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外は危険なのでダンジョンにコモります!  作者: 雨傘音 無咲
遠い昔の因縁、絶対の死
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【第十一話】刻が未来に進むと思ったのか!(4)

 奇妙な、だが同じくらい奇妙な場所を行こうというのでこれ以上に信頼できる案内人は逆説的にいないのではないかと思う彼 ―怪人、『時計頭のギールイ』。

俺達は彼の先導に従い、迷宮(ダンジョン)の奥に奥に進んでいく。


 次第に洞窟らしい様子だった道は、いつしか人飲み大蛇かなにかが掠め取ったような大きく不規則な穴が目立つようになった。かと思えば昨日のような溶岩の流れ、かと思えばむしろ真逆に踏んでも壊れない霜が張られている。

 一分経つ毎に世界が常識外れに映るのは、もう慣れた光景だ。


 「…思ったより喋るんだな」

フルトーさんがそう話を切り出した。


「どういう事だ?」

皮肉という風ではなく、単純に意味を求める為にギールイは返した。

「いや、以前お前の…何代目か前の()()を見かけた事があってな。その時に多少観察してみたんだが、結局一言も発されなかったからな。現状に驚いてるんだ」


「そうか…」

そう呟くと、今度はすぐに返すのではなく、沈黙した。

なにかしらの答える言葉がないように思えたが、頭の時計ではティクタクと秒針が規則正しく滞りなく進んでいた。

言葉を吟味し、精選している過程であるのだろうか?


俺の思考がほぼほぼ停止していた頃、ギールイの方は完遂したらしく、話を再開していた。


「言葉は多くを語らない。意図して作り出された法則である言葉では思考やそれに未満の知性の星屑、奔放且つ自由な感情すら型にはめて出力する為、限界がある。

私が知る限りではこの概念は『共通意思疎通方法(ヴェーディラング)の限界(ノ ゲンズヴェイト)』と呼んだはずだ」

「言葉よりも見て学べ…という事か?」

「概ねその通りだ。訂正するのだとすれば、『見ろ』というよりは『一つの方法に固執し続ける』のがよくない。見て聞いて触って、多角的な視点から全体像を捉えると自ずと一つの面に限定しても情報が深くなる。空を飛ぶだけが鳥ではなく、意思を伝えあるから人類ではない」

…研究者気質だな、と半分程度は感心から来るが他はまた別の―諦めにも近くフルトーさんは言った。


 傍から見た感じ、二人はダンジョン(ここ)での経験は同じく豊富な人物だ。

だが、どうにも相性が悪い。険悪でこそないが、和気藹々とは程遠い。

というか…探求者と戦士って、そりゃ方向性は別だけど、俺の心のどこかで協力的に取り組める共通分野だから力を貸し合おうと誓う ―とか、そういう事があってもいいんじゃないかなと期待したりもする。


…こういう現場を見ると呉越同舟なんて所詮はと失望する。

それこそギールイの云うように型にはめて考えようとするから限界があって、予想だにしていない事が起きてしまうのか…

 予想してなかった事故と、予想していなかったから起きた事故って結局別物だし…彼の考えを模倣して色々と思いを巡らせてみても、結局俺には高次すぎる。


 ―根本的に倫理とか論理が違うんだろうな…所詮別人だからと、少なくとも今は完全に理解しようとは思わない。


 「もし答えられるならでいいけど、ギールイって『時計頭のギールイ』になる前は…違うな。『時計頭のギールイ』を継ぐまでは何をしてたの? 」

「― 元来の素性程度は答えても構わない。面白いものとは思わないが」


平坦な口調のまま、苦笑気味に前置きする。


「占星術師や天文学者、天に穴あけ差し込む星光などという煌めきに漠然たる全能的な希望やそれに達しうる可能性を探し求めていた。私はあの頃の私を見ればきっと軽んじる事はしないだろう。天の星々の光が恒星のものであり、己の存在するこの(せかい)と同じような(せかい)もあるのではないかと考え、憧れるのは少年期の衝動としては美しい。…だがきっとあの頃の私が今の私を見れば、異端や無駄に耽るだけの悪魔の手先にでも見えるだろうな…」

「それはどうして?」

「― 目指しているものの距離が違う。星々は幾ら手を伸ばしてもその掌中に入れる事は叶うまい。謂わば星とはそれとの間の暗黒が神秘性を持ち、解読者たる人にその私が抱いたような漠然とした希望を与えていただけで、人間にとっては惑わす虫の光だったのだ。故に、最初から手に入らずに眺めるしかないものにこそ何か希望を見出せたのだろう。だが、今の私が継承した考えはその対象を"この世界に生きる人類"に定めている。星に比べれば余程近いだろう。だからこそ軽く絶望する、求めた先にあるには己の願いを叶える願望機でないと思ってしまう。自分の益にならず、却って自分の本性を暴かれる事を恐れるのだ」

「…なら、今のあんたはそれが怖くない? 自分の本性ってやつが暴かれるのが、怖くないの?」


 ギールイは沈黙した。

さっきのように言葉を選んでいる風ではなく、抵抗があって躊躇っているのでもなく、今一度、己の心の奥底を ―暴かれた本性とやらに語り掛けているように思えた。


暫くして、哲人はその口を開けた。


「怖いさ。他者に自己の獣性や非人間性を暴かれるのは、勿論怖いさ。私は人間だ。我々は人間だ、社会を持つ人間だ。その歯車として個々人の本性を暴くのに利益はないとしてその恐怖を追い払おうとするのも解る。だが、私は二度目だ。多少なりとも、覚悟があればその恐怖と対峙して怯みはしても逃げる事はないだろう」


  ― ギールイとは、『時計頭のギールイ』の持つ継承される偉大なる意思とは、即ち人間を探る道だ。それは同時に人間という存在を認めるに他ならない。認めて― 酸いも甘いも善性も悪性も、愚かさも強かさも、そのどれもが偽りなく人間だと認め、それを絶対の命題とする。

過程ではない、結果でもない。

星より近く、だが近いが故にその広さと深さに気付く。神秘性も希望をもなく、ただ醜く愚かで、美しく強かな、人間。それを探求するというのなら……


「俺は怖いや。まだ失望したくないし、俺はあんたみたいに前を向ける絶対の自信はないから。今はまだ、逃げちゃうだろうな…」

「だがそれでも―」

「だけど、もう一度立ち向かうと誓うよ。だから一度は逃げさせてくれ」


言い訳をするのか、彼のを受けて自分の意思を表明するのか、何故そう言ったのかは解らない。

しかし、言って心が気安くなったのは間違いない。


 【 】


 「俺にはそういう言葉はないのかい、継承者殿?」

後ろの方で周囲を警戒し、且つちゅーたと遊ぶなんて高度な芸当をしていたフルトーさんはそう訊いた。

「欲しいのか?」

「あるならくれ。手に入るものは大概想定されている以外にも使い道はあるからな、手に入ったらそれがどうだか吟味できるが、手に入らなかったものはどうしようもない」

参考程度に、と言いたげでその調子は若干皮肉めいていたのかもしれない。


「…ふむ。…申し訳ないが、私から貴殿に伝えるべき言葉はない」

「そうかい、残念だね」

冷淡とも機械的とも言えるギールイの言葉に、彼は肩をすくめて少し悲し気に言った。


「すまないが、私が思うに貴殿はもう一定の成熟した果実だ。私がなんと言っても、それがもう実った林檎に寄る虫だ。受粉の役が終わったのなら、害になってしまうだろう」

「今のでもう完成だと?」

「貴殿は少年とは違い、既に確固たる道筋が決まっている。もし貴殿が迷い、どう進めばいいか立ち往生しているのだとしたら、それは道を失ったのではない。進むべきと決めた道からは外れずに、ただ時間をかけて少しずつ歩いているだけだ。貴殿の背を押しても、それは寧ろ貴殿にとって妨害になるやもしれない」

「…なんというか、俺にはあまり解らないな。迷っていてもまだどうにかなるってのか?」

「私が見る限りはそうだ。躓いているのでも立ち止まっているのでもなく、ただ大きく明確な一歩ではないだけだ。今後好機があり、一歩進めたのなら貴殿は今抱えている苦悩から自ずと解放される。錆びたのではない、燃料がないのではない、ただ苔むし動き辛いだけである筈だ」

「…」

どうにもな、と言いたげな言葉に困る仕草として、彼は聞こえるように少し溜息をした。だが不思議と不満そうであるとは読み取れないものだった。


【 】


 この空間そのものがお悩み相談の懺悔室と化していそうな独特の雰囲気を感じ始めていた頃、ふと何があっても一定の速度で歩いていたギールイは立ち止まり、俺達のいる後ろを向いた。


「私は私個人という狭小な回路に依存しきらないように心掛けている。今の私はただ『時計頭のギールイ』の一人だ。継承され深淵となった特異なる思考を深め、回帰し、その輪を広げる意志の仲介機に過ぎない。だが今やその意思を受信せんと、我に近付きし貴殿に敬意を表し、知りうる知見の一端で貴殿に新たなる視座へと導かんとする小さく、だが揺るがない一点の星屑の一塊だ」

「何を…?」

「貴殿の意思、願い、それらを曠古(こうこ)する深い海であればと望む。導き星だ」


疑問も困惑もなんのその、今生の別れとばかりに彼は口早に言葉を連ねる。


「貴殿らは既に、その星に導かれ、新たな門の前にいる。それを叩くも侮蔑し去るのも貴殿自身が決定するものであり、その星に委ねるものではない」


彼は今までいた正面から退き、右に寄り近くの岩壁に背を向ける。


 『モナリザ』から佇む女性を除いたように、向ける確かな先を失った視線が映した視界は先ほどまで見えていた光景とは違う ―いや今まで見た中でも群抜いて奇妙な光景だった。

 幾つもの破壊された石棺が倒れたその不自然なまでに角のないドーム状の空間が広がり、天井や床には所狭しと何か呪文のように規則性がありそうな文字が刻まれている。半径4,5メートルはありそうな空間のどこにも書かれていない面はなく、風化こそしても完全に手の着けられていない場所はないように思えた。

 そして何よりもそこに坐していた物が判らない ―正確には()だ。

中心の特に大きな石棺を囲むようにして十何人もの人間が座禅を組んだまま白骨化している。それは人間のものとは限らず、見るからに個人差を超えた種族特有の短身であったり、角が生えていたり、巨人と形容するしかない天井に合わせて背を逸らせている巨躯ものまで多様な種族が何かに対して祈り、そのまま、死んだようだった。

 そして何よりもこの空間が他とは違うと断言できる要素がある。

岩壁も石棺も骸骨も、()()していた。何もかも、腐り、その元の有り様は想像できない程に腐り、石棺が刻まれた名すら溶かされ、骸骨からはありとあらゆる隙間を融解した骨に埋められていた。


「…なんだ、なんなんだ!」

知らないに絶叫し、それが導きであるのか、戦慄として非難するように俺はギールイを睨んだ。


すると彼は短く、それこそが己の役目とばかりに人間としては超然として、それこそ時間を告げる機械―()()のように、ただ一言。

 「(とき)訪れ()た」

【ひとこと】

 投稿する時間は深夜よりも朝の方が読むやすいんですかね?

少し変えてみようと思いました。

暗闇の中ディスプレイの光で網膜を焼かれる問題の次、今度は起きられるかの問題が起きそうです。

追記:全然起きれませんでした。『島々を織りしもの』楽しいです、デュヴィリは嫌いです。


至らぬ点ありましたら、どうぞご意見お願いいたします。

申し訳ありませんでした。

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