表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/52

41. 新しい仲間

 一人ではステファンとリディアを助け出せない。自らの状態からそう判断した私は悔しさを滲ませながらエムデンに引き返し、フリッツに助けを求めた。ここを出発してわずか一週間、フリッツは一人で戻ってきた私に酷く驚いていた。体力は底を尽きかけた状態が続き、足の傷は悪化の一途を辿っている。それでも今は時間が惜しい。私は治療の申し出を断って、コリンとシーラを呼ぶようにお願いする。既にエムデンを離れたかもしれないと危惧したが、二人はすぐに駆けつけてくれた。

 「エレナさん、心配していたところです。何があったんですか」

 「心配?」

 「一昨日、ラテノンからエレナさんたちへの出頭命令が届きました。理由は赤の大広間とピアでの敵対行為とのことで」

 それを聞いて私は確信に至る。ステファンとリディアは単なる釣り餌だった。正面対決で私を攻略できないため、二人を人質に取ったわけである。汚いやり口に悪態をつきたくなるが、それは同時に、二人の身の安全に希望が持てる内容でもあった。

 「ステファンとリディアがラテノンの魔法師に連れ去られた。探すのを手伝ってほしい」

 「ラテノンの魔法師、ですか」

 「一人はルルという魔法師。それにニールとヨアヒム。他は分からないけど大人数だった」

 私はあの時の魔法を一つずつ思い出す。本来の力の差を考えれば屈辱的な敗北と言える。それでも、家族の命が懸かっている中で面子を気にしてはいられない。

 「ルルは有名な魔法師です。何しろフィリップ・ハースの弟子ですから。かなりの実力者として知られています」

 「フィリップの?あの魔法師が?」

 「はい。政変でフィリップもライネを追われました。ラテノンと合流した後、最初に鍛えた魔法師だと聞いています」

 フィリップのことは知っている。ウルサ家に所属する五大魔法師であり、ライネでウタラトスを私に引き渡した張本人でもある。グスタフに負けず劣らずの魔法師だが、その弟子にしてはルルの実力はお粗末なものだった。ただ、訓練期間は一年もなかったはずで無理もない。

 「有名なら簡単に見つけ出せるはず」

 「でも軍部の情報は私たちに入ってきません」

 「ルルだけじゃなくていい。拠点の場所、魔法師が潜伏している街、その動向に詳しい人、なんでもいい」

 「ですけど」

 コリンは躊躇する。至極真当な反応だった。帝国の魔法師に協力するだけでなく、ラテノンの指示に逆らわなければならないからだ。私は交渉を有利に進めるべくシンタマニに触れた。

 「それとも私を拘束する?あなたたちとは戦いたくない。リディアが悲しむ」

 「そんなつもりは」

 「だったらお願い」

 私は深く頭を下げる。すると、シーラがすぐに私の肩を抱いて起き上がらせた。脅迫したにもかかわらず怯える様子はない。フリッツは食事を持ってきてくれる。

 「分かりました。詳しい話を聞かせてください。でもまずは治療と食事が先です。そんな体では追いかける以前の問題ですから」

 「ありがとう」

 「傷が膿んでいます。洗って治癒魔法を使います。構いませんか」

 「お願い」

 それからはコリンによる治療を受けつつ、食べられるものは何でも食べた。幸い、フリッツの店は薬を豊富に取り揃えていて、全てツケだと冗談を言うフリッツも協力してくれる。昔の私ではこんなことはありえなかった。次に学ぶべきは恩返しの方法ということになるのだろうか。今更それを嫌がりはしない。ただ、それもステファンとリディアの隣で学んでいきたい。

 「なるほど、人喰いの森ですか。確かにあそこはラテノンにとって活動しやすい場所の一つです。バイロイト防衛の要衝としてかつてより重視されていました」

 「私が間違ってた。魔法師に気付いてすぐ逃がしていれば」

 「西に向かったんですね。でしたら、彼らが向かう先に一つ思い当たる場所があります」

 「本当に?どこ?」

 私は身を乗り出してコリンに続きを迫る。その時に足首の添え木がずれて痛みに襲われた。苦悶の表情を浮かべているとシーラが対応してくれる。

 「もう少し強く縛った方がいいですね」

 「とにかく歩けるようにして。痛みは我慢できる」

 「骨まで見えていたんです。無理すると二度と歩けなくなりますよ」

 「二人を見つけるまで持てばいい。それより思い当たる場所って?」

 シーラが強めに包帯を縛ると再び激痛が走る。ただ、今度は身構えていたため顔に出ることはなかった。

 「カッセルの手前にホーフという村があります。そこで昔、治安部と軍部が共同で詰所を運営していました。そこを通過した可能性があります」

 「そこは一年前に閉鎖されたよ」

 コリンの言葉を遮ってフリッツが割って入る。知らなかったのかコリンは驚いていた。

 「ちょうどエレナがあのあたりで大規模な戦闘を起こした頃さ」

 「帝国軍に見つかった?」

 「いや、エレナの捜索で見つかると予想して先に閉鎖したのさ」

 「そうですか。となると、やはりカッセルでしょうか」

 「どうだろうね。あんなあからさまな場所に向かうとは思えないけど」

 フリッツはルルたちがカッセルに向かったという意見に否定的だった。私には何も分からない。話の行く末を気にしているとコリンが提案してくる。

 「ですが、一度行ってみましょう。たとえ直接の手掛かりがなくとも、あの辺には治安部の知り合いが多くいます。西に向かうほど治安部の情報網は厚みを増しますから、そこに期待してみるのはどうでしょう」

 「まあ、そうするほかないね」

 「分かった」

 私はその提案を受け入れる。どうせ私だけでは妙案を出すことなどできない。ラテノンを追うならば、ラテノンの知恵を借りるのが一番だった。そう思ったところで一つ重要なことを思い出す。

 「もう一つ手掛かりになるかもしれないことがある」

 「手掛かり?」

 「へニアって魔法師を知ってる?少なくともルルやその取り巻きは知ってた」

 「へニア・シェーンのことかい」

 コリンとシーラが首を傾げる中、フリッツが即座に反応する。私が頷くとフリッツの眉間にしわが寄った。

 「昔、タラス・シェーンという魔法師がいた。彼は当時、ラテノンで一番の実力者だったけどね、活動中に妻と一緒に戦死した。へニアはその娘だよ。両親の教育もあって、いずれはラテノンを率いる大魔法師になると期待されてた。でも両親の死後、突然姿を消してね。今では裏切り者扱いさ」

 「それ、有名な話なんですか?」

 「治安部は知らなくて当然さ。タラスの死とへニアの失踪は軍部の大失態だったからね。でも魔法師の中では有名な話だよ」

 初めて聞く話に私は相槌を打つ。そんな過去がなければへニアのあの強さは説明できない。クラウスやカタリナと互角に戦える。そんな魔法師が、もともと魔法文化のなかったラテノンに理由なく現れるはずがないのだ。気難しい性格もその過程で形成されたのだと用意に想像がついた。

 「それで、どうしてへニアの名前が出てくる?」

 「へニアも二人を追ってる」

 「知り合いなのかい?」

 「私は敵視されてる。でも、ステファンには好意を抱いてる。旅が始まる前、もともとステファンと同じ村に住んでた。へニアの嗅覚は鋭い。もしかすると先に居場所を探し当てるかもしれない」

 「面白い巡り合わせだね。うん、あり得る話だ。父親が生きていた頃、一緒にアタパカを回ってラテノンの多くを学んだそうだ。誰よりラテノンの魔法師に詳しいかもしれない」

 フリッツの話は興味深い。これまで魔法ばかりに注目していたが、へニアにはラテノンの知識も詰め込まれているという。実際、へニアはラッサから始まった過酷な旅路を一人で踏破し、ヘントやピアにも土地勘があった。また、ルルらと顔見知りだったこととも矛盾しない。そこにステファンへの執着心が混じって今や誰にも止められなくなっている。

 「へニアはステファンのことになると見境がなくなる。無理に助け出そうとしてリディアに危険が及ぶことは避けたい」

 「なら急ぐしかない。聞いた話から察するに、今のへニアは父親譲りの頑固さを持ってるようだ。ラテノンの協力がなくとも一人でどうにかしてしまうだろう。急ぐなら馬を使って高原を抜けるのがいいんじゃないかい」

 「そうですね」

 フリッツの提案にコリンが頷く。私はもう一度周辺の地図を見せてもらう。高原は人喰いの森より北側に位置していて、そのあたりだけ街や村の数が極端に少なくなっている。実際に行かずとも、どんな道が待っているのか想像がついた。

 「夏前なのでまだ雪が残っていると思います。それでも、人喰いの森に次いで早くカッセルにつけます」

 「今すぐにでも出発したい」

 「分かりました。なんとかして準備します。急ぐなら街に寄る回数もできるだけ減らしましょう。時間が短縮できれば、その分荷物を減らせて馬の速度も上がる。でも、かなり過酷だろうから」

 「私も行きます」

 「シーラ!」

 コリンが言い切る前にシーラが割り込む。その顔は誰の文句も受け付けないと宣言していた。私に協力するためではない。コリンを心配してのことだ。それを分かっていたからこそコリンは即座に反対した。このままでは口論になる。そう思った私はシーラの側につく。

 「私は一緒でも構わない」

 「でもそれだと」

 「早く着きすぎても私の体力回復が追いつかない。それに、シーラからはもう少しブレスレットの作り方を教わりたいと思ってた」

 「ほら、決まりね」

 私を味方をつけたシーラがにっこり笑う。コリンはそれでも、最初のうちは受け入れない態度を示していた。しかし、最後はため息をついて分かったと返事する。

 コリンには申し訳ないことをしてしまった。シーラを大切に思うからこそ、危険な旅路についてきてほしくない。それは私にも身に覚えのある話だったからだ。しかし、無事を祈って待ち続ける者の苦しみにも心を寄せなければならないと私は学んだ。シーラは自らの意見を強く主張する人間ではない。それでもついていくと言って退かなかったのは、フージャの二の舞を怖がっていたからだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ