表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/1

のびしろ

「たかが数十年の人生、その序盤の序盤。我々はまだ17年ほどしか生きていない」


 自習時間。あまりに暇だったので、近くの男子相手に進路を決めるのが面倒だ、という愚痴をやや大仰に語ることにした。


「我々は、お世辞にも正常な判断能力があるとは言えない、高校生という生き物」

「ははっ」

「確かになー」

「残りの人生を左右するような、そんな重要なことを決定させないでほしいとは思わんか?」

「マジでそれ。お前、教祖とか向いてそう」

「いや、進路希望調査ってそーいうもんだから」


 ここで1人、空気を読まずに正論を飛ばす者ありけり。


 我が親友、救間ヶ原(すくいまがはら)だ。


「正論は非表示。私は信者のコメントにしかリプ返せんぞ」

「終わってんな」


 モラトリアムのためにも、ここは特に何も考えずに進学。


 いやいや、即座に就職というのも案外魅力的だ。


 しかし大学を出ておけば給料が違うとも聞く。資格を取るに越したことはないとかも。


「そういうお前は、進路は決めたのか?」

「僕は両親ともに医者だから、医学部のある有名な大学に進学する」

「それ。それもあるのよな」

「いや、お前にはそんな未来はねぇよ」

「違う。そういう意味では……いやお前っ、仮にも親友に対してそれは、おまっ、おまぁ」


 誰もがなりたい夢を叶えられるわけではない。


 現実は非情だ。それが早いうちにわかるという点では、ある意味では慈悲深いけど。


 親ガチャ、なんて言葉が若者の間で流行したのは記憶に新しい。流石に私はそんな言葉は遣わないが、確かに親の思想や経済力というものは大事だ。


 所詮は未成年、保護者の管理下から逃れる術は無し。


「じゃあ、どういう意味だよ」

「貧乏な我が家の財政を考慮すると、進学は厳しい。が、私にだって進学する権利はある。という意味だ」

「なるほどな。奨学金とかもあるし、僕ほどじゃないけど頭は良いんだから、推薦とかも狙えるんじゃね?」

「言葉の端々にあるトゲが、やわらかいところに刺さってしまったんだが」

「非表示にするのが間に合わなかったのか?」


 殴られてからガードを上げても仕方ない。


 しかしコイツの言う通りだ。その気になれば、広告に力を入れていない大学に入ることは容易い。


 その先の、その先の先の未来が浮かばない。最終目標が無ければ、その途中ばかりを考えても仕方ないだろう。


 究極完全態・グレート・モスになる、という目標もなく、取り敢えずプチモスを召喚する人間は居ないのだから。


「あ、進路相談室に行ってみれば良いじゃん。仕事の本とか、大学のオーキャンのチラシとか、色々置いてあるよ」

「よし。進路相談室の回し者の言葉を信じてみようか」

「別に案件貰ってねぇよ?」


 既に未来が決まっている親友に別れを告げ、進路相談室に向かう。教室を出て割とすぐの場所にあるので助かるな。


 到着すると、既に何人か先客が居た。気にせず本でも探そう。


「先輩、ここの大学とか良いんじゃないですか。割と近いですし」

「でも、近いと引っ越す理由が薄くなっちゃうよねぇ」

「別に良いじゃないですか。私と会いやすい、という利点もありますよ」

「あはぁ。確かにそうだねぇ」


 ここはカップルが物件選びをする場所じゃないぞ!!


 と声を大に、いやダイナミックに叫びそうになったが、女子2人が、控えめな声でオーキャンのチラシを見ているだけだった。


 確か、隣のクラスのめちゃくちゃ美人な子だ。容姿や知名度なんかも、将来を選ぶ上で大事になってくるかもしれない。


 家庭、金、知能、スペック、やる気、努力する才能。


 人は()()()()()()()()()のではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのかもしれんな。


「建築士、漁師、電気工事士……。教師、自営業……」


 壁一面に並べられた、多種多様な職業の本をじっくりと眺める。


 聞いたことのあるものから聞き馴染みの無いものまで、実に仕事というものは奥深い。


「むっ。……教祖、のなり方?」


 高校の進路相談室にあっていいのか、これ。


 いやいや。時代は令和、職業差別などあってはならぬこと。多くの人を救う、実に素敵な職業ではないか。


 アイツの目指している医者と、救うという点では相違無いと言っても過言ではあるまい。いや過言か?


「教祖に向いてる、とさっき言われたばかりだしな。ちょっと見てみるか」


 こうして私は、神への第一歩を踏み出したのであった。

作者もよくわかってません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] あらすじで面白い [一言] まだわからないけどここから神になるまでの紆余曲折は気になる
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ