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外は危険なのでダンジョンにコモります!  作者: 雨傘音 無咲
遠い昔の因縁、絶対の死
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【第二十話】俺の瞳を拾ってくれ(2)

 緋鈍連鋼(アカヴィレウム)なる合金により造られた『黒の儀剣』という武器を偶然…というには意図的に封印を解いてしまったような罪悪感を感じる経緯だったが、現実それでもどうにかこうにか"不定形の溶かしてくるヤツ"という心底厄介な敵に対する有効打が手に入ったのは非常に大きい。そしてそれがこんなにもカッコいい事がより大きい。水道のようなここで使用するには些か武器性能を発揮しきれないところはあるが、素敵性能は遺憾なく発揮している。


「いいなぁ、これ」

「そんな良いものか、それ?」

わざわざ後ろを向く気質でもない彼ですらこう反応するのだから、その私の表情は相当に惚けている様だったろう。

「良いものでしょ! 『伝説の合金製』『対処手段の少ない生溶肉(スライム)への特攻』! どう見ても魅力的でしょ!」

「だとしても時々躓いても、一秒も目を離さずに七分以上見蕩れる代物とは到底思えない」


冷静に言われるとなんとも正気の沙汰ではない行動だ。ましてこの上り下り、湿気の多い滑りやすい環境下でそんな事をするのだから、もうそれは尋常の剣の為せる業ではない…


「正しく呪いの武器だな…」

「お前が馬鹿なだけだ」


 そんな楽し気な会話を交わしつつも異常遺跡の攻略は進んでいるように思えた。

異常遺跡 ―誰かの心象風景を基にした"ある筈のない遺跡"。だが現状、現実離れしたものというのは入って早々の人肉スープ以来、ない。普通に死体とかはあるけど、異常性は感じない。夢破れて…ってストーリー性は感じるけど、それがどうって訳でもなさそうだ。

と、思っていたのも思えば束の間だったのだろう。俺達は今度はストーリー性だけでなく、異常性も感じる死体を発見したのだった。


「…溶かされるとか、齧られてるとかじゃないですよね。流石に」

「そうだろうな ―上半身丸々無いってのは、『喰われてる』でいいんじゃないか。一口でぱっくりと…見事なもんだ」


しゃがみながらまじまじと見る。冷静に考えると死体なんだけど、あまりショックは少なかった。

この三日の間で多くの埋葬されていない死体を見てきたと思う。カエルにゴブリンに類人猿に亀に…勿論人の死体も見た。死の瞬間そのものに立ち会えたの自分の手でやった亀くらいだが、そういう"死後"どうなるのかのサンプルは多く入手できた。色々あまつさえ死後操られ、尊厳というものを感じられない死体 ―というより肉塊の存在すら知った今、多かれ少なかれ耐性ができているのだろう。

だがおそらくはそれだけではなく、上半身が消え、その他も生溶肉(スライム)に溶かされているそれをもはや人間の体とは思えず、蠟人形か何かだと言われた方が納得する見た目だったからに違いない。


「…」

他の理由として考えられるのは、こんな芸当できるのはどんなヤツなのかが全く想像できないからというのあるのだろう。真面目に考えようとしても、脳は生物兵器的来訪者と秘密結社の戦いがあって、この死体はその巻き添えで…とかしか出力しないのでもうお手上げだ。

「巨大鼠とか、いるかもな」

「やめてくださいよ、そういうの!」


ネズミやゴキブリを嫌う理由として、強烈な異物感とモンスター感がマッチする事により人間ではない=敵という判定がされるからだ、というのは以前見たテレビでの知識なのかニート生活が香ばしくなったきた時期の産物なのかは釈然としないが、一理ある考察ではあるのだろう。

…今俺は目の前に自分の身の丈以上のネズミを想像している。正直滅茶苦茶怖い。人を二口で食えると注釈を付けられると尚怖い。怪談というか化け物退治の逸話っぽさをも感じてしまう。

妖怪とか怪異じゃなくて単純なモンスターなんだよ、そこまでいくと。おっかなびっくり生物の枠を大きく超えている。


「原因は何であれ、こんな結果に影響する因子が存在していると判ったのはいい事だろ」

「そうですけど…」

パニック映画もこう冷静な判断を下せる人がいると怖くない…というのは誤解だな。提示された知識が覆されるから"脅威"って感覚を演出できるわけだし。わけだし…恐怖の墓穴を自分で掘った気がする…


 引き合いに出したパニック映画なら、固定ファンが出来るわけでもないただのB級映画で終わりそうな展開―『割とすぐにそのモンスターによる被害者がでる』という事にはならなくてよかった。それどころか今現在、実に遠回りの回り道をしなければならないようだ。

 崩落と言ったらいいのか、珍しく鋼鉄製と思われる重厚な扉があったらしいそこは天井から雪崩のように崩れたらしく、堅牢さと迂遠さを与えただろう扉と共に道は使えなくなっていた。

「…壊せます?」

一応聞いてみる。ひょっとしたらこの瓦礫の先にはまだ道が無事に残っているのではないかと期待する意味を込めて。まぁ、それでも望み薄なのは既に分かっていた。

「壊しても悪化するだけだろ…他の道探すぞ」

「ですよね…」

予定調和に絶望的だった打診は想定通りあっさりと否定された。

 今までほぼ一本道だっただけに、なにかここで正規ルートを逸れる気がしてどこか嫌だったが、しょうがないと諦めて、仕方なく他の道を探した。


 やはりと言うべきか、どんどんと水道らしい風景も崩れていき、とうとうなにか酒場のような ―儀式的とも違う"部屋"と言える場所が見えてきた。祭壇もなく、生溶肉(スライム)がいるという風でもなかった。形容するのなら、やっぱり"酒場"が相応しい。魔獣の類はおらず、いるのは人だけ。その彼らががっつくように食事をしているというのだから、その有様は既存の言葉で言うのなら"酒場"とするのが適切だろう。

()()()()()で、言うのならば、だが。


 「《沈歩落(ニァガッタ) 残心(レ・コト)》、二人分(ト・ディオン・トル)

俺より先に視界情報の整理をし終えたフルトーさんはかつて足音を消すのに使った隠密魔法を自身と俺の二人分発動し、伏せさせた。


 地の文 ―俺の心の言葉だけを信じてるヤツならひょっとしたら思うんじゃないかな?

『何故酒場なのにこそこそネズミみてぇに惨めったらしく隠れてやがんだ。真っ正面から相手を叩き潰して俺をスカッとさせろ』、とか。

忘れてはならないのはここが異常遺跡である事、魔獣のみならず、魔物もいる ―人型のモンスターがいたって不思議じゃない迷宮(ダンジョン)の中での出来事だ、という事。是非ともタイトルを見直してきてほしい。何なら転生して初日に『ダンジョンにコモります』とかなんとか言っていた筈だ。

そうもなると、真っ正面から叩き潰すなんて…笑ってしまう、なんと甘い考えだろう。いつかのどこかで聞いた比喩だが、『大学のラグビー部員のロッカールームにスクール水着で潜入する以上に危険』だ…確かギャグ映画だったと思う。…ちくしょう、もっとマシな比喩が思いつけばいいんだが…


「えらく真剣そうな顔だが…表情だけだな。さっきの剣でも構えてろ」

すいません、と謝りたいがこういう汚名は行動で挽回するものだ。

「作戦は?」言われた通り剣を…長剣なのに両手持ちだが構えると、そう尋ねた。

「お前が一番に目の前をひょろい亡者を()れ。多分下のデカブツと犬が向かってくると思うから、俺はそいつらを爆発させて数を減らす。残ったのは…まぁ、いけるだろ」

「…つまりは囮ですか?」

「そうなるな、多分大丈夫だ」

多分大丈夫、ね。別の味わいを求めるように何度もその言葉を噛む。

一体どうした事か、生憎剣なんて持った経験がない。

高校の体育ですら柔剣道のどちらだったかと訊かれれば「柔道でした」と答えるしかない具合だ。それでも槍で刺すには音が出すぎる、反論はできない。

…これもまたしょうがなく、って感じだ。文句を言ってもどうしようもない…するべき事をやれる事に昇華する作業だ。

「…信じていいんですか?」

「お前への信頼ありきだ」

なるほど、ならしょうがない。不安だが満更でもない、不思議な感覚を伴いながら、俺は早速標的を見据えた。


 この部屋の構造をおさらいしよう…というか、描写すらしてなかったか?

なら、いっそ良い機会だ。判る限り言おう。

 まず俺達の入ってきた入り口とその近く、ここを仮にAとする。Aは人が首まで入れるくらいの大きめの樽が三つくらいあってもまだ少し余裕がある広さをしている。そしてそのAを左に曲がると直進するエリア、Bがある。特筆すべき物はなさそうで、強いて言うなら壁沿いにAと同じように大きめの樽がある等間隔で二つずつ ―計四つある程度。…大きさが大きさだから罠の可能性がありそう、余裕があれば壊しておきたい。とはいえ、物だけじゃなくて、しっかりと敵にまで気を払う必要がある。道中にいる不完死屍(アンデッド)の亜種みたいなヤツ ―亡者というらしい魔物がいる。多分俺でも倒せるが、倒すだけでいいってわけじゃない。

 Bの端まで着くとAの方向に降りる為の階段があって、降りた先は相当広い。晩餐に使うような大きな細長いテーブルが三つ置け、暖炉や釜、調理器具の類も揃っているどころか、ワイン樽らしきものまである。入口の釜のような儀式的な施設ではなく、もっと…ただ"食事をする"為の空間のように思えたから"酒場のよう"と感じた。やろうと思えば大宴会でもできそうなその場所 ―Cは思ったよりは敵がいない。Bにいたような亡者が三体と明らかに様子のおかしい尋常じゃない犬が二匹、そして何より毒沼にいたあの肥大化不完死屍(アンデッド)に比肩しそうなサイズの肥えた亡者 ―フルトーさんがデカブツと呼んだ奴の計六体がいた。AやBはCと違って俺の胴あたりまでの高さの柵があるので、こいつらがAやBに来るには階段を経由する必要がある。

 作戦は俺がBで亡者を倒し、Cの連中をBに誘い込んだ後、AからCに柵を飛び越えて降りたフルトーさんによって後ろから不意打ちして楽に終わらせよう、というものだ。


 生憎剣なんて持った経験がない。高校の体育ですら柔剣道のどちらだったかと訊かれれば「柔道でした」と答えるしかない具合だ。それでも槍で刺すには音が出すぎる、これもまたしょうがなく、って感じだ。文句を言ってもどうしようもない…するべき事をやれる事に昇華する作業だ。


「行きます」

「おう、しっかりな」

見送られる、なんて言えるほど情にあふれたものではなかった、だが作戦遂行の為の機械的な期待だけだったかと訊かれれば、多分、違う。


 魔法で足音が出ないのを利用して、俺は出来るだけ速く走り、その速度と体重を精一杯込めた一撃を、亡者を巻き込んで樽を壊すように"斬る"よりは"ぶっ叩く"と呼ぶのが適切だろうほど力任せにぶち込んだ。本能レベルで意図してか…単純に偶然だろうが両手持ち(ツーハンデッド)の効果により、引きこもりの非力さでもなんとか樽を壊せた。

 徒労に終わらず良かったというべきか、壊せてなかったら普通に襲われてたと思うとぞっとするというべきか、結果だけで言えば予想通り樽は罠で、中には亡者が入っていたらしく、柵と柱に叩きつけている頃には儀剣の先には二体の亡者がいた。一度柱に亡者ごと突き刺さった剣を引き抜くと同時にもう一発、今度は確実に頭部を狙って ―トドメとなるだろう一撃を加えてから、返す刀で最初から見えていたもう一体を攻撃する。勢いだけの動作だったので当然全てがうまくいく事なんてなく、避けられて襲いかかられた。だがダメージを負う前になんとか剣を盾のようにそいつに突き出し、打ち倒せたらあとは床に向かって何度も何度も斬りつける。というより叩きつける。


「はぁ…はぁ」

儀式用とはいえ、この儀剣けっこー重い。重心の問題か、思ったより振るのにも力がいる。

「これ以上…は、無理だな」

向かってくる亡者やそいつらを押しのけて我先にと走ってくる犬の存在感が増すのが判る。役回りとしては成功したんだろう、けど正直不安だ。階段は狭いように見えたから、肥えた亡者が来るまでは時間がかかるだろう。しかしそれよりも先に普通の亡者や犬に喰われるのではないか?

…とすると、今の俺じゃ自衛力そんなない。あっけないだろうな、と思う。


「ボァオウラァァ!」

少し遠くから声がする。声の低さからして、多分肥えた亡者のものだろう。その絶叫のような声を聴いた時、不思議と安堵した。


「もう、いいですよね…」


応える筈もない彼に向かって了承を得るように、俺は剣を手放し、膝をついた。


「あぁ、及第点だ。だが二度目はない、今のを普通にしていけ」

「手厳しいですね…フルトーさん」


俺が亡者二体と追加の一体に一分ほど時間をかけている間に、彼は既に俺に注意を向けていたやつから順に始末していたらしく、階段まで辿り着けていたのは肥えた亡者一体と犬だけだったという。

犬が先に来られたらまずかったが、途中まで彼の相手をしていたからか階段を先に上ったのは肥えた亡者で、そいつは予想通り上るだけで時間がかかるので必然的に犬が先に襲いかかる事はなかったそうだ。


「いい一撃だった、頑張ったな」

「ありがとうございま…すッ!」

立ち上がるついでに床に突き刺さった儀剣を引き抜いた。案外深く突き刺さっていた。

「だがあれだけで疲れちゃ世話ないぞ? 役を全うするのはいいが、その後の事を考えて体力は少しでも温存しておくべきだ」

「…ただじゃ褒めてくれないんですね」皮肉めいた調子で言った。

「そりゃそうだ。一つ問題を解決したら、また一つ解決すべき問題が姿を現す。その繰り返した」

「無間地獄ですね、そんなんじゃ。罰でも受けたみたいだ」

俺が聞こえていなかっただけで彼は相当激しく暴れたらしく、階段の一部が消し飛んでいた。ほんとに爆発させたのかよ。

「それは罰じゃない、『壁』と言った方がいいだろうな。あるいは試練だな」

「…大変ですね、努力って」

「確かにそこだけ言うなら地獄という気持ちも解る。罰というのも納得だ。だがそれで言うなら人は皆咎人で、皆悪魔に片足乗っ取られてる。というか、お前は努力という概念を考えるより、ただ実直に研鑽すべきだ。地力が足りないんだよ、鍛えりゃ少しはマシになる」

「…そーっスね」

完成した筋肉を持つ彼が言うのだ、と考えるとある程度は説得力を感じると同時に、遠い話だな、とも感じた。

「何もしないよりはいいだろうって話だ。手段を選んじゃどうしようもない時だってある。そんな時ぁ、龍の口の中にでも飛び込め」

「…」

注釈をすると、俺はこの時返す言葉が思いつかなかったわけじゃない。というよりは主にツッコミの仲間だが、色んな言葉が舌の上で待機券を持ちながら、「今だ!」となれば発進する準備は整っていた。では何故言わなかったのか、というと…

「やるんですね。解体」

俺達は死体の前で二人とも刃物を持っている。そして何より情報が欲しい時に「手段を選ぶな」という発言。俺は察しがいい方のようだ。

「あぁ、これが"龍の口"だ」

「…はい」


ここから先の事は描写するまでもないだろう。原型の有無にかかわらず、俺達目ぼしい死体を片っ端から解体しまくった。その結果一体の肥えた亡者から錆びた鍵を見つけたり、暖炉を漁っていたら隠し扉を見つけた事に関しては俺としてはその様子を描写したくないし、それを好む人間も稀だろうから、しない。ただ一言言うのだとしたら、歯医者なんてなるやつの精神状態が理解できない。その一点に尽きる。

【あとがき☆】

 諸事情で『家でゆっくり書く』ということが出来なくなっているので、投稿頻度、落ちます。

話が進まねぇ、ですわ…


至らぬ点ありましたら、どうぞご意見お願いします。


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