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外は危険なのでダンジョンにコモります!  作者: 雨傘音 無咲
遠い昔の因縁、絶対の死
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【第二十四話】呪われた罪(3)

 俺は異形の魔物、陽探向の華(ヒマワリ)に現状打開の為に特攻じみた捨て身の攻撃をしている。なのにどうして俺はこんなに高揚感を覚えているんだろう。偶然に過ぎないのに今生きていることを当たり前の前提にして、どんな不安も大丈夫の簡単な一言で黙らせられる。戯れに浸り、溺れかけている軽妙なこの心が俺の存在そのものを強引に糸で操るように、いとも容易く無理を無視して押し通してしまう。

 道徳や常識が錘のように感じて、ふと外してしまった事がある。生前はそうすると排斥され、寂しかったが、迷宮(ここ)は地下だ。人はいない。人の居場所はない。生きていただろう、冷たくなった物質があるだけ。死体があるだけ。死があるだけ。隣に寄り添い、立ち会う死がそっと傍に隠れているだけ。非道徳や常識外は意外に身近なところで居てくれる。

 ―だから、俺はその手を取っただけ。

その手を取って、不慣れなダンスを快楽に身を任せて踊っているだけ。特に大した事はしていない。出来ない事は、出来ないもの。出来る事をしただけで、偶然出来ただけなのに、まるで以前からそうだったように俺は楽しい。

楽しくて、楽しくて、堪らない。

 一度上手くいくと、どんどん上達していく錯覚が俺に魔法をかけ、避けらる筈もない攻撃を寸でで躱し、見切れるわけもない絶好のチャンスに剣も躍動させてくれる。

全部偶然、たまたまの好機、実力なんて一片もない、ひどく残酷な無意味な成功体験。

絶体絶命、絶対絶望、そんな現実を否定するようなどうしようもなく幸運な俺は自分自身に ―そんな存在になれたこの一瞬に―俺は、()()()

 刹那の衝動はとうとう俺を破壊した。一瞬でも間違えたのなら儚く崩れ去るだろう極めて不自由な筈のこのダンスは、何の誤解か限りなく自由だと意味を享けてしまった。心地よかった ― 過ぎた快楽の後、賢者のように己の全てが透明に見え、理解する。神経を蝕み、脳を焼き、心臓に新緑の五角形の楔を打ち込まれた俺は確かに変わっていた。塗り潰され、焼き尽くされ、打ち砕かれたのは何だったのか? 見えない、聞こえない、触れない。だが感じる、口の中の誰にも知られない密かな甘味がその居場所を、見えない致命傷を誰よりも先に ―俺だけの秘密の隠蔽を許してくれる。

皮膚が切れて痛いんだろう、液に掠って溶けているんだろう、変に噛み締めているから口の中が血塗れで息がしづらいく、冷たいんだろう…本当は歩くだけで精一杯な筈の体なのに、無限に無茶できる気がした。

 上手くなんていっていない、最小限とは真逆に寄っていく。

歩けるなら歩く、歩けないなら回り道、そうして遠目から見なければ近づいているとは到底思えない無駄で無意味な向こう見ずな牛歩…なんでそんな事するんだろう?

自問自答でも言っていただろう、自分でも解ってるのに…当然か。それを解っているのは《自分》だけで、俺の身体も心も納得しちゃいない。悲鳴を上げている、素直に助けを乞いている。俺がそれを聞いていないだけ、環境音として無関心に思っているだけ。

いずれ滅びる。いずれ、あっけなく崩れ去る全能感。それは構わない、そういうものなのだろう。

だが、どうしても結果は残したい。俺にとっては無意味でいい、だからその代わりに、俺以外にとっては意味のあるものであってほしい。


―この一撃に俺の全存在を託して、俺のいた哀れな痕跡を托す。


「さぁ、死のうぜ」

【 】

 あっけなかった。今までの空虚な全能感が予定されていた通りに崩れ去っただけなのに、俺の体は力なくぶっ倒れた。

…かっこつけすぎだな。正直に言おう、俺は斬った後、嵩の増した水面に滑ってすっ転んだ。


 「カッコつけねぇなぁ! お前はッ!」

目を開けた時には俺の足は立てていなかった。フルトーさんに抱えられて、後退していた。

考えていた打開の一撃には成功したらしく、陽探向の華(ヒマワリ)は中心がポリゴンが消去されたように綺麗な断面で四角形に抉られ、のたうち回っていた。

「動けっか?」

「…いえ」

確認する為に直に足に触れる。震える手の触診はやっぱり予想通りで、まぁ、動けそうもない。骨折とか骨の問題ではなく、筋肉痛とかの筋肉に無理をさせた事から引き起こされた問題で足の感覚がない。

「無理です…」

「…」なにか前もって言う事を決めていたのだろうけれど、それを忘れる為に押し殺し、少し息を吸った。

「剣渡せ。あとこれ使え、雷炎瓶(らいえんびん)だ。生溶肉(スライム)への有効打にはならないだろうが…多少怯みはするだろう。狙って使えよ、三本しかないんだ」最低限の要求とつらつらと説明する気のない言葉が現物と共に渡される。

「あ、はい…」

これだけは渡すまいと儀剣を身体と一体化させるように強く握り締めていた拳は固く、一方では震えている筈の俺の手は氷像になってしまったように開けられなかった。フラスコより小さい雷炎瓶を落とすまいと必死になりながらなので、そういう意味でも開けづらかった。最終的には敵前で時間をかけすぎるようだったので、結局彼によって無理矢理開けられた。多分俺ではどうにもできなかったのだろう…散々自分勝手に振舞ったのだ、今更主人面して動けと命令しても聞く訳がない。

「…ま、大金星だろ。頑張ったな」

彼の言葉が耳に入った瞬間、唖然としてしまった。まさか押し殺した筈の言葉が息を吹き返し、姿を現すとは思えなかったからだ。…予想通りだけじゃないと、忘れていたのかもしれない。

「はいっ?」

俺と疎遠になった脳がその意味を分析したのは早かったが、実感を得たのはこれから十秒も先の話だ。

「おら、投げるぞ」

そうぶっきらぼうに言うと、痩せた方とはいえ人間一人を完全な軌道計算の下でちゃんと着地できるように余裕を持たせるつもりで俺を仲介水槽から脱出させた。


 「うげっ…」

彼にとっては色々と気遣って優しめに投げたつもりなんだろう、その優しさはありがたいけど、実際凄く痛い。文字通り投げつけられたわけだし、当然っちゃ当然だけど、ようやく手を握ってくれた体はその痛みを存分に押し付けてきた。

「あぁっ…あぁ…」

火炎瓶的な物だろう雷炎瓶を割ってはいけないと必死に受け身を試みた甲斐あって、のたうち回りこそしなかったのであまり動かず、また仲介水槽に落ちる事はなかった。

「あっ…瓶…ちゅーた…」

懐に手を伸ばした後、もっと気にかけるものがあるのではないかと痛む体を動かして首の辺りを探る。

「ちちゅー?」

彼は俺の探る腕に沿って俺の顔に近付くと、逆に俺を気にかけるように小さく鳴いた。

「あぁ…大丈夫」

ちゅーたに言い聞かせているようでもあり、自分を強引に説得させているようにもとれる無事との応答を彼と同じなくらい小さな声で返した。

 声を出そうとして少し咳が出そうだったので、成り行きに任せようとすると咳き込むのではなく、なにか腹からどろりとしたものが吐き出てしまいそうだったので一度我慢した。それから改めて咳払いをした。

「…うん、もう立とう。大丈夫、きっと大丈夫」

震える足を支える為に、槍を変形させて杖にして全体重を預ける。預けるのは体重だけでいい、もう全存在をかけるなんて無謀なマネはしない。…だって、どうせかっこつかないし。

 ふらつく足を引きずって俺は仲介水槽の上にかかる両端の橋のうち、左側に進んだ。

どうして選んだのかと訊かれても、その理由は答えられない。第一に俺は別に選んで進んだわけじゃない。プラガハから逃げる為に使った不尽世炎(プロメア)で右側の橋が溶け落ちているので、消去法で進んでいるに過ぎない。杖から橋の欄干へと任せる先を変え、なんとか陽探向の華(ヒマワリ)を見逃さず尚且つ前のめりになっても触手の攻撃を防げる…最善とは言えなくても悪くはない位置取りをできた。

「さぁ…どこ狙ぁいんだよ…?」

欄干に身を乗せるようにすると雷炎瓶を掴んだ片手を垂らし、開けきらない目で下方 ―仲介水槽に目をやった。

 下方はまた、一段と…いや、比較にならないレベルで高度な戦いを繰り広げていた。

陽探向の華(ヒマワリ)に突進を誘発させて前方を壁にめり込ませると、踊るように見事な動きで後ろ足を両方とも大斧で切断し、更に《不尽世炎(プロメア)》を使って表層化した武器を溶かすとそのうちの一つをより高火力に曝し、溶けて必然的に現れた穴に手を突っ込んで炸血凍(ロジリザ)で急速冷却すると中の生溶肉(スライム)が麻痺するので、手を引き抜き、代わりに儀剣を突き刺す。

突き刺され、器の内側で斬られている筈の生溶肉(スライム)は麻痺しているからか、斬られて液状になっても寧ろ攻撃しようと儀剣に突っ込むので濁流のようになって穴から噴き出している。

「なんかあんな…」一瞬、彼がそう呟いた気がした。

「瓶投げろ! 前方背中、生溶肉(スライム)との境目あたりッ!」

命令を受け取り、俺は役立たずのサイトで照準を定めると、棒のような腕に投石器のイメージを投影させ、正確な軌道を描いた。

見事な放物線…というわけではないが、綺麗に当たったとは思う。巨大鼠の頑強な皮膚に着地したそれは岩に叩きつけられたように薄いガラスが破られ、金色の油がその全身に流れた。

その瞬間フルトーさんは自身の腕にまで流れてしまう前に儀剣を穴から引き抜き、嵩の増した水面に剣を浸し、巨大鼠の脂を落とした。

その水面は今やあと少しで膝まで達しようとしていた。当然だ、有効打とはいえ生溶肉(スライム)は液状化しただけ ―無力化はできても消滅はしない。襲ってはこなくても、邪魔はし続ける。つくづく戦いづらい相手だな、生溶肉(こいつ)

…ってかやばくない?周囲もう水で濡れてないところないんでしょ? んで俺投げたの雷炎瓶(らいえんびん)(かみなり)だよな、多分…感電とかって、しないのか?

「あっ!」閉じかけている喉を無理矢理こじ開け、間の抜けた声が出た。

まぁ当然、時すでに遅しだけど…

 金の油が皮膚に染み込みきると、それが形成した模様の中心 ―壊れた部分に赤いプラズマのようなものが見える。万一生溶肉(スライム)に痛覚があったとして、痛む事もないだろう微弱な電流だったが、それをただの線香花火と断じるには無理がある。一つ、火花が消える。当然だ。だが二つ、三つと呼応するように次々と模様の上から姿を現し、遂には全身を覆う…かと思えば、ある瞬間に全てがパッとまるで何もなかったかのように消えた。そう思った刹那、視界が更新されると一気に赤雷が仲介水槽全体に嵐のように乱れ鳴り、炎のように燃え上がった。

 狂気の華は足掻く、身を焦がす罰炎を消さんと半身以上使った水面を荒立て、藻掻く。

だが炎は消えない。水程度で消えるわけがない。消えも衰えもせず、寧ろ却って炎は水の中で散り、身に着いた頃には火矢の雨として ―より大きな大火として収束し、どうしようもなくひたすらに罰する。

忌まわしき人食いを、喰った萌芽に身を蝕まれた様を公に曝すように悍ましき魔物を火刑に処し続ける。 ―罪は消えない、これは地獄の様ではない。この罪人の犯した大罪に比べれば、この程度が罰であるものか。これは罰する地獄ではない、浄化の煉獄なのだろう。

…きっとこいつは、罰されるいわれもないに。

ふと、そのような哀れみの火花が俺の中で舞い上がった。だがその火も眼前の大火に呑まれ、すぐに消えていった。

【あとがき】

 もう八月終わりますよ、七月なにしてたんでしょうね? もう夏休み終わりだってのに、まだ夏休みの課題終わってないってのに、受験生だってのに、なにも終わってない…

\(^o^)/【!オワタ!】\(^o^)/


至らぬ点ありましたら、どうぞご意見お願いします。


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