死体相手では破綻した論理だった。所詮は棒、信頼も勝算もある訳もなく、不完死屍(アンデット)のリミッターの外れたとは言え適当に振られた腕には瞬殺でボキっと折れた。やっぱり、俺はいつでも失敗してから失敗と知るんだ…

 やっちまったと後悔しかけた次の瞬間「…持っとけ」…そう吐き捨てるように持っていた斧を地面に突き刺すと、彼は自身の籠手をまとった細長い指を琴のように整えた。

 一瞬、俺の頭の中で悪知恵が働きかけた。

動かせもしない大斧を振るえと、身を超えるそれで身を守れと。

…理屈は理解できる、けどそれだけだ。万が一…いや、億に一と賭けるようなものだ。とても安全牌とは言えない。しかし、それでもこの身を障る恐怖の指を忘れる為に、俺の手は自然と突き刺さったそれに向かってみた。

…やっぱりか、失望というより案の定―ログインボーナスで回す無償単発ガチャ並みの期待値だったので、流石に口は奇妙な笑みを浮かべていた。

 敵は目の前まで迫る…存在意義と共に容赦の失われた指に皮膚が引き裂かれるのを想像する。どんな感覚だろう? 指と言っても爪があるからな、引き裂かれるというよりは抉られるのに近いのかな…

 すると突然、悲観的な妄想から現実に引き戻すように連続した音が聞こえた。

それは肉が裂ける鈍く、けれどそうとは思えない程スパリと何かが千切れる音がした。そしてそれは自分でも驚くほど何の抵抗の抵抗もなく耳の穴に入り込んだ。受け止めろと、何かが囁いているようでもあった…自分の事ではありえない不安がした。

「フルトーさん!」

まさかと思って敵から視線を外し、背後を振り向く。しかしもう遅かったのか、突然飛んできた血が額にかかり、汗のように鼻筋を沿って流れていった。

鳥肌が立った、まさかと、万が一にはと、一瞬不安よりも絶望の方に小さな天秤が傾いたように思えた。けれど同時にそれが誤りだと否定する材料も手に入れていたのだ。冷静になればすぐに分かった事だが、背中合わせ筈の彼の血がこっちに飛ぶなんてありえない。

 眼球は見た。灰を見た。バチバチと連鎖反応して現れた火花を。子を生み、孫を生み、群れを成し、遂には全身を覆う大火を!

「どけッ!」

近付いていては不味い!それがどうだかを知っている、知っているからこそ予兆に過ぎない火花に危機感を煽られる! 落雷の魁のようなものか、神経信号が100A(アンペア)の電流のように全身を駆け巡り、俺は不完死屍(アンデット)の壁に頭突きをしてまで彼から離れようとしていた。

何故なら、何故ならば彼の使おうとしている魔法は―

「…《不尽世炎(プロメア)

静かに唱えられた呪文は『人体発火』を意味する…同時に聞こえた音の正体が判った。あれは貫き手の音だ、奴らの体に風穴を開けた時の音だったんだ。

 彼の細長い指から放たれた矢のような貫き手は落ち切ってもおかしくない不完死屍(アンデット)達の血を体から盛大に吹き出させ、湿気った薪のような奴らを爆炎が包み込むのには然程に時間は必要なかった。

 奴らを巻き込み、大きな焚火のように燃え広がったその炎は或る種神秘的のようでもあり、今や魂を閉じ込める檻に過ぎなかった奴らを―人として火葬したように思えた。

その炎の吹かせる風は怯え、警戒していた魔獣達すら見惚れるほどだった。

それは、勿論俺も同じだった。…けどそれは目があるからこそだったらしい。

何が起きたかを把握するよりも早く、背後から伸びた生温かい死臭のする指は俺の首を撫でるようにしがみつき、鳥肌の少し治っていた皮膚に剥がれかけの爪を突き立てた。

「ひっ!」

不完死屍(アンデット)は理性のない行動をする、だからといって必ず目立ち、意識から外れることはないという先入観があったからの油断なのか。いや、きっとそれは正しい。目立ってはいたんだろう、けれどこの炎だ。どんな化け物でも見劣る存在感だった。

「ロゥ!」

俺の怯えた声にフルトーさんが気付き、その手を伸ばす時には既に奴の土のこびりついた爪は俺の皮膚を突き刺し、筋肉の繊維を切っていた。


 「君は強いね、もっと叫んでも良い筈だよ」

居る筈のない―居たとして知る筈のない女性の声が走馬灯を流す為に情報を一時閉鎖(シャットダウン)していた聴覚を撫でる。

「けど経験不足かな、振り向くなら目の前を見てからだよ」

からかうような笑う調子のそんな言葉と共に、いつの間にか斬り飛ばしていた不完死屍(アンデット)の―さっきまで動いていた筈の奴の頭を手に乗せ、俺に見せてみせた。

「あっ…」

「大丈夫、敵じゃないから」

自分でも内容は考えていないけど何か訊こうとしていた声は彼女の『ストップ』と言う手で遮られた。

「今はね」

正体不明な上機嫌を引き連れてきた彼女は顎に合わせるように切り揃えられた綿毛を紡いだような金色の髪を掻き分け、翡翠を太陽に翳したような緑の瞳でこちらにウィンクしてみせた。

「ァー…」

彼女が視線を俺からフルトーさんの方に逸らした時には既に彼の炎は鎮火しかけてたが、彼の突如として現れた彼女への疑念を示す言葉は未だ炎の檻の中で閉じ込められ、しっかりとは聞こえなかった。

「そうだよね、名乗ってもいないのに捲し立てるように言い続けてすまない」

ぺこりと妙に素直に頭を下げる彼女、その顎をフルトーさんは杯の傾けるように持ち上げると吟味するように彼女の眼を凝視した。

「…まぁ、強制はしねぇよ。お互い仕事柄だ」

どうやらOK判定が出たらしい。

 

【あとがき!】

 初音ミクとガンダムのコラボを知ってますか?

古のイニシエーション『半年romってろ』を実践した個人の感想では面白そうな反面、食い物コンテンツ二大巨頭という何かバンダイの伏魔殿にでもなっているのではないかと勘繰るっていました。

それはそうと、このイベント最大の目玉はこの男!『ガンダムサンドロック』!

クソデカショーテルと機能不全な盾が砂埃でも目立つガンダムWウィングの優男!

彼が遂に全身にスピーカーだのを巻き付けた『ガンダムサウンドロック』として再復活する…

と思っていたのに、何ぁんだあの体たらくは!

改造されてもマント背負ってきただけの中二病患者に期待した私がバカだった!

サンドロックお前…ポケモンコラボの時のジャラランガかよ…?

「みんなお前に期待してたんだぞ!」とこの日の為にアゴを外したドゴームと大器晩成型の名目の取得に成功したオンバーンの悲鳴が聞こえるような有り様でした。


 至らぬ点ありましたら、どうぞご意見お願いいたします

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