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09 変更希望(Side Leonardo)

「……ご協力、ありがとう」


「いえいえ。どういたしまして。レオ。良かったね」


 偶然廊下で会ったジョヴァンニにこの前の礼をしたら、にやにやと微笑んで近づくと腕で小突いてきた。


 王太子ジョヴァンニと仲が良いかと言われると、割と良い方だった。彼は見かけや身分によらず、堅苦しいものを好まない。


 つまり、生粋の貴族があまり好きではないようだ。


 ……王族なのに、変わった奴だ。


「ジョヴァンニのおかげで……全て、上手くいった」


 ついこの前の誕生日の夜に何が起こったかと言うならば、それに集約される。


 何もかも知っているジョヴァンニには、それだけを言えばわかって貰えるのに十分だった。


「それにしても、大掛かりな芝居だったよ。別にリンゼイに告白させなくても、自分から好きなんだと言えばよかったのにさ」


「俺から告白すると、色々と不都合が出てくるだろ」


 そうするしかなかった理由をわかってる癖にと睨めば、ジョヴァンニは大袈裟な仕草で胸に手を当てた。


「そうだね。自信満々で恋愛相談を受けておいて、まさか『俺の事、好き?』なんて、相手が何も言っていないと言うのに、恥ずかしくて聞けないのは僕も理解出来るよ」


 にやにやと揶揄うように笑い、俺はそれを聞いても肩を竦めるしかなかった。


「……いや、向こうが好きと言えないと言うなら、言わせてあげるしかないだろう」


 リンゼイとの関係の始まりはジョヴァンニに話しかけたそうなところを見て、なんだか色々と下手過ぎて不器用過ぎて可哀想だし、会話が出来る程度の関係になるまで世話してやるかと軽い気持ちだった。


 何度も会ううちリンゼイに惹かれるまでに、そう多くの時間は要らなかった。


「そのために長いこと耐えたね。食堂の時には、色々我慢出来ずに、何か言い出しそうだったのに」


「ああ。正直に言うとジョヴァンニを殺そうかと思ったことは、これまで何度かあるな」


 俺がジョヴァンニに視線を向けると、わざとらしく渋い表情になった。


「おいおい。レオがそれ言うと、全く洒落になってないよ。やめてくれよ。僕は言われた通りに動いていたし、常に二人の味方だっただろう?」


 ……そうだったかもしれないし、そうではないかもしれない。だが、結果的にはすべては上手くいっている。


「……これに相応しい礼はするよ。ジョヴァンニ」


「レオに恩が売れるなんて、あまりない機会だから、僕は楽しかったよ。誕生日まで引っ張った理由は、リンゼイのドレス姿でわかったからね。君からの独占欲が溢れていて……」


「どこかの誰かが邪魔しなければ、我が邸の月の見えるバルコニーで、告白が書かれた手紙入りの贈り物を受け取っていたんだよ。リンゼイはそういうシチュエーションが、好きそうだったから……」


「……レオは本当に、リンゼイの事が好きなんだね。確かにあの子は喜びそうだ」


 理解があると感心したように言ったジョヴァンニに、ここで気になっていたことを思い出したので聞くことにした。


「マリアローゼは、どうする?」


 俺がジョヴァンニに次に会えたら聞きたかったのは、これだ。処罰が下されないのであれば、個人的に手を下すしかない。


 何の罪もないリンゼイを、あの自分勝手な女は殺しかけたのだ。


「ああ……将来のフォンタナ公爵夫人を殺しかけたからね。立派な殺人未遂だ。父母もこの事は知っている」


 その時に微笑んだジョヴァンニには、何の感情も見えなかった。嬉しいのか悲しいのか、寂しいのか。


 色で例えるならば、無色だ。


 幼い頃から決められていた婚約者マリアローゼはもうすぐ、彼の婚約者ではなくなると言うのに。


 ジョヴァンニは神から特別に愛されたのか、何もかも与えられた王位を約束された王太子であるのに、性格は温厚で優しく礼儀正しく公平で……彼と話していると、俺はたまに思う。


 そんな完璧な人間が、本当に存在しているのだろうかと。


 とは言え、マリアローゼについては、これで終わりだろう。


 国王と王妃が犯罪行為を知っているのであれば、彼らは王家の中に犯罪者が入ることを望まないはずだ。


 ……いや、敢えて言うと犯罪を犯したとしても、すぐに人に知られてしまうような無能な人間と言うべきか。いかな強大な魔物でも、手足が腐れば全身にまわる。判断を誤れば王家が危なくなると判断されるだろう。


 切り捨てられるならば、時は早いはずだ。曖昧な婚約解消かはっきりとした婚約破棄か、いずれにしても、あの女にはあまり良くない未来が待っていそうだ。


 だとするならば、黙ってそれを見守るのも一興なのかもしれない。マリアローゼは元から好きではないが、今回のことで常軌を逸した女であることが証明された。


 何もかも約束された輝かしい未来を、ほんの一時の感情で、全て台無しにして底にまで落ちていく女。


 マリアローゼは婚約者ジョヴァンニに関わる女を脅しつけては、彼を困らせていた。


 異性と話しただけで婚約者にそれをされると思えば、我が事でなかったとしても、その時に何を思ってしまうか容易に想像がつく。


 うんざりでもういい加減にしてくれと、ジョヴァンニは常に思っていたはずだ。


 マリアローゼが階段から突き落とすまでに激昂したのはリンゼイだけだが、婚約者に近付く女に嫉妬したとしても、誰かを階段から落として殺して良い訳でもない。


 ジョヴァンニと信頼し合える婚約者になる努力はしない癖に、マリアローゼはそういった無駄な動きだけは事欠かなかった。


 そういえば、ジョヴァンニ自身は婚約者マリアローゼについて、どう思っているか、これまでに聞いたことはなかった。


「お前はマリアローゼのことは、それで良いのか」


「……それについては、僕は語ることは許されていない。レオ。僕が結婚するのは王妃になれるご令嬢ならば、誰だって良いんだよ。あの、リンゼイだってね」


「いや。リンゼイは、駄目だろう」


 リンゼイは王族の血筋にたまに現れる珍しい聖魔力を持っているので、王族と結婚しても許されるかもしれない。


 ……これはあくまで、仮定の話だ。二人が結婚したいと望むならそうなるかもしれない程度の可能性の。


「ごめんごめん。これって、ほんの軽い冗談だよ。レオ……その……僕の心臓の上に当てた切れ味良さそうなナイフを、仕舞ってくれる? 本当に悪かったって……」


「何か刃先に……?」


 ナイフに固い物に当たったので、ジョヴァンニに視線を向けると彼は苦笑した。


「懐中時計で……頂き物なんだよ」


 これを誰に貰ったか言えないと咄嗟に思ったのか、胸ポケットから懐中時計を取り出したジョヴァンニは、素知らぬ顔でそう言って肩を竦めた。


 王族が使うには……あまりにも、簡素な作りのような気がする。


 無言で俺がポケットから同じ物を取り出すと、ジョヴァンニは何もかも悟ったようにして、ため息をついた。


「これは、リンゼイは……僕には相談に乗ってくれたお礼なんだと言ってくれた。あの子に悪気はないんだよ?」


「知ってる」


 きっと、気に入った物を見つけたから、お世話になったジョヴァンニにもこれを贈ろうと思ったのだろう。


 なんとなく、リンゼイが何を思ったのか想像がつく。


 何の悪意もないのだろう。ジョヴァンニと俺が、同じように喜ぶだろうと思って。


 しかし、ジョヴァンニと同じ懐中時計……一年に一度の誕生祝いなのに。


 これを嫌だと思ってしまう心の変遷を、あの子にどうやって説明すれば良いんだ。リンゼイの思考回路がだんだんとわかり出しただけに気が遠くなる。


 複雑な思いにはなるものの、そういった難しいところのあるリンゼイでないと、俺はここまで好きにはなっていないかもしれないので、それを吐き出すように無言でため息をついた。


「……レオ。これから、なんだか大変だね」


 ジョヴァンニは別に揶揄うでもなく、素直にそう思ったようだった。


「……俺も、そう思う。けど、仕方ないだろう」


 こういう難しい女の子だとわかっていて好きになっているので、覚悟を決めるしかない。


 恋愛下手というか、人の気持ちを読むのが壊滅的に下手な女の子を好きになってしまったという紛れもない事実を噛み締めつつ、俺は大きくため息をついた。


 多分、そんなリンゼイと付き合えば、これから何をどうすれば良いか迷うような……そういう簡単ではない彼女を、攻略したくなってしまったのだから仕方ない。



Fin




最難易度なのは実はヒロインだったというオチでした。


お読み頂きありがとうございました。もし良かったら、最後に評価頂けますと幸いです。

また違う作品でもお会い出来たら嬉しいです。


待鳥



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