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外は危険なのでダンジョンにコモります!  作者: 雨傘音 無咲
遠い昔の因縁、絶対の死
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【第二十一話】俺の瞳を拾ってくれ(3)

 こういう、話の枕の部分を理解させる為にすべき事といえば、読み手聞き手 ―話を受ける側が事前に復習だのして大まかにでも知ってもらう事だ。だが今回この場合、前回を見てもらえれば今までの経緯及びこれから何をしようとしているかの理解を助けになる…なんて事はない。どうせ一言で終わるのでこの場で言ってしまうと『回り道しなきゃいけなくなったから適当な扉を見つけたらその中に敵がいて、俺が囮になりつつそいつらをフルトーさんが殲滅し、今その部屋を漁っている』という状況だ。これで前回を読む必要がなくなったのだからハッピーハッピーだろう。


「ほら、行くぞ」

「…」

漁った結果だけ言うと、俺達は隠し扉を見つけた。暖炉の薪たちを退けて、その奥になにかあるのではないかと斧で壊したら偶然見つかったのだ。

「もっと躊躇ったりしないんですか!?」

「ダメなら戻る。それだけだろ?」

「多分俺その戻る過程で死にます。ここまで確信のある予想はそんなありませんよ?」

「…じゃあ、もう少しここ探すか?」

「はい…そうしたいです」


明らかに道から逸れているのは判っている。だからこそ正規ルートに戻れるような階段や梯子だったりがあればよかったのだが、だが現実はより奇妙な形で実現した。

「…」

「さぁ、二つに一つだな」

「…そうですね」


なんともう一つ隠し扉を見つけたのだ。今度は釜を蹴飛ばしたらかまどの奥に隠し道のような ―"隠し穴"と呼ぶべき空洞が見つかった。


 さて、道は二つ、離れている。どちらも遠く、そして隠されていたのだからこの二つの道が合流しているわけではあるまい。どちらにも道も別の道であり、どちらにも別の未知があるが、どちらにも別の満ち足りる安全があるとは思えない。

「どっちも行くってのもありだ。物資の量がもっとあればおそらく最善 ―だがこのざまだ。両方とも完全に探索しようとなっては物資が枯渇し、素寒貧になる。物資より先に魔力が切れる可能性もあるから、慎重に考えろ」

「どっちか一つですか…」


何故俺に選択を任せるのだろう…自分で言っておいてなんだが、俺がもう少し頑丈なら両方探す事も現実的だったんだけど…お生憎様だ。

「かまどの方にしましょう…なんとなくですけど」

「よし、じゃあ、行くか」

テーブルの一つに腰かけていたフルトーさんは肥えた亡者を足蹴に少し跳ぶと、先駆けとしてかまど奥の隠し穴に入って行った。


【 】


 その穴の先、降った先にあったのは入り口で最初に見たような広い一本道、その脇から入ってきたようだった。

急流のように轟々とした流水の音。壁には張り付く生溶肉(スライム)。食べかけの死体と、仕切り直しを意味するには相応しい空間だと思えた。

それは私の私情と言うか、感覚の話であり、実際にこの空間においての"探索"の方向性を見出すものではなかった。だが幸いというか、この道は何の為にあるものであるはすぐ先を見れば判る事だった。


「『階段を降りろ』って、言ってんですかね? 逆に」


しばらく歩いて下方に目を向けると、轟音の得体を掴んだと同時に、それの行き着く先を確認できた。俺達のいる一本道の果てには中央の三メートルに水が流れていて、下の広い空間を仲介し、より下層に水を排水する機構を備えていた。だがしかし、仲介水槽とでも呼ぶべきだろう水の滴る空間には嫌な予感がしていた。予感と言葉を濁すのはやめて、率直に言うと"なにかいる"。法螺貝を吹かせる拷問をしている途中と言われた方が納得する甲高くもどしんと響く鳴き声、時折漂流する毒沼から来たのだろう亡者かアンデッドを容易く呑み込むどくんという音、一つの鋭い光が槍のようにこの身に危機感を突き刺すその巨影から想像できるのはもう、化け物以外ありえなかった。


「どうやって戻んだよ?」

「やっぱり横からですかね…」

そうして目を向けた水流の横側には、仲介水槽を跨ぐように両端に橋が架かっていた。

 もし罠に見せかけた茨の正規ルートだとして、彼の言うとおりに、上る手段が見当たらない。直情的に化物の巣に飛び込むには、"賭け"が過ぎる。となると消去法だ、端にある道を進む他ない。それは…まぁ、二人横並びに歩いても多少は余裕があるだろう幅で、その下もアーチ状でしっかりとした支えがあった。手すりや柵もあるわけだし、そう簡単に仲介水槽に落下する事もないだろう。

 

 「じゃあ、行きましょう」と、言いかけた途端に、脳に直接吹きかける風のようにするりと、鈴の音が聞こえた。ちりん、ちりん、ちりん ―まるで嵐の中の灯台で鳴らした風景が、絵画として記憶に叩きつけられ、染みつくように、自分の内側の深く、深い部分で音を感じた。

― その鈴を持つ少女は寂しげな表情をしていた。だが、それが真意ではない。その眠たげな眼球の奥底ではもっとなにか、別の感情を人形劇のように楽しんで動かしているに違いない。そう思えた。近づこうと、一歩でも彼女の近くのより言ってやろうと「お前の魂胆はなんだ?」と真剣に問いかけようと一歩踏み出した刹那、時間は音を遺し、消え去ってしまった。

『《呪枝の騎士、プラガハ》―戦場を求めんと、この音も下に彷徨ったのか』

少女の問いかけは俺の背後に向いていたように思え、その声の投げかけられた方を一瞬、向けた。

「…間違いはない」

両目を盗られた黒木の色をした亡霊の戦士は、そう言って頷いた。


 幻覚か幻影か、それとも奇跡というやつか。先ほどの正体は定かではない。だが、そんな事を知ってもどうしようもないというのは理解できる。時が流れ込むと、俺は後ろを向いていた。幻かもしれない、だが幻覚じゃない。

"現に今、黒木の騎士は横にいる"ッ!


 視界が一瞬真っ赤に染まる。眼球に血が塗られたのかと疑うほどだったが、よく見ればおかしいのは俺の目じゃない。それが映そうとしているこの世界の方だった! この世界自体がフィルターをかけられたようにどす黒く紅い!

「《反傷撃(ガードナ)》ッ!」

硬直していた俺とは違い、武器を構えられていたのだろうフルトーさんは魔法を使って防壁を創り出すと、俺を後方に突き放すようにして大斧で斬りかかった。彼の動きを追って、ようやく世界は色彩の支配権を亡霊の騎士から奪い返したようだった。

「死人の出しゃばる場じゃないぞッ!」

「自然には、死も含まれているものだ」

プラガハは防御らしい防御をせず、魔法らしい魔法すら使わなかった。だがしかし、彼の防いだ術は間違いなく防御術で、魔法だったに違いない。一点としてその"異形さ"を除けば。

 彼の異名は、真に受けるなら《呪枝の騎士》。『騎士』というのなら、納得できる。黒木色のシックな色合いの芸術性を感じる意匠を凝らした甲冑は騎士だと言う言葉に説得力を与える。けれどもそうして同様に『呪枝』といえる要素を探そうとするのなら難しいだろう。なにせ、今になってわかるのだ。枝がどこから生えるのか、何故《呪枝》なのか。

「種が入ると痛いんだ。しかし、芽吹き生えると喜ばしいんだ」

「はっ?」

大斧による攻撃を彼の異形の枝により受け止められてもフルトーさんの行動は冷静で、咄嗟にかけたのだろう凍結魔法が刃を伝って枝に伝播し、徐々に枝は凍てつき、冷気に上書きされた枝の禍々しさは触れれば壊れる儚さへと変わった。

「ヌゥゥルグァルハァァァッ!!!」

プラガハは自身に斬りかかった彼の腕を掴んだまま、人間には出せない ―まるで犬のような怪獣が中身であるかのような神経を揺さぶる狂気的な彷徨をした。

 それも一瞬だったのかもしれない。脳内麻薬かなにかで時間の経過が妙に遅いように感じるからか、しっかりと視てしまった。彼の張った氷は爆発的な速度で成長し、殺人的な茨へと変質した呪枝により突き破られ、攻撃の主たるフルトーさんを退けていた。

騎士と言われて、どこか侮っていたのかもしれない。大仰な演出を伴い召喚されたにしては、人間のように見えるからと、警戒の仕方を誤っていたのかもしれない。だが、それを訂正する機会はないだろう。コイツは死人で、亡霊だ!

「《不尽世炎(プロメア)》だ! 《不尽世炎(プロメア)》で燃やしてしまえば―!」

思考に従わず、声は直感通りに非合理な提案をしてしまう。視れば判る、枝なのは見た目だけだと。鑑みれば解る、燃やして終わるものなどではないと!

「黙って逃げろッ! 半人前!」

彼にそう言われてからの事はよく把握していない。言葉通りに動くべきか迷ったのかも、或いは従順に従ったのかもしれない。結果だけでいえば俺は逃げた。最後に視界に映ったプラガハは甲冑を無視して身体から生えた呪枝は素晴らしく統制された槍のように、針のように動いて目の前を敵を排除せんとした。相対するフルトーさんは俺に言われるより前に体を不尽世炎(プロメア)によって燃やしており、その炎はどこか不自然な魔術然とした溶岩に近い赤色ではなく、気合の入った蒼色だった。彼の発する炎が、遂に全力で逃げている俺が構成する呪文を視認できるほどにまで大きくなると、爆炎と共に世界を一度見失った。


 目を開けるのには、ぎこちなさを覚えた。油の切れた機械のように滑らかさに欠き、あとしばらくグリスを差さなければブリキの機械は止まってしまうのではないかと思われた。それもそれで、私には似合う気がした ―止まったブリキの機械は、心がないものだから、俺と似ている気が下から。

 気が付くと、周囲にはどこもかしこも火がついていた。火災の結果、というよりは隕石が飛来してきたと説明された方がまだ納得がいく。隣で息を切らしながら燃え尽きて灰にでもなろうとしているように、色褪せたフルトーさんが見えた。起き上がろうとすると、少し顎が痛い。倒れた時に打ったのだろう。だからじっと、彼が指した先を見た。

どうやら俺達は、巨影の主たる巨大鼠に打ち勝たなければならないらしい。

俺と彼の瞳がそいつの突き刺さった短剣により瞼の動かない隻眼と睨み合った。不思議と負ける気がしない。自然と勝てる気がしない。だが、負けられる理由は思いつかなかったし、勝つべき理由だけで今は充分だった。

「てめぇのもう一方の目も抉り出してやるッ! クソネズミィ!」

【あとがき】

 新幹線の中で書いてるんですけど、保存前に他のところにコピーしようとしたらカットしてしまいまして…なんとかデータは残ってたんですけど、怖いですね。操作ミス。

 というか今回のオチ、『こまめに保存しよう』。ってな具合で。


至らぬ点ありましたら、どうぞご意見お願いします。


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