表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

プロローグ

「ですから労働者の代表者に対して、意見の聞き取りをしないと御社の就業規則の届出は行えないんですよ。法律で決まってましてね・・・」


 俺は以前も同じ説明をした事を思い出しながら電話口の顧客に対し説明していた。勤め先のデスクで積み上げられた書類を横目に見ながら、電話相談に明け暮れている。


結城拓也ゆうきたくや29歳。職業は社会保険労務士。


この小鳥遊社会保険労務士法人で務めて3年になる。この事務所での仕事はブラック企業ばりの激務とまではいかないが、自分の不必要な責任感が災いし多忙な毎日である。


ありがたい事ではあるのだが。顧客からの相談対応、役所への手続が後を絶えず、月曜から金曜まで夜中まで残業する日々が続く。


 顧客への説明資料を作り終えた頃には気づけば時計の針は21時を指していた。今月の残業時間はもうすぐ45時間に及ぶ。俺は社労士だ。いくら忙しいとはいえ労働基準法は守らないとな。


 タイムカードを切ってから夜の事務所を後にする。オフィス街にて帰路につくサラリーマン達。連日の長時間労働にこたえた身体を引きずりながら、俺もこのゾンビ達と並んで歩きだす。


 社会保険労務士とは国家資格だ。一般的には社労士と略される。報酬を受け取った上で社会保険や人事関係の役所への手続きを行う事ができる唯一の資格である。


士業と言われる法律家の資格の中でもそれぞれ役割がある。弁護士は訴訟や争い、税理士は税金、司法書士は登記手続き、そして社労士は社会保険と人事のプロと言える。


弁護士や税理士と同様に社労士も資格取得の為には国家試験をパスしなければならない。合格率は例年6%前後という中々の難関資格だ。


毎年多くの会社員が受験するようだが並大抵の努力では合格できない。そもそも膨大な試験範囲の物量に挫折する者も多いだろう。


 俺は紆余曲折あって前職の会社を円満とは言えない形で退職し、その後独学で社労士試験に合格。努力もあるが、あの時は本当に運が良かった。


 20代で経験も人脈も無い若造が試験合格という武器一つで現在務める小鳥遊社労士事務所の門を叩いた。幸いにも採用に至り、社会保険労務士のタマゴとして働かせて貰っている。


 社労士の仕事は手続き業務と思われがちだが、弁護士と同様にあくまで法律家だ。人事相談対応、会社の就業規則作成、そして単なる手続き一つとっても法解釈が問われる日々だ。


 何よりこの仕事は法律やルールを記憶するだけではダメだ。それじゃググればいい話である。


 何より重要なスキルは難解な知識を、どんな顧客にも分かりやすく伝える力である。社会保険が無い世界の人間相手だとしても、目線を下げて対話する事が求められる。


 そうこう考え事をしている内にようやく帰宅できた。溜まった家事は今日も無視するしかない。簡単に自炊をして作った料理を手早く腹に流し込む。どんなに疲れてても必ず風呂に浸かる。睡眠の質を上げる為だ。


 風呂に入っている間もベットに入った後も、頭の中は明日の予定の事でいっぱいだ。新規相談対応は何時だったか?報告資料の出来はあれで良かっただろうか?考えている内に眠りに落ちた。


「ゆうべも遅くまでありがとう。産休に入った篠村さんの分まで仕事増やしちゃって、本当に感謝してます。西京建設 様への提案資料を見ましたよ。とても良く出来ています、そのまま進めてください。顧問契約に至ればいいですね。」


 所長の小鳥遊さんが俺に労いの言葉をかけてくれる。現在50代の女性で社労士のキャリアは俺とは天と地の差だ。


 ステラおばさんみたいな温和な感じの見た目だが、顧客対応はいつも的確で言うべき時にもズバッと切り伏せるやり手の女性社労士だ。


「最近はすっかり一人前になりましたね。結城さんの良いところはバリバリ報酬を上げるのでなく、お客様の為にしっかり説明対応を欠かさない事ね。目先の報酬に目がくらんで、日々のお客様への相談や声掛けはおろそかになってしまうのは良くある事よ。だから自信を持って行ってきなさい。」


 俺をこの世界に入れてくれたこの人へ恩返ししたい。突然の激励を受けて、改めて俺はそう思った。


 必要な書類をまとめ、背広を羽織り、ネクタイを締めて事務所を後にする。西京建設に行く前に労働基準監督署に提出書類があるから寄ってかないとなー。


そういえば昼飯はどのタイミングで食べようか?新規相談が長引いたら、事務所に戻る前に店で食べるのは難しそうだ。


 まあ最悪コンビニ飯買って、仕事しながら事務所で食べるか。また小鳥遊所長に心配されそうだが。


 考え事をしながら、駅に向かっていた途中、あまりにも起きたことが異常すぎて声すら出なかった。いつからだ?俺の周囲の人間が皆、静止している。


何だこれ?ドッキリか?いや俺は芸能人でもないし。近くの一人に話しかけても返答がない、こちらを見向きもしない。マンガとかで見る、時を止める必殺技が発動された時とまさに同じ状態だ。


「おいおい、営業どころじゃねーぞ・・・」


 そう独り言を呟いてすぐだった。強烈に眩しい光が襲った。


「うわっ!」


 思わず声を上げるような眩しさ。目が全然開かない。俺の立っているところだけが光っている。光は空から降る・・・じゃない、地面から光が上に向かって射している。


「なんだこれ・・・」


 具合が悪くなってきた。嘘だろ?なにこれ?何かの兵器?やばい・・・意識が・・・。倒れたのかどうかも分からないまま、とりあえず俺は意識を失った。


ついに始めました。次回からようやく異世界に行きます。社会保険制度を学べる教材のような小説を目指しています。暖かい目で見守ってください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ