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05 先輩

「うん。僕が考えるに恋愛が下手な君に指導をするという事は、リンゼイを幸せにしたいという動きの表れだよね?」


「そっ……そうなんですかね? 可哀想とは、言われましたけど」


 ただ、出来ない子で可哀想だから、同情してくれているだけだと思っていたけれど……。


「うんうん。何が言いたいかと言うと、最初からそれなりにレオナルドが、リンゼイに好意を持っていることは確実だ。僕のところへ来た回数を考えれば、何度失敗しても根気良く付き合ってくれているといったことになるね。そうだろう?」


「そっ……それは、そうです。何度も何度も付き合って頂いて、レオナルド先輩には、大変申し訳ないとは思っているんですけど……」


 レオナルドには、悪いとは思っている……思ってはいるけど……。


「うんうん。けど、レオと一緒に居られるから、誤解されていても、何だって嬉しいんだよね。わかるよ。そして、関係を壊してしまえば、もう会えなくなるかもしれないと思うんだよね?」


「……ブルゴーニュ会長って、もしかして、人の心を読むことが出来たりします?」


 私は本当に、もしかしたら、そうかもしれないと思った。


 だって、ジョヴァンニは私の気持ちを完全にわかってくれているし、言って欲しい言葉だって心得ているのだ。


 苦笑したジョヴァンニは、そういえばという表情になった。


「君って、面白いこと言うね。そういえば、名前は……?」


 あ。王太子であるほどの人に話しかけると言うのに、名乗ることを忘れてしまっていた私は慌てた。


「はいっ。私はこの前入学した一年生の、リンゼイ・アシュトンです」


 とは言え、学年毎に決められたカラーがあるので、私の胸元にあるリボンと靴のソールの色でジョヴァンニは私のことを一年生だとわかってくれていると思う。


「よろしくね。リンゼイ。僕はジョヴァンニで良いよ。学生の間は身分差なく過ごすというように、この学園では決められているからね」


「ジョヴァンニ、殿下……?」


 建前は建前ではなるけれど、本人にそうしてくれと言われれば仕方ない。


 彼が王族であるならこう呼ぶべきかと思ったら、ジョヴァンニは苦笑して首を横に振った。


「それは、やめてくれ。先輩で良いよ。レオにだって、そうだろう」


「ジョヴァンニ先輩、ですか」


 王子様に先輩……なんだか、変な感じだ。学園内では先輩後輩で、それは間違えてはいないんだけど……。


「それで良い。リンゼイ・アシュトン……平民だけれど、聖魔力が認められて、特例で奨学生になった子だね……レオはフォンタナ公爵家の跡取り息子だけど、君ならば問題なく結婚を認められる可能性があるね」


「それは……あの」


 もちろん。前世の記憶を持つ私は王家の血を引いているので、彼らとの身分差の問題はいずれ明らかになるし、大丈夫だろうと思っている。


 このジョヴァンニだって、言ってしまえば遠い親戚にあたるのだ。


 しかし、それは今現在、私が知っていることになってしまうと、ゲーム進行上どうなってしまうかわからず、何をどう言って良いのかと困ってしまった。


 身分については問題ないとわかってはいるけれど、何もわからない振りをした方が良いのかと。


「良し……それでは、僕が特別に君に恋愛指導しよう!」


「え!? 恋愛指導って……ジョヴァンニ先輩、どういうことですか?」


 いきなり片手を挙げて良い笑顔を浮かべたジョヴァンニは、一体何を言い出したのかと思った。


「いやいや、僕はレオは身分も近くて割と仲も良いし、君に協力出来ると思うんだよ。リンゼイ。君だって、そう思わない?」


「思わない? ……って、ジョヴァンニ先輩は、迷惑ではないですか?」


 実際、ジョヴァンニはこの国の王となる王太子なのだ。学ぶべきことも多く、まだ学生だとしてもこなさねばならない公務だってある。


 そんな多忙な彼には、命の危険がある訳でもない私の手助けなんて、普通に考えてやっている時間はないと思う。


「全く迷惑ではないよ」


「え。けどですね」


「それに、なんだか君たちをくっつけると楽しそうだと思うんだよ……そうだな。レオは確か、もうすぐ誕生日なんだよ」


「……ジョヴァンニ先輩って私の話を聞く気、ないですよね?」


 私が言ったその通りと言わんばかりに、にこやかに微笑んだジョヴァンニは被せて提案をした。


「贈り物に……手紙を忍ばせれば良いのではないかと思うんだけど。どう?」


「レオナルド先輩に、手紙……ですか?」


 レオナルドに手紙……あ、直接は言えないから? 文字に託して?


 それは……自分では、思いもつかなかった。


「そうそう。リンゼイはどうやら、自分の気持ちを言葉にすることが上手くないようだから、正直な気持ちを文字に書いて手渡せれば良いと思う。レオが好きだと言う気持ちさえ伝われば、君の思考回路は彼が一番に知ってくれているんだし、向こうが勝手に事を進めてくれるだろう」


 たっ……確かにそうだ。


 レオナルドには私がどれだけ恋愛に対し、不器用であるかとか、事前にわかってくれている。だから、全部任せてしまえば良いとそういう意味もわかる。


 だから、最初の時点ではジョヴァンニが気になっていたけれど、優しく身近で接してくれるレオナルドが好きになってしまい、それをなかなか言い出せずにいたと彼が知ってくれれば……?


 レオナルドはジョヴァンニほどは察しは良い訳ではないけれど、話せばわかってくれる人だと私は知っていた。


「確かに、そうですね。ジョヴァンニ先輩……ありがとうございます!」


 出口のない迷路に突破口が見つかり、嬉しくなった私が手を組んでお礼を言うと、ジョヴァンニは満足そうに頷いた。


「……フォンタナ公爵家で、誕生日を祝う夜会が開催されるはずだ。僕が招待状を用意しよう。ああいった華やかな場を嫌がってはいても、主役が欠席することは許されない。そこで、居ないはずのリンゼイが登場し、直接贈り物をすれば良いと思うんだよ」


「誕生日を、祝う誕生会……ですか」


 さすが、王家に近い権力を持つフォンタナ公爵家……息子のお誕生日会に、豪華な夜会を開催……けど。


「ジョヴァンニ先輩。私……その、そういった場に相応しいドレスを持っていなくて……夜会には行けないんです……」


 貴族たちが集う夜会には、正装というドレスコードがある。


 私は元々平民であるため、必要ないので、そういったドレスなどは持っていない。


 けれど、乙女ゲームのエンディングである卒業パーティーには、個別ルートに入ったヒーローからドレスや装飾品を贈られることになる。


 『ここたた』は平民として生きて来た女の子が、特別な能力に目覚め、それによって王家の血筋を引くことに気がつくという、まさに、シンデレラストーリーの王道なのだ。


「……いやいや、何を言っているんだ。この僕がそうしろと言って居るんだから、必要なものは全て用意してあげよう。レオと結ばれる前祝いだよ。遠慮なく受け取ってくれ」


「そんな……ですが」


 夜会用イブニングドレスや装飾品となると、平民からすると目が飛び出るような金額に跳ね上がってしまう。


 王子様だから……買ってもらって良いのかと言われると、そうでもないような気がするし……。


「リンゼイ。僕を一体誰だと思っているの?」


 ジョヴァンニは学園の会長で王子様で、けど……ここで求められている答えは、きっとこれだ。


「この国の……王太子様です」


「そうだ。大いなる責任の元には、然るべき報酬も与えられる。君のように困っている女の子に使うのであれば、それは良い使い道だと思う。レオも嬉しい驚きに感動して、僕の友情に涙することだろう」


 ジョヴァンニにここまで言ってもらって、それを固辞する訳にはいかず私は小さく頷いた。


「あの、ジョヴァンニ先輩……ありがとうございます」


「いえいえ。これで全てが上手くいくと良いんだが」


 ジョヴァンニはどこか面白そうに言って顎に片手を置き、視線が合った私に、にっこりと微笑んだ。

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