【第十七話】戦い続ける、孤独なまでに一人…(6)
詳しい経緯は省略させてもらうが、俺は俺自身が気付いていなかっただけで何かを求めたのかもしれないけど表向き気分転換として久しぶりに家の外に出たら、あっけなく死んだ。改めて一生分の思い出ですとラベル付けされて見せられるには短く、内容の薄い走馬灯の後、前見た映画の影響か1999年か2000年代の初め辺りの雰囲気の部屋で目が覚めた。そこで物凄くハンサムだけど風変わりなな紳士風の ―だけど科学者のような印象を与える青年と少し話した。内容としては大した事はなく、雑談の粋は出なかった。― 今思うと最初らへんの"英雄"だの"人間"だの"運命"だの、そんな具合の哲学的な問題に真面目に答えなかったかもしれない。ともかく、体感時間はかなり話した記憶がある…記憶と言っても妙だけど、確実に"体験"はしていた。長ったらしいようで話題は俺に愚痴るよう求めていたようなものだったので嫌になる事はなく、話が終わった頃には生まれた世界 ―前世への憎しみや失望とそれに比例するな来世への大きな期待を持っていた。
気が付く頃には念願の異世界転生だと勝手に興奮していたが、当時の気持ちが期待一辺倒だったかと言えばそうではなく、不安はあった。
…言葉にしづいけど、多分現実味があってほしくなかったんだと思う。
有り体言えば、どこかでロマンを期待していたのかもしれない。相応しく振舞えなくても王族貴族に生まれ、賢くなくてもひたすらに才能や運に恵まれて策士や黒幕を気取りたかった。人望がなくても、心の強さや己の哲学がなくても悪の組織の長や魔王になって逆転勝ちを成し遂げ、虐げられていた同胞とも呼べる人達に賞賛されたかった。自分にそんな能力なんて扱える訳がないと判っていても勇者に導かれたかった、良い評価を必然とするような皆が知る伝説の武器を持ち、都合よくなってくれる ―"頼りになる"仲間が一緒にいてくれて、他人とは圧倒的に優れた正体不明の ―何も考えなくてもいいチートじみたスキルで才能や努力を鼻で笑える優越感が欲しかった。
そう、欲しかった。それが理想だった。
叶わないとは理解していたけど、理想に酔って現実を忘れたかった。そして少しでも、そのせめて酩酊には値するだろう稚拙な理想が本当であってほしかった。
もう無力と理解していてもディスプレイの前に座って、喰って寝て ―どこか、なにか、変わろうとしたけど代わり映えのない日々を否定してほしかった。変化のない、刺激のない鈍化した動こうともしない日常を変えてほしかった…壊してほしかったんじゃない。ただあの代わり映えのない立ち止まった日々の意味をせめて"停滞"から変えてほしかったんだ。
せめて、あの停滞した日々を偽物だと断言して、他人が見ても文句の言われないような"安定"した日々へと導いてほしかった。
希望が欲しかったんだ。
無力だと納得していても、目の前に変われる機会が見えていてほしかった。
だから、今目の前で蠢く"知っている現実"への嫌悪感が消えない。
「…死ね」
憎い、何故消えない。
「死ね」
何故俺の知った姿の化け物がいる。
「死んでしまえ!」
何故異世界だというのに俺の知る姿の ―ただ大きくなって化け物と呼べるだけの、大鼠なんかが存在してるんだ!
「落ち着け」
「あ゛!」
獲物を横取りされたからという生存に必須の怒りではなく、単に理不尽な怒りの矛先を失っただけ ―おもちゃを取り上げられた赤ん坊が泣くようなひどく幼稚な感情が動いた後、目の前にいる恩人が何と言ったのかを理解できた。
「情緒不安定だな、お前」
「すいません…ねずみは嫌いで…」
一心不乱に突き刺された銛の所為で見るも無残な様になってしまった大鼠の死体を見て、そう言い訳をするように ―というよりは自分に正当な理由を与えるように呟いた。
「…それは構わんが、ちゅーたの前で言ってやるな」
「あっ…」
表情も作れないけど申し訳なさ全開のまま肩に乗っているちゅーたの方を向くと、彼はひどく怯えていた。当然だ、自分ではないとはいえ、近しい存在が目の前で虐殺されたのだから―
「…ごめん、見えてなかった」
暴走の責任を能力不足のこの身で少しでも認めようと、慰める為に肩の上で真冬の湖に取り残されたように震えるちゅーたを手の中に移す…
「…ん?」
怯えてはいるのだろう。だが怯え方が不自然というか、死を前にした恐怖にしては軽いと感じるのは気のせいなのか…?
「あんま気にすんな、見えてないのはそいつも同じだ」
「それってどういう…」
「そいつ、ただ自分より大きい鼠にビビってるだけだからな。お前が突き刺したとことか見てねぇよ」
「…」
…まぁ、解らない事はないけど…俺だって巨人とか見たらちゅーたと同じように怖がるだろうけど、今怖がるの、そこ?
その後割とすぐ、俺達は大鼠を三匹とも掻っ捌いた。
異常遺跡で遭遇した魔獣なのだから、何か特別なものでも食べているのではないかという疑いからの行動だったが、結果だけで言えばそんなに大した事はなかった。胃の中には不完死屍の肉が入っているだけだった。生きている死体ではあるけれど再生するからか喰われていた肉片は…新鮮というわけではなくても、腐ってはいなかった。
「…あ。そういえばフルトーさん、不完死屍って燃やしましたか?」
「燃やしてはいないが、まぁ大丈夫だろう。毒があるし、再生力も弱まってるだろうから無力化はできてる。どうしてもってんならそこの炎にでも突っ込めば決着がつく」
毒―大鼠の牙が持っているそれは魔物相手であっても効果を発揮するとフルトーさんに言われ、この後一匹の牙を持たされる事になるのだが今は置いておく。
大鼠に貪られた不完死屍皮はおろか、肉さえもほぼほぼ食い尽くされ、毒によって不完死屍を不完死屍足らしめている再生力が弱まったからか骨が剝き出しになっている。
「…」
生前は女性だったのだろうか、残っている皮膚などから生前の面影を今の朽ちた顔から想像すると、相当若いように思える。ひょっとすると俺より ―青年期にすら入っていない幼い少女だった可能性もあるのか。そう思うと、報われない話だな。
「異世界の一般的な弔い方は分かんないけど…」
異常遺跡と ―現実とは程遠い場所での出来事とは判っているけど、俺が正気を保つ為に人が人にする礼儀として…火葬するつもりで釜の下の燃え盛る炎の待ち構えるかまどへと投げ込んだ。
以前リールスと出会った時に襲われた個体とは純粋な質量も違ったんだろうけど、どこか見た目以上に軽く、藁人情を蝋で固めたような人の偽物のように思えた。
「燃やしたんならその序でで、釜でなにが煮てあるか見てくれ」
「煮てある…んですかね。ただお湯を沸かしてると考えたんですけど…」
議論するつもりもないのだが自分なりの考えを伝えた後、近くにあった台座に乗って釜の中身を覗こうとした。大きさが大きさなだけあってその釜はかなり背が高く、俺の170cm代の平均そこそこの身長だと少し背伸びしないと完全に上から見る事は出来なかった。嗅覚が話す限りでは、最低でも肉の類であるような ―そういうスープでも作っているような美味しそうな匂いがするな、と吞気に思っていた。
不安定な足場に立って、中身を調べるよりも立っている事に集中していた俺は一体何が煮られているのかをすぐに理解できなかった。だが、一体でないのは確実だった。
「…手足…」
驚きも、戸惑いも出来なかった。
「なんだって?」
彼に問いただされて初めて理解する、目の前のそれがなんであるか判断できる。
理解して、その判断を疑った。だがそれはどうしようもなく、覆しようもない事実だった。
「人です…人が煮られてる」
【ひとこと】
水瓶と釜と壺と土鍋の違いって何なんだろう、呟きながら炊飯器を開ける。そして視界が曇る。
米、安くなりませんね。
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