【第三話】そんなガッツに惚れたんだッ!(上)
一応程度の軽い現状説明をしておく。
俺は楽伍 知郎。ある一件からメンタルが再起不能レベルになってからニートをしていたが、ある日壮絶な死に方をして気付いたら異世界にいた。…サタデーナイトフィーバー的な死に様じゃなかったし、仲間を庇ったわけじゃないけどさ!こうなったんだから仕方ないよ!
―つまり異世界転生ってやつだ。名前も一応ラク・ロウに改名した。んでもって俺も一度はありがちで安易なチートライフとか思い描いてたけど、巨大な蛙を目の前に逃げ帰ってからそんなもの消滅したよ。うん。
運が良かった事と言えば、偶然出会った(というか気が付けば捕まってた)現地民であるフルトーさんがなんかサバイバル生活とかのベテランっぽい事だった。まぁそれ以外は特になくて、今は迷宮ってマジでダンジョンらしい地下のある埃っぽい空気の淀んだ部屋の中で古い木箱をベッド代わりにしてふて寝してるくらいだ。
―さぁ、一日の始まりだ。
瞼越しの生まれながらの薄い暗幕すら通り抜けられない儚い明りだけしか解るものがない。一秒、二秒と経つごとにそれに情報量が増え、解像度があがっていく。
仄かな明かり、それに袖を覆うような温かさ、そして火の粉が加わってやっと思い出す。
ああ、ここは地下だったのか、と。これが夢だとは思わない。こんな惨めな夢を見るくらいなら、それこそ俺はこの眠気を認め、その袖を引くだろうと…
「おはようございます…」
「おう、起きたか」
目の前の鹿の頭骨のような仮面をした男がさっき言ったフルトーさん。半トガリ耳で、素顔は物凄い美形…女だったらめっちゃタイプだが、残念既婚者のおっさんらしい。
「…なんか入念な準備ですね」
昨日は仮面の他は軽いプロテクター程度の鎧だけだったが、膝から下辺りのグリーブ?とか肘から下辺りのガントレット?って部分に加えて、首の前あたりで止め金でまとめたマントみたいなものまで着けてる。見るからに尋常なマントという様子ではなく、顎の輪郭が隠れるくらいの首を覆う装甲と、肩の羽みたいな飾りなんて豪華な物までついてる。勝負服って感じの装備をしてるのは間違いない。
「鍋を新調したいからな。今日は第十九層…二階層下に降りる必要があるし、軽い気持ちじゃ命取りだ」
買いに行くんですかなんて冗談を言う暇すらなかったが、鍋だと?…そういえば昨日見た鍋は何か彼の仮面のように生物の何かを利用した物に見えたし、きっと亀か何かの甲羅だろうか?
「お前もとっとと準備を…ってなんも持ってなかったな」
そう、異世界生活二日目に気付かれた事だが、俺は武器の類なんて一つも持っていないのだ。服装もシャツにパーカーに適当なズボンだし。
「お前が漂流者じゃなかったら舐め腐るにも程があるが…まぁしょうがない。ついてこい」
「えっ…はいッ!」
部屋全体が薄暗くて中々見え辛いが、どうやらここは元々は倉庫かなにからしく薬品らしい瓶の置かれたガラス戸の付いた棚がごつごつとして岩壁に沿うように置かれていた。
「これが議会言語ってやつか…?」
この世界の公用語らしい議会言語が書かれているようだったが、字が掠れているのも含めてなんて書いてあるのか読み取れなかった。『Geどクゥ薬』…強いて言えばそんな感じだった。
「フルトーさんこれ!」
「あ゛?なんだよただに解毒薬がそんな珍しいか?」
なるほど解毒薬か…解るような判らないような変な感覚だな。
「そんなもんよりこれだ、これ」
山のように置かれた剣や杖などの武器に、傷は多いが駄目にはなっていない防具の数々がそこにはあった。
「まさか…」
「死者だって死んでほしくない筈だろうさ」
そりゃ何とか擁護しようと彼の予備の防具とかかと思ったけど、一瞬見ただけでそんな訳はないと判る量だったので驚いた。ふつうは兜を四つなんて要らない筈だしな。
「…思っ」試しに自分の脚くらいの大きさの剣を手に持ったら、予想外に重くて背中と腰に入った一本線が折れたかのように痛くなった。
「…だと思った。元に戻すのも気を付けろよ」
あきれたようにそう言うと彼は壁に立てかけてあった棒のような物と服一式が入っているという箱を渡して来た。
「その箱は蝶番の仕掛けがあるから、取っ手を持って上に引けば開く」
「…そんな事も分からないと思われてるの?」
「じゃあこれは何だと思う?」そして彼は例の棒を指さした。
「…杖でしょう?」さも当然と言うように俺はそう答えた。
だがその反応は素っ気ないというか、引き続きあきれたような雰囲気を醸し出しながら棒を手に持って筒を開けるように上下に引いた。すると変形して少し長くなると、シャーペンからシャー芯が姿をのぞかせるように槍の穂先が現れた。
「杖だが槍と兼用な」傲慢な子供に間違いを指摘する教師のようにそう俺の言葉を訂正した。
…ってか初見じゃ判んないって。
「不服そうな顔してないでさっさと着替えろ」
「見ないで下さいね!」
「男の着替えにロマンどころか興味すら湧かん」
一応冗談のつもりだったが予想以上に軽くあしらわれたので必要以上の時間をかけるのはやめてすぐに着替えた。どうやら箱の中身は何か違和感こそあるが綿で出来た灰色っぽい薄いインナーのようなものと僅かに蒼色の入っている黒めの作業着だったようだ。変な着方じゃなくて普通にインナーからズボンとベルトとかでどうこうなる物で良かった。
「終わりました」
「…後ろの紐、結べてないぞ」
「えっ!」そんな剣道着みたいなめんどくさいやつなのかよ…
「手のかかる奴だな…」
無知だからと割り切っているのか、それともこれから俺は死んでしまいそうだから念入りに面倒を見ているのか、何が理由にしても今日のフルトーさんはどこか面倒見がいい。
寝ていた焚火や鍋のある部屋にある仕掛けを作動させて部屋の外への階段を通って、昨日泡沸大蛙を狩ったところまでやって来た。
ここにはちゃんと迷宮らしく魔物・魔獣─いわゆるモンスターがちゃんといる。現実考えてちょっとした槍と心ばかりの防具を装備しただけの素人―しかもヒキニートがゲームに出てくるようなモンスターに勝てる訳もなく…俺ならキメラにだって殺されるわ。ドラキーに祟り殺されても当然ってレベルの話だ。
なので俺はこの松明持ちの役目。視界を確保したいのなら前方にいればいいけど、そしたら俺が初撃を食らって死ぬ。かといって後ろで殿を務めても誰にも気付かれぬまま死ぬ…どのみち死ぬので横並びで進む事になった。やっぱり問題児と生徒みたいな状況だな…
「少し寄り道するぞ。左…こっちだ」
部屋の外は洞窟みたいに暗いだけでなく歩きやすいとは限らないし、分かり易い道があるとも限らない。ずっと獣道なので案内があっても正しい道か不安で仕方ない…
「…息を殺せ。五秒で良い…」
「んっ!…」
『千と千尋の神隠し』のワンシーンのように突然口を押さえらえると、松明を持つ方の手を後ろの方へ下げさせられた。
「《炸血凍》…」静かに祈るようにそう言った。
これは確か連鎖凍結魔法の魔法鍍金の合図だ。その証に彼の持つ大斧の刃先だけに霜が張り付いた。
「グルルルッルゥ!」
「うおおおおォ!」
威嚇と威嚇の応戦は一瞬で、おそらく俺の目にはまだ映っていない何かをフルトーさんは殲滅している。
「《不尽世炎》ァッ!」そう叫んだ直後、後ろ姿しか見えないが彼の体が確かに焚火の薪のように恐ろしい程激しく燃え上ったのが判った。
「…もういいぞ」
恐る恐る前に出て何が起きたか見てみると、三人…いや、三匹の死体があった。その姿は緑色の肌と灰色のぎょろりとして濁った眼球が浮き出たような醜悪な見た目の―
「ゴブリンですか…」
「ああ。昨日食った奴もこんな感じだった」
子供程―およそ130cmくらいの小柄ながら腐り、溶けたような歯や持っていたと思われる棍棒には血が付着していた。
「…もう」
「三匹で良かった、これで全部だ」
「えっ?」
「ここ―迷宮では魔獣や魔物が湧く時には数に一定の法則がある」
「…だから三匹なんですか?」
「最低の数字ではな。最小数の"群"、それより多い"隊"。そいつらが群れて"隊"以上のコミュニティを築いた場合、"部落"と呼ばれる。ゴブリンは非合理的な行動をし、決して利巧とは思えない上に策を弄する事基本はない。だからこそ最たる脅威は数によるもの、だからゴブリンは数を把握する事が何よりの対策とされて、知らない者からなめてかかって死んでいく―つまりは物量による圧殺だ。天塔・迷宮学においての研究を主要な位置にまで押し上げたのはこの問題とも言われている」
なんだか害獣と似た対策の仕方だなと思ったが、昨日のフルトーさんの発言も踏まえるとガチで害獣扱い何だろうな。
「それでゴブリンが原因の死者は減ったんですか?」
「いや、研究が盛んになった理由は『魔物や魔獣は自ずと群れを成す事はあっても、それは一定以上の集団と化す事はない』とされていたのが覆ったからだ。噂程度だがそうなった原因であるゴブリンの集団に所属していたのは推定七百三十二匹。だが問題は後々の研究で関わっていた個体は全部で六万五千五百三十七匹だったと考えられている…話がずれたな」
「ですね」
今のは所詮本来の通り道からは外れたところであって、ほぼ確認しただけに近い。話も道も、本筋から逸れていたのだ。脱線も良いところだな…
「お前の質問の答えだが、お前にも関係のある話だから聞いておけよ」
「そりゃ勿論」
本物の血を見て、殺しの現場を目撃した今では今日の最初とは違うような妙な違和感を心のどこかに突き刺さったままでいまいちぼーっとしてるけど、引きずってもしょうがないしな。
「『研究が進んだ事で死者は減ったか?』その質問の答えは"いいえ"だ。確かに大規模な被害は減ったが、個人やその仲間達の単位でならあまり結果は出ていない。まず考えてもみろ、小柄とはいえ武器を持ったやつ最低三人が…いや、実際は目の前にいたとして三匹全員なわけないから、だいたい二人と伏兵一人がいたとして、そいつに勝てると思うか?」
「…」当然の事ほど言うべきではないと思って、俺は答えなかった。
「…そういう事だ。世間がどんな認識だろうと、結局は自分自身にとってどうかで判断しろ」
現実問題、ゲームだって実力が一回り下の敵との連戦だって充分消耗するし、現実なら尚数の有利は覆らない。同格同士との連戦が続けばゲームだって辛いだろ?大概そういうゲームはクソゲーと呼ばれる―其れに倣うのなら、現実のなんてクソゲーだろうか?
「あともう一か所いいか?」
「また流血沙汰ですか?」
「いや、本当にただの確認だ」
今度はその言葉に嘘はないようで、彼の足取りはさっきと比べて軽い感じがした。
…さっきまでが重いだけか?
「ここ、照らせ」そう言って彼は姿勢を低くして何かを覗き込んだ。
「はい」指示された通りの場所に松明を向ける。…視界が近いので飛び散る火の粉が邪魔に思える。
「…やっぱりな」
彼が少し落胆したような―ちょっとは期待していたような声を漏らした相手は、ただの小さな池だった。
「飲み水用のですか?」
「半分正解だが、半分不正解だ。確かに飲み水の補給地の一か所だったが、壺口がいやがる」
「壺口?」
「壺口魚って山椒魚みたいなやつの通称だ。頭の部分が壺みたいな形状をしていて水を溜められる上に、壺口魚そのものの皮膚は九割以上水分だ。いかんせん水場ならかなり擬態する上に繁殖|力があるから縄張りであるちょっとした池とかの水場に踏み入れたら手痛い事になる」
念の為かその壺口魚がいるらしい池に斧の持ち手を入れて少し回してみたら、確かに有色透明な山椒魚みたいなやつがいた…何十匹も。
「…食べられます?」
「…スープならあるいはだな。焼くにはちょっとな」
彼はこんなので用を終えたのか再び立ち上がった。…マジにただの確認だったのか?
「…あと少し毒がある」
「えっ?」
「いや、なんてことないさ」
フルトーさんは呟くように言っていたが、全然問題になりそうなんですがそれは?
【 】
まぁさっきので用事はなくなったので、それに伴って寄り道の機会も同じようになくなった。とうとう道は獣道みたいな感じじゃなくなって、ある程度ならされた道になって文明を感じるようになってきた。
「…近々変化するな」
「変化?なんのですか」
「この迷宮が変化するんだ。岩肌や空気の様子からして、直近の変化からは大分時間が経ってる。もうすぐ迷宮内が変化して魔物・魔獣が復活してまた湧くようになってり、構造自体が変化する事がある」
なるほど、迷宮の変化ってのはつまり"リポップ"みたいな感じか。―ならこの迷宮というのは根本的にランダム生成なのか?…腑に落ちないな。そうなら昨日寝たあの部屋はランダム生成の範囲に及んでない感じがするし、この道が整備されてる理由も分からない。
「…その変化には範囲とか対象の概念ってあるんですか?そうじゃないと昨日寝た倉庫みたいな場所は日が経ちすぎてる気がして」
「勘が良いな。その通り、変化とはいっても階層全体が変化するってわけじゃない。そもそも迷宮内の変化ってのは、階層のまとまりである《帯》ごとに起きるが、とはいっても《帯》全てが一から変化するってわけじゃなくて、階層ごとに『どれが変化して、どれが変化しない』ってのが定まってる。しかもそれは具体的に"なにが"と決まっていない、変化しないなら『絶対変化しない場所』ってのが必ずどこの階層にもある」
ボス前の固定セーブポイントとかスタート地点みたいな、そういうは変化しないわけね。なるほど。
「だが、あれは変化しても必ずどこかにはある」
そうして彼の視線を追うと大きな石扉のようなものがあった。
「あれは界門と言って、下りると必ず階層を跨げる階段に通じる扉だ。他にも階層を上下に移動できるが、まず移動した先がどうなってるかも不安定だし、必ず移動できるとも限らない。たとえば大穴とかで下に落ちてもその先は魔物の巣になってるかもしれないから、自信があってもこの扉を通りな」
その界門ってやつは閉じてる訳じゃなくて多分常に開いているタイプのやつだったので今も開かれていて、その先にある階段には何気なく進めた。
まるで何か塔の中みたいな螺旋階段で、地下の筈なのに月明りのような光で明るかった。
「…不思議なもんですね。地下なのに明るいって」
「分かるぞ、しかも異様に落ち着くんだ。偶に月も登るし、昔から何の意味もないのに半日ここでぼーっと無心でいた事がある」
なんか彼の言葉も理解出来る気がする。他聞ではあるけどゴブリンで死者が出てるとか聞いた後だから、尚更そんな場所での神秘的で穏やかな光が特に心地よく思える。闇が深いからこそ、光は一際人に行先を示す…のか?この世界に北斗七星とか北極星的なものってあるのかな?
よくある学校なら二階分くらいの階段を降りて、拠点になった十七階層の下である十八階層に辿り着いた。けど目的地はここじゃなくて、更にもう一階下の十九階層だ。
いざ十八階層に足を踏み入れると、それは月明りではなく、松明の火の方が頼りになるようになるくらいの暗さだった。だが、そんな暗闇の中で一瞬目にしただけでも異様と判るものがあった。
「…フルトーさん、これ…」
「先客がいるみたいだな」
ゴブリンは勿論、天井ぎりぎりくらい背の高い類人猿っぽいやつや、苔の生えた頭の形をした動く土器みたいなやつまで魔物・魔獣が切り裂かれ、しかも凍らされている。よく見れば三匹いるゴブリンの内一匹は凍ったのは半分だけで、今も生きていて暗闇に石を投げているし、類人猿っぽいやつは今も時々血を噴き出している…まさかトドメをさしていない?そしてそれらの下には広い血溜まりが出来ているが、何故だか漁られた形跡がないのだ…
「…妙だな。素材どころか魔石も回収されてない…素材集めでも魔石集めでもないなら、少し怪しいな」
多分素材集めは知っての通りの―倒したモンスターから皮とか鱗、牙とかを剥ぐ感じなんだろう。んで魔石集めは差し詰め金策的な?
「追うんですか?」
「…どうも怪しいしな」
起きた時には、今日は予定が案外きつきつな感じがしたが、この有り様はどうやらそういうのを撤回するようなものらしかった。
生殺しにされたゴブリンが石を投げている先に向かえばそうした者がいると踏んで、尚暗い本筋を逸れたような道へと進んでいった。念の為足元を照らすと、血溜まりを踏んでついた血液の朱印による印のように靴跡がついていた。大きくて判りやすいやつだった。
―まだ赤い、そして濡れている。大丈夫、こっちであっているらしい。
追うのは分かったけど、選んだ道は細く、洞窟の様相に相応しい程歩き辛い。
…けど寧ろこれは幸いか?だって普通そんな場所を好んで進むやつなんていないだろうし、相手もそう想定しているからこんな道を選んだ筈―予想されているとはいえ、相手次第では不意打ちも視野に入れられる道じゃないのか?
「…変な気は起こすなよ」
「……分かってます」
早速釘を刺されて、さっきまでの考えが馬鹿みたいだったと自省した。すいませんでした…
不意打ちとかなんとかさっきまでの無駄な考えは忘れて、音を立てないように、忍者や暗殺者みたいに静かに。…忍者や暗殺者なんて見た事もないけど。
道は暗い。相手の危険性の事を考えてフルトーさんが先に行ってるから、俺自身が道を見失う事はないと思いたい。持っている松明の明かりは確かに照らすが、彼の背中だけ…しかも相手に気づかれないように松明の位置を低くしてるから、尚一寸先は闇って感じが強まる。
段々と彼の背中に頼もしさを感じ始めた頃に、何かが聞こえてきた。フルトーさんも聞こえたのか、俺達は足を止めた。
それは俺の感じる緊張感をほぐすような意外なもの―鼻歌が聞こえてきたのだ。
けれどその音律は想像するような暢気な歌のそれではなく、高らかに自分達の功績を謳う―実に厳めしくも強者を鼓舞するようなそんな音律で、まるで軍で歌われるような士気を高めるような歌なのだろうと想像がついた。
…以前耳にした『イングランドの歌』ってやつが感覚としては近いのかもしれない。
「なんの歌なんだ…?」
「『ボラニヤ侵攻歌』…軍事国家の兵士に歌われる軍歌ってやつだ」
「…なら、相手は兵士崩れの?」
「…どうだろうな、にしちゃ不用心な気はするがな…」
―鼻歌を取り除くように、より多くを知る為に貪欲なまで感覚を研ぎ澄ませ、より耳を澄ます。
大きな男のものと思える足音が一つ。どかどかずさずさと…音だけでもガサツな男なんだろうと判る大きく、そして強い。音の大きさから考えると、多分そいつがさっきの殺すだけ殺したやつだろう。そうでもなきゃ、自分から血溜まりなんて踏むやつなんていないだろう。…しかし勝手な決めつけだけど、そんなやつが魔法なんて使うか?そもそも使えるのか…?
それに比べて小さな…多分女のものと思える足音が一つ。少し妙なのは足音が不規則というか、千鳥足みたいな心もとない感じの歩き方なのを感じる。けど消去法だとこいつがあの凍結魔法を使ったんだろうから、油断できる相手じゃない。
…にしても何だか人数分の足音がしない感じがするな…
「…フルトーさん、もしかして魔法使ってます?」
「沈歩落って魔法で声以外の音を消してる…後で教えて―」
言葉の途中だが彼は何かを感じ取ったのか自分と俺の口を塞ぎ、俺を後ろの方に押し込んだ。
『ふんッ!』 そんな獣の雄叫びのようなものが、唖然として動けない無防備な俺の耳を直撃した。
俺が「なんだ」と疑問を口に出す時間もなく、フルトーさんの声を遮るように俺達の追っている人物と思われる男による力の入った声と共に、地響きのような大きな音がそいつと俺達を隔てる岩壁を貫いて響き渡る。
―相手は近い。そう思って少し欲を出してその衝撃音の方に近寄れば、今度は会話が聞こえた。
「見たか見たかアェイラ!俺の言った通りだろ!あの通り、迷宮とはいえ魔物は魔物ォ…俺の敵じゃない!俺に膝つかしたきゃアンクシャスでも連れてきなァ!」
「流石ヨアレス様ですわ!さっきの男らしい一撃!アェイラはもう惚れ惚れしてしまいましたわ!」
声だけの判断で言えば、俺の予想は概ね正解っぽい。男らしいなんて形容詞で満更でもない雰囲気ってことは、多分かなり仲は良い。情報を更新すると、男の性格は傲岸不遜な感じで、女の方がその腰巾着的な?どっちにしても最悪戦わなきゃいけないのなら、情報量が少ないと言わざるを得ない。
…直接戦うのは俺じゃないんだけど。
「連中は軟弱すぎる!俺がこうして簡単に両断できる奴相手に何を手間取り、死ぬんだよッ!ウルギもローリルも!何故ああもなっちまったかねぇ?」
「それもあるでしょうけど、ヨアレス様がずば抜けて強いだけじゃないでしょうか?それにウルギはともかく、ローリルの愚か者なんてただ自滅したですし~」
「そうだ、そうだろうなッ!にしたってこの調子じゃ、奴等根本がダメだったんだろうなァ! 俺とあいつらじゃあれだよ、才能が違うのさ! 俺に言わせれば外の連中の言葉なんて所詮は力のないモグリの戯れ言なんだよ!」
「やっぱりヨアレス様こそあの預言の英雄に違いませんわ!」
「当然ッ!あの英雄は俺の事だよッ!」
彼らの会話も一区切りしたと同時に、俺はもういい加減こんな自慢話を聞くのはウンザリしてきた。それはフルトーさんも同じというか、この場合はしびれを切らして、って表現が相応しい雰囲気を放っていた。あと少しでも言葉が続いていたのなら、とうとう彼すら大きな溜め息を吐いていただろう。
まだ様子を見るのかと思い、フルトーさんに声を掛けようとした瞬間、彼は動いた。岩に当たらないように低くしていた姿勢を元に戻し、歪みの無い綺麗な立ち姿になった。当然暗い上に狭い―それに今日は特に重武装だからさっきまでひそひそやってたのが嘘みたいに岩に当たり、当たった岩は脆く砕けていく。けれど彼は物ともせず、寧ろわざと自分の存在感を示すように自ら当たりに行っているようにも見える。
「なんだァ…てめぇ?」
フルトーさんは堂々と、まるでそれが当然かのように真正面から奴らの前に出た。
俺達が追っていた声の主はあまり予想と変わらない容姿をしていた。
筋骨隆々のいかにも脳味噌の中に血管の代わりに筋繊維があるような短髪の大男と、死ぬかもしれない現場ではなめているとしか思えないショートスカートの浮気な女。…近所のコンビニの駐車場でタバコ吸ってたカップルに似てる組み合わせだ。とりあえず仮に男の方を『トシくん』とでも…そういえばヨアレスって呼ばれてたな。
「俺が誰かなんて、大した問題じゃないだろ?」
「なんだよその態度は!さっきまで俺達をこそこそ後を着けて来た奴の言葉かッ!バレバレなんだよッ!」
それを聞いたフルトーさんは『お話にならないな』とあきれたかのように少し俯いてから、
仮面の目の辺りを人差し指と中指で叩く仕草をした後に「なんでそんな喧嘩腰なんだよ? 俺は自分の行動がおかしくないと思っているからこそ、今ここに立っているんだぞ? だから俺自身は然程に妙な態度とも思わないし、違和感もない。極当然なもんだろ」と返答した。
実際にそんな音が聞こえる訳じゃないし、聞いたこともないけど、何かを噛締めている様な彼の表情と漏れてしまった裏返った声色で今この場でヨアレスの頭が"プッツン"したのが判った。
「てめェ!―」
「それともなにかッ?『背後まで気を配れるなんてスゴイねぇ』なんて誉めて欲しかったのかッ!?」
いざ立ち会うと彼らは同格とは言い難いように思えた。
俺は日本人としては平凡な170cm程で、フルトーさんはそんな俺より頭一つ分とちょっと高いので180後半と推測する。そしてヨアレスはそのフルトーさんより一回りは大きい。俯瞰してみると彼は巨人と形容してもおかしくない身長だ。それを示すようにフルトーさんも彼を見上げていた。
けれど何故だか不安は感じなかった。
恩人だからというのもあるが、そもそものレベルが違うように見えたのだ。その安心感はたとえ相手が突撃銃で持って、一瞬引き金を引くだけで容易く死ぬとしても、決して揺らぐものではないという確証があった。
「死ねェ!」
眼前にも関わらず大きく振りかぶられ、ヨアレスの大斧は力強く振り下ろされた。鞭のように空気を切り裂く音を伴っているそれはきっと尋常の鎧だったら絹豆腐を箸で押した時のように、簡単に真っ二つになってしまうだろうと思われた。
…勿論、思うだけが全てではない。
「良い勢いだったぞ。但し、目の前の相手に対してここまでの長い隙を晒しておきながら、更に相手が無抵抗という仮説をしてでの攻撃なんて―無意味以外の何物でもないがな」
当然のようにフルトーさんはその一撃をいとも簡単に―ペン回しをする時のように三本の指で掴み、完全に勢いを殺していた。
「本当に殺りたいんだったら、こうして相手が長々と説教臭い文句を垂れてる時を見逃すべきじゃないだろ?」
そう言うと彼は白刃取りより余裕を持ったその防御から一歩退いて、掴んでいた大斧の刃の掴み方を変えて、刃を六時を指す長針のように地を向くように下ろした。
相手が自覚しているだけ、ヨアレスは余計に神経を逆撫でにされるだろう。そして彼は自分がわざわざ相手の話に耳を傾けている非合理性に気付いたのか、血管浮き立つ丸太のような腕に再び力が入るのが判る。
「俺に説教すんなッ!」
今回の攻撃がどんな威力だったのか、所詮物陰からの盗み見ている俺にとってそれを知る事は出来なかった。しかしこういう理詰め相手の逆上に効果がある場合なんて、大抵はないものだ。
下から上の、強力だが単調な動きは少し蹴られただけでなんてことなく軌道を逸らされ、ヨアレスは目の前の鹿の仮面を着けた追跡者に当てられなかった。ただ、その結果は狭い故に崩れた石筍のみが示していた。
「説教は嫌か? なら言い訳だけをした方がっ…」
優位だった筈のフルトーさんの身体が突然震え、何故か彼が血を吐いた時、俺はそれを信じられなかった。
そんなの、信じられる訳が無かった。一撃だって喰らってないのに、そんな事あってはならない。そう思ったけれど、事実は決して変わらずに、鎧を着ているせいでぎこちない機械人形みたいに震える彼はそこに居続けた。
「…成程、手段は理解出来た」
俺が彼に異変が起きていると判るより先に本人はヨアレスの斧を蹴ったついでに後退していたので、吐血直後に追撃を喰らう事はなかった。だがそれでも吐血は止まらず、丸で彼の中で何かの栓が抜けてしまったのかと疑う程だった。
「だから言ったろ? 格上の言う事は大人しく聞いとけよ、俺が相手なんだ―この《剛拳のヨアレス》に突っかかって来た時点で生きて帰れる算段が通じると思うな!」
ヨアレスは余程勝利を確信したのか、さっきまでの激昂した様子は薄れ、ムカつく程絶対的に勝ち誇った表情をしていた。
彼は大斧を手に、弱者をいたぶるように、手負いの獣をしとめる為に巣穴に潜るようにじりじりと距離を詰める。
まさか負ける?
フルトーさんが?
こんなに油断し切ったような相手に、彼が負けるのか?
なら助けないと!一人じゃない利点を活かすべきだ!
…なんでだ。
なんで、あと一歩踏み出せば彼に協力できるのに、この手が俺と彼らを遮る岩壁を掴んで離さない。
松明を持つ手はこの場から逃げたがって、その灯を今にも地面に擦り付きそうな程低い。
今にも煙草に火を灯した後、マッチを踏み潰すように―もう俺は、この炎を用済みだと思っている…?
…いや、考え方を変えろ。俺が加われば二対二とは言えだ。数の有利が出来るとはいえ、俺が場に入れば寧ろ彼の脚を引っ張るだけだ。
落ち着け…無駄な事をしようと思うな。フルトーさんを信じろ、俺は俺にしか出来ない事を考えろ。
…俺はきっと彼らに気付かれていない―だからこそ出来る事がある筈だ。
「おらァ!」
俺がなにも出来ないまま、ヨアレスは彼にもう一度大斧を振り下ろした。
フルトーさんも無抵抗なわけではなく、回避こそするが、防御なんて出来そうもないあり様なのは変わらない。大振りの一撃だから、止めた時と同じ要領で避けはしている。けれど同時にまだ吐血した時の体の震えが止まっていないので、その反応速度や体の動きは鈍っていき、とうとう紙一重…
「…!」
そして遂には退く場所もなく、背中がぶつかってしまう程に岩壁に近くなってしまった。もう、一歩たりとも退けない。
「後がねぇなァ?」
「…そうだな」ヨアレスの問いに何も言い返せず、ただ自虐的に―痛いしく聞こえる状況報告だけだった。
しかし何故だか、着実に追い詰められて、絶望的な状況になっている筈なのに…どうしてか俺にはただの状況報告が、現状を噛締めて何かの準備をしているような―無意味にこうなっているようには思えなかった。
「あぁ、全く以てその通りだな」フルトーさんは虚勢を張るように、体の震えなんてなかったように、背をぴんと張ってヨアレスと立ち向かった。
「お前の敗因は簡単だ。お前は、俺に相手した」
トドメと言わんばかりに息を整えて、より殺意の籠った目でフルトーさんを捉えた。
ヨアレスは地を蹴って、フルトーさん目掛けて一直線に強攻を放った。その一撃に込められた力は、勢いだけで蹴られた地面の岩が抉られ、削り飛ぶ程だった。
その一撃で終わるわけもなく、大斧の猛撃な嵐のような攻撃は隙もなく続いた。
威力といったらもはや人の出せるものとは到底思えず、この第十八階層ひいてはこの『帯』が―いや迷宮そのものが揺れているとすら思えた。天と地を繋ぐ軸が歪む程の地震でも起きているのかと錯覚しそうな様子なので立っているのが精一杯…ヨアレスの連れのアェイラって女も同じだ。
たった二人の戦いなのに、迷宮内の影響は大きいように思えた。岩壁は老いた木の皮のようにベリベリと、プレートが滑るように崩れ、地面は最初から砂を固めていただけだったと言わんばかりに容易く、次々に塵となり土煙として宙を舞っていた。常識では測れない天災に襲われたのような状況でもしっかりと判る、地面から入り、足から伝わり、骨に響く強烈な衝撃波が走った。
土煙が晴れ、こんな地震のような攻撃を直に受けているであろうフルトーさんの姿がはっきりしてきた。クロッキーに過ぎなかったぼやけていた輪郭は次第に綺麗な線になり、その線が成した姿に色づくのに時間はかからなかった。
「…なんだよ、終わりか?」
そしてその絵に実感を与えたのは、彼らしい不屈の声だった。
「ああ、てめぇごときにとどめなんて刺さねぇよ」
遂に終わり…
そんな訳あるか、やっと意味が解ったんだ。
この胸の奥にちゃんとあった、失えなかった希望が―
「ちゅー!」
「ねずみ!?」
そう、一匹のねずみ。たった一匹のねずみが落ちてきただけだ。おそらくこんな揺れに驚いて逃げて来たってところだろう、しかしそれがきっかけだった。
俺の耳に入った驚く声はヨアレスのものでも、アェイラのものでもない女の声―つまりは三人目の声。フルトーさんの吐血は―
「やっぱり、魔法だったか」
土煙の中でもプラズマのように道筋を描く―魔法の軌道もよく見えた。フルトーさんはヨアレスの気を引いている、俺は…俺はこいつを止める!
足音は立てるな、余韻とはいえまだまだ戦闘中だ。斧が振られる範囲には間違っても指一本も触れないように、気を遣え。慎重に、素早く、無理をしろ、安全択なんて有効になんてなりゃしないんだ!わざと冷静になれ、死の淵を彷徨え、間違えるな、馬鹿々々しく大胆な行動をしろ!
「どけッ!」
もう無駄な事は考えている時間は無い。上手にトチ狂おうとした結果、そんなに上手いようにはならなかった。ただ、今はこうでいい。一刻も早く。なら何が何でも使うまで、だから俺はヨアレスを蹴って片足だけでも勢いを強めた。
あと一瞬、それで届く!俺の武器を考えろ、あるのは手元の松明だけだ…充分じゃないか。人は、燃えれば死ぬんだから。
無駄なあがきでもいい、低く構えろ。悟らせても見せるな。俺だけの為の炎じゃない、俺達の為の炎だ。決して絶やすな、変える分にも、灯は必要だ。
「うぉぉぉぉ!」
「…!」上手に意表を突けたなんて思わないが、無事彼女の隙は突けたようだった。
さっきヨアレスがそうしたように、下から上へ。極めて単調な動き、だがそれでいい。
低く構えていた松明の炎は、無事隠れていた彼女の服へと引火させられた。
結果だけで言えば、彼女の服装が鎖帷子とかじゃなくて、姿を隠す暗殺者なら理由の考えられる―若草色とでも言える緑色のレオタードかハイレグのような薄着だった。けれど埃避けか、フードのあるマントのようなものを羽織っていたので、松明の炎は事故もなく飛び移れた。
「…君、中々ガッツがあるんだね」
「えっ…」
特に作戦があったとかそういう訳じゃないけど、何か動きが制限できればと思って彼女に馬乗りになっていたので、彼女の顔がよく見える。
負けを認めた訳でも、勝機を失っていない訳でもなく、ただ興味なさげだった。なんて冷ややかなんだろう。俺にかけた言葉も何の意図もなく、単に感想が口から漏れてしまったようで…拍子抜けした。
「君には気付いてたよ、けど出てくるとは思わなかったな。冒険者には必要な素質だよね…わたしは持ってないから、よく解るよ」
フルトーさんのようにエルフの血が混じっているのか、絵画のように美しい顔立ちだったが冷ややかな表情は変わらずに、けれども口調だけは悲し気なものだった。
「…ねぇ、君。多分あっちも決着つくよ…君の関係は知らないけど、わたしの一応雇い主だし、ちょっと見たいかな」
俺も彼らの決着は気になるけど、彼女の誘導かもしれないので、念のためにいつでも絞殺できるように首の上に手を置いて生殺与奪の権利はこちらにあると僅かながら主張した。
両者一歩も動いてはいなかった。けれどそこに静寂もなかった。
「反傷撃…名前だけでも覚えとくと良い。あとで横の雇われにでも相談しな」
あれだけの攻撃をストレートに喰らっても、フルトーさんは傷一つ負わずに、そこに立っていた。
「…てめっ!―」
流石に自慢の連撃を繰り出しても何一つ目立ったダメージは負わず、しかもまた彼の嫌いな説教臭いセリフが待っていたのだから、相対するヨアレスは一瞬怯んだ。けれども流石は脳味噌の中に血管の代わりに筋繊維がある男、すぐさま切り替えて再び切り掛った。
…まぁ、上手くいく道理も既にないのだが。
「ヴォゥラァ!」
勢いよく勇んだ突撃は当然の如くフルトーさんに片手で静止させられ、流れるようにもう片方の手で彼の顔を圧し潰すように頭をガチリと掴まれ、そのまま地面に叩きつけられた。
「最初に、言ったよなァ?『俺は自分の行動がおかしくないと思っているからこそ、今ここに立っているんだ』って…こういう事だ。迷宮は外界とは違う、常識が通用する事なんざねぇし、見立てが当たる事も稀だ」
フルトーさんは彼から視線をずらさずに、抵抗しようと斧を掴みかけていた手を手刀で叩き、警告するようににらみを利かせた。
「だからこそ、相手を知るんだよ。こそこそとねずみに紛れようが、全身を泥沼に沈めようが、血を頭から被ろうが、何をしようが何がなんでも相手を少しでも多く知るんだよ。だから、追跡すんだよ、用心すんだよ、どんな馬鹿なのか」
彼は話に一区切りつけると、姿勢を多少整え、手の力を抜いた。
それに対してヨアレス一瞬安堵し、表情に緩みが出て来た瞬間に彼は股間を蹴られ、アェイラが寄りかかっていた方の岩壁まで飛ばされた。
「解り辛れぇか……お前の言葉で言うのなら、『お前の敗因は簡単だ。お前は、俺に相手した』―そういうだけの話だ」
侮蔑するようにただ一瞥すると、残ったアェイラと暗殺者の二人に目で『とっとと去れ』と言い放った。
【 】
「にしたって驚きましたよ。自分から変な気は起こすなとか言っといて、結局自分から突っかかりにいくんですもん」
「そりゃ、お前にあれやらせても半殺しにされるだけだろうからな。もしやると言ったとしても、お前にゃやらせねぇよ」
振り返ってみれば、どうやら先程の戦闘は一種の教訓を与えるつもりだったというか、無駄に挑発的な言動や行動もそれだったらしい…それにしたって身を張り過ぎとは思うけれど。
「エルフの暗殺者がなんて言ってたか聞いたが、俺もあれには少し驚いた。結果的には素材的に全くの無意味だったが、まぁ、いい挑戦だったんじゃないか?」
よく言うもんだ。俺がああしてなきゃ結果は『挑発してわざと追い詰められて、簡単に反撃する』事で警戒を促そうなんて、あいつがそんなに素直なタイプとは思えなかった。
「ちゅー…」
いつの間にか俺の肩に乗っていたあのねずみが、少しバツが悪そうに小さく鳴いた。
「そういえば、フルトーさん。こいつ飼っていいですか?」
「…大丈夫か?」
「俺はねずみ一匹も世話できないって思ってるんですか?」
「いや、食糧の余裕を疑ってるんだ」
彼の指摘に苦笑しかできなかったけれど、何故だかこいつには可能性を感じる。
「名前どうすんだ?」
「そうですね…」
じゃあシンプルイズベストって事で―
「『ちゅーた』…ってのはどうですか?」
俺の答えに彼は苦笑しかしなかったけれど―まぁ、今はこれでいいと思う。
―無鉄砲なくらいが、馬鹿々々しく大胆なくらいで丁度いいのかも。
【ひとこと】
もうなんか楽しくなっちゃって、ひとつひとつ噛締めてしまってます。
最近『十二大戦』ってやつをアマプラで見つけてしまって、それからというもの「『ねぇ、どろどろさん』で誰か音mad作ってくれねぇかな~」と思う日々が続いています。「忘れさせてよ」で寝住とシンクロしてください、おねげぇしますだ。
ってか『ねぇ、どろどろさん』とデスゲーム系は相性が良すぎるんだ 悪いな
―なんてこと書いてたら3週間分の文章が消えました。\(^o^)/オワタ
くっそ、1カ月だよ…