【第五話】僕らはみんな生きている(上)
「腰のあたりにあるだろ、ポケット」
言われる通りに場所を探ると、何かが手に当たった。
「手袋…?」
「ちゃんと握れる為にだ。勿論俺もやるが、下手にやると肩イカレるぞ」
そうか、ここで捌かないのなら、拠点に持って帰えらなきゃ。
狩った亀みたいな竜―岩潜亀竜の腔内に槍を突き刺したまま、更に槍に変化を加える。
杖から槍に、そして槍から銛に。渡された最初から、なるほどこの想定だったのか。
「3、2、1!」
何語!?多分現地の言葉だとは思うけど、その意味は多分とっさに判断できるようなものではなかった。
「うぉぉぉ!?」意味は判らなかったが、何かの合図だと思い綱引きのように銛を引っ張る。
すると一瞬とはいえ岩潜亀竜の体が宙を舞い、その一瞬の後、岩潜亀竜の腹の下には何故か氷が現れていた。
「《大凍》…魔法で氷を造った。これで多少は滑って運びやすくなると思うが、環境が環境だ。長くは保たないぞ」
だから急げ、という事か。何にしても、今いるのは溶岩洞だ。長居に適している場所なんて言えない。
氷の効果はあって、流石に完全に軽減というわけではないにしても、壊れかけの車輪がついた程度には
そこそこ楽にはなった。けど自分の身は自分がよく知ってるという理屈で言うと、これでもまだ不安ではある。
なんせ溶岩が近くで流れてるんだ、岩が溶け、そして詰まらずに流れ続けている。その温度はどれほどだろうか? きっと尋常じゃない。数百…ひょっとしたら数千度? わかってもしょうがない事だが、今俺のいるこの場はその影響を存分に受けた―蒸し風呂と形容するのも生温い。その生温さが今肌に伝うのなら、きっと存外快適なものになるだろうと―この汗すら蒸発する場においては。
早く、一刻も早く、一秒でも惜しい、早くこの場から離れなければ。
そう急ごうとしても足はふらつく。ふらつく足を律するように地面を見れば、ダンボール程は厚かった氷塊はクリームにでもなったかのように滑る度に磨り減り、既にほぼ雑誌一冊分程度まで薄くなっていた。
「…!…っ…んっ…」
危機感を覚え、動かない突き刺さった枝のようになった腕を引く。初めて汗が手袋の中に溜まり、水風船のようで、銛の柄すら掴めず、度々手が離れる。
「…っ!…だぁクソッ!」
また滑る。今度こそはと銛から片手を離して、その手に着けた手袋を歯で噛んで掴み、外す。
土や埃を舌で舐め、思っていたほどの汗すら溜まっていなかった怒りを噛む。反対も例外はなかった。
「ちっ…あぁ!…」
もうほぼ自暴自棄気味に再び腕を引き寄せるように肩に力を入れる。
すると「待て」とフルトーさんの声がかかる。
「はぁあ…?」自分でも驚くほど応える声は怒りを連れてきた。「…なんです…?…早く、早く行かないと!」こう、"普通"と思っても自然と怒号のようになってしまう。
それに対するフルトーさんの口調は冷ややかなもので「行ってどうするつもりだ?」と訊いてきた。
「どう?…どうって…」"普通"でも戸惑うだろう質問に、熱さで暴走している脳がうまく噛み砕けるわけもなく、なくなっていた思考の余裕に無暗にその問いに対するものだけが膨張する。
「このままやたらに力を入れて急げば、お前は確実に腕を機能不全く。そうなれば尚足手まといだろ、そうなったらどうするつもりだ?」
「…でも」
「生きるってのは今を頑張るって意味じゃねぇ、一秒先でも―常に未来を考えて行動する事だ」
彼が俺の醜い弁明を許すわけもなく、鋭く言葉を遮る。
大人しく認めればいいものの、今はそんな事すら判断できない。
「…じゃあ、ずっといつもそんな後ろ向きに生きろって言うんですか!? 何が良いんです!それで!」
「人生が希望だけ詰められたものだと誰が言った? 人生なんてただ時間と理不尽があるだけだ、それを最善に近づける必要がある。自分の手でな」そう言って彼は扉をノックするように俺の胸のあたりを小突く。
作業着にあたるポンと軽い音の聞こえた後、ほどなくして体中に薄い"冷たい膜"が形成された気がした。
「お前は知ってるだろ?ちゅーた。『魔法は脳で考え、心臓で、指で放出す』―魔法の基本だ」
体の小さいちゅーたはその冷気の回りが早かったのか、俺より早く活力を取り戻し、俺の肩の上で調子よく「ちゅー!」と鳴いてみせた。
彼自身も両手それぞれの人差し指で首の横を三回叩くと、"冷たい膜"を造った。
「だから後悔しろ、改善点を見つけろ。そしてそれを消せるように努力しろ。その時には誰かの手を借りてもいい。受け身になって『どうにもならない』と叫ぶだけなのはやめろ、せめて能動的に『どうにもならない』と愚痴りながら手を動かせ」
自身にも凍結魔法を使い鎧を冷やすと、再び銛を掴み、目指す先を向いた。
「俺も何度も叫んでるよ、既にな」
物理的に頭が冷えたからなのか、今度は彼の言葉をちゃんと噛み砕けた気がする。
《!不定期開催決定!》―【用語解説】等級制度
組合によって認められた冒険者に与えられるもの。
筆記と実技の試験があり、三等以上の認定後は出来高+基本給の体制になる。
【名前:人数:相当レベル】 の表記でいきます
(けど作中世界はRPG的といってもアクションRPGなのでレベルはあまり参考にならない)
【四等:いっぱい:1~20未満】
ごろつき家出変な研究者健全不健全少年少女おっちゃんおばちゃん人外共々みんーなここから。
一般人と大差ないので迷宮・天塔関係なく魔物の相手をしようものなら一方的に虐殺される事がほとんど。コルカスにも負ける。
【三等:約127人(非公式を除く):21~40】
一対一なら虐殺はないかなってレベル。H〇Hのポックルみたいな『優等生だけど社会に出たら役に立たないこともある』イメージのヤツもいる。イレギュラーには負ける。教本通り以外や過度な集団戦、油断不意打ちでも負けない。けど人数的にもここが主力。みんながみんなジュド―レベル。
標準的な四等の二人分くらいの期待値。
【二等:53人:50~79】
凡人の限界にして最も玉石混交、一つのパーティーに一人くらいは欲しいエース枠。平均でもガッツみたいな化け物殺しが出来る。けっこう経験や才能がないとなれないから啓蒙がだいぶ高くなってる、なので知識も豊富なのが普通。ここまでくるともうほぼ負けない、ストーリークリアくらいなら出来る。
標準的な三等の三人分くらいの期待値。
【一等:34人:80~99】
人間の限界、何かしらの達人や一生を捧げた天才がなれる等級。『モンスターがモンスターハントしてる』と言われるレベル。裏ボスまでいける…いるかどうか知らないけど。
伝説の武器や英雄と呼ばれる人物のほとんどがここ、そして血統などが絡むのもここまで。
小国でも二人は雇っていないと国家存亡の危機。
標準的な二等四人分のレベル。
【特殊一等:14人:100以上?(数値化なんてナンセンス)】
化け物を超えた化け物、天才を過去にした天才、自称人類の怪物共。
この世界では植民地より先にそれらを制圧する為の武力として当時まだ数の少なかった彼らを争い、百年前の大戦争でも抑止力として大いに活躍した。
メンバーは『現代魔術の開拓者』『神に呪われた男』『不死身の狂戦士』『機械軍隊の指揮者』そしてガチの神様まで。だが大きく分けて「一等にしては権力を持ちすぎたタイプ」と「既存の等級ではどこに分類しても役不足だったタイプ」の二つある。けどみんな協調性ないから特に軋轢もない。
国家解体戦争時のネクストACのような存在感。
【ひとこと!】
再開発の影響でしょうか、先日近所のラーメン屋が閉店しました。味噌ラーメンが名物で、祖母が来た時に「○○(祖母の近所のラーメン屋)さんと比べて美味しくないねぇ」と共感を求めていた見苦しい思い出のあるあの店が遂になくなったのかと思うと、何とも言えない気持ちになりました。
新年度の始まったのに自分だけ置いて行かれた気がしてなりません―
ロマンスがありあまる展開だと思いませんか?
超過供給なこのありあまるロマンスを君に、
至らぬ点ありましたら、どうぞご意見お願いいたします。