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外は危険なのでダンジョンにコモります!  作者: 雨傘音 無咲
遠い昔の因縁、絶対の死
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【第十八話】戦い続ける、孤独なまでに一人…(7)

【深海の白衣】

 『深海』と呼ばれる儀式の巫女に着せられる白いローブ。

人間として無垢であり潔白と証明する美しい上等な衣であり、防御力の類は期待できない。

人は原初にして何かの影であり、闇であった。その暗黒に身を捧げる冒涜的な行為は『深海』と呼ばれ、少女達は深き水底に沈められた。

 手足が煮られていた。

―誰の、いつから、どうして?

―そんなの知らない。知るわけがないし、知りたいと思う道理もない。

だって一言、その一言だけはみんなが知ってると思って生きてきた俺にとってその光景はあまりに冒涜的で、道徳や倫理のはるか先に位置していたものが急に近寄ってきたようで不気味だった。

『人間は人間を食べちゃいけない』と。そんなの、言わなくても解る常識の筈だった。だからこそほんの一瞬、疑ってしまった。()()()()()()()()()()()()()()()()()() ―どうしてしまうのだろう。もし、人間が人間を食べる事に違和感を持たず、あまつさえその人の常識にさえなってしまうような状況だったなら、俺は…異世界(この世界)を信じていられるのか。


 目の前の光景に目を疑った、というのは衝撃的な現場を目撃したのだとしたら至極当然の行為だ。それはもう美味しい豆料理は一粒一粒じゃ満足できないとか、エアコンを「自動」に設定してたらいつか「ちょっと寒いな」と感じる事と比較しても何ら違和感のない話だ。

だが当然と思われる行為にはその裏に"当然と思われる別のなにか"があるわけで、今俺はそれを知らない ―知っていても完全ではなかったり、決して"持っている"とは言い難い状況だ。

…つまりは「目の前の光景に目を疑った」なんて「目という自分の側にあるものを疑うのが当然であるほどその光景を目撃してしまう世界を信じている」という前提条件がないと抑々当然の行為ですらない。

だから、当然の行為すら封じられた俺はどうしたらいいのだろうか…?


「…」

「見せてみろ」

「…はい」

震えも怯えも出来ず、俺はただなんとか心を無にしようと思いつく不安の中の理不尽に黙れと言って、全ての疑問にエスケープキーを押すしかなかった。押し続けるしか、方法を思いつかなかった。

「…まぁ、食用だろうな。間違っても見せしめだとかそういう何の意味もないもんじゃないと思う」

「…じゃあ…誰が?」

()()()()()()()()()、その問題は俺の中で比重を増しつつあった。どうしてではなく、誰がだ。

「さぁな…だが、魔物や魔獣じゃないだろうな。あいつらはこんなに手の込んだやり方はしない ―異常遺跡内という事を加味すれば、この遺跡の基盤となった考えを持つ奴が人間を食べた経験がある…って事なんだろうな」

「…どちみち、人は食べられてるんですね」

「そうだな、今にしても昔にしてもあるにはあったんだろう」

「だったら ―」

「だが、それをおかしいと思いすぎるなよ。豚人(オーク)の前で豚を食べる事が無神経とされるように、汎人(ゲネラミド)の前で人食を始める連中は稀だ。…皆無じゃないが全てじゃない。肝に銘じとけ」

「…はい」

『皆無じゃないが全てじゃない』か…事実がどうであれ、その言葉が聞けていくらか気が楽になった。

 

 この後俺は外の警戒という事で部屋の内部にはフルトーさんだけが残り、釜の中になにが入っているのかを調べていた。結果としては煮込まれていたのは三人の少女の死体だけで、その他に入っていたものはないらしい。解ってみると意外に素っ気ないというか、茹でるだけなのは料理の過程というにはあまりに質素で曰く「食用は食用でも儀式としての側面が強いのだろう」という考察は俺も支持したい。

それでも、美味しそうな匂いがするなと思ってしまったのは…


「…これだけじゃ何とも言えん。深部に進んで、もう少し情報を得たいところだな」

「やっぱり…」

「こればっかりは"全て"だ。例外なく異常遺跡という存在は誰かにその全貌を理解され、深淵の人間性を解呪される必要がある」

「深淵の…人間性?」

まるっきり判らない単語が出たのは今日が初めてではないが、なまじ知ってる単語を合わせたものなので変に偏見を持ってしまいそうだ。

「そうか…思えば説明難しいな」


釜を覗いた時の台座に腰掛け、彼はしばらく考えた。


 「…あー…例えばだ、物凄く欲しい絵画があったとしよう。瑠璃石の岩絵具も使われた美しいだけじゃない上等な絵だ。想像できたか?」

「まぁ、はい」


瑠璃という事で『真珠の耳飾りの少女』でも想像した。生憎絵画どころか美術の知識もセンスもないのであれを欲しいとは思わないけれど…まぁ、そこはロールプレイだ。


「お前はそれをどうしても欲しい。たとえ盗んだとしても、持ち主を殺してでも ―奪ってでも欲しい」「― だが、それは出来ない」

「あぁ、そうだ。盗みも殺人も罪で、何より罰せられる。そういう感情を爆発されるような苦悩が過剰に溜まると一存在には大きすぎる"願う心" ―《人間性の闇》が生まれる」

「欲しがるとダメなんですね、ってなると」

「いや、欲しがるってのは悪くない。適切なものなら動機として人を動かすものになるからな。『金儲けしたい』とかが分かりやすいだろう。だがそういうのも過ぎればどんどんと意地汚くなる、そしていずれなっちまうんだ文字通りの()()()()にな。この亡者になる ―《人間性の闇》に呑まれると《深淵》に魅入られる。《深淵》ってのは原初たる渇望の闇…人間以前に"存在"としての段階に逆戻りしちまう。そうなるともう人間には戻れねぇ。川から海には流れに任せても出られるが、海から川に戻れない。人間じゃなくなり、化け物になっちまう」

「本当に化け物になるんですか? 比喩じゃなく?」

「あぁ、昔俺の目の前で溶けた犬みたいに変身した奴を知ってる。そうなっちまうともう人間には戻れない。異常遺跡ってのは基盤となる《人間性の闇》があって、それが奇跡としてありもしない独善的な理想郷を形成するわけだ。『深淵の人間性を解呪する』ってのはその《人間性の闇》を徹底解剖して、理詰めで論破する行為に等しい。大昔の魔法学者曰く『人の力が欲であるのなら、人の原罪とは人として欲したからである』なんて言葉もあるくらいだから《人間性の闇》を暴くとはそいつの欲を暴くのと同じようなもので―」

「…」

「…つまり『お前があの子を気にかけちまうのは、あの子好きだからだろ』と諭してやるようなもんだ」

「…そんなもんですか?」

「まぁ、こんなもんだ」


闇とか深淵とか言ってるわりに結論が予想外の方向に行ったんだけど!

…そんなんでいいのかな、解呪って!


 「お前も思ってたろ、『なんでこうなってんだ』って」

「そういうのばっかですよ。自分でもなんでちゅーたを連れてきちゃったのか解ってないくらいです」

ごめんちゅーた、ノリだったくらいしか思い出せないんだ。

「なら好都合だろ? 嫌でもどうしてか理解しなきゃいけねぇんだ」

「解ってますよ。『皆無じゃないが全てじゃない』でしょ?」

「…肝に銘じすぎだ」

呆れ半分、自嘲半分混ざったような軽い笑いの後、俺達は部屋を出た。

外の滞りなく流れ続ける水の音が俺の悩みさえ、機械的に ―物の序でに流してくれると期待して。

【ひとこと】

 カニバリズムを示唆する描写を入れたかったんですけど、あれって食人なのか人食なのか分からなくなってきました。

食人は"人を食べること"という名詞で、人食は”人を食べる”という動詞だと解釈しました。

…ぜってー違う。


至らぬ点ありましたら、どうぞご意見お願いします。


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