残された幸せ
『私は戦争の悲惨さを知った。』のアナザーストーリーです。
https://ncode.syosetu.com/n6271hs/
「私はどうしてここにいるんだろう」
少女が尻を砂浜に着け、脚を伸ばしたまま呆然と座っていた。
少女の背後から、別の少女が近づく。
その少女は一言も発することなく近づくと、手を伸ばし言葉を告げる。
「……やっぱりここにいたんだ。ね、戻ろう」
「え……?」
座り込む少女が顔だけを声の主に向けると、それは以前離ればなれになった友達だった。
「どうして……?」
「どうしてって、生きて帰ってきたんだから、少しは喜んでよー」
その少女は座り込む彼女の頬を指で強くつつく。
「……い、いはい」
「まあ、良いよ。だって私はあの時死ぬかもしれなかったから」
少し前まで私たちは戦争に行っていた。
大陸北部の強国、ガルタニア帝国が世界覇権を目指し、私たちの国フランデ共和国へ攻めたことで始まった戦争。
その戦争の中で、魔法使いとして最も適性を持つ未成年の少女である私たちが戦争の主力として動員された。
あの光景を思い出すと、いつも吐き気がしてくる。
改造された人間や魔獣といった禁忌の数々を繰り返した異形の軍勢に、私たちは負け続けた。
多くの友達が、平和に生きていたら決して起きるはずの無い、無残な死に方をした。
戦争は、その後どうなったのか詳しくはわからなかったけど、ただ戦争が終わったことだけは知った。
いつの間にか友達は隣に座り、私は彼女の手を無意識に掴んでいた。
「ねえ、私はこれからどうしたらいいの……」
半ば無意識に私はその言葉を吐露した。
「え?うーん……元の生活に戻ったらいいんじゃないかなぁ。私は……戻れたらいいけど」
友達は素直に自分の思いを話した。
だけど、それになぜか怒りを感じた。
「……戻れないよっ!もう何人も友達が死んで、どうやって……過ごしたらいいのっ」
私は大粒の涙を流し、砂の上に零していく。
「私はさ、あんまり目を背け続けるのもどうかと思ったけど、後悔し続けるのもどうなんだろうね。私たちってまだ先は長いし、受け入れて新しい人生を生きるのもいいと思う」
「簡単に出来たら……こんなに悩まないよっ!」
友達の提案を私は声を上げて一蹴したことで、罪悪感が少し芽生えた。
「じゃあ、まずはすっきりしよう!」
「え……?」
友達がそう言うと、私の困惑をよそに手を掴んで、海へと引っ張っていく。
あるところまで進むと、友達は力無い私の体を勢いよく海へと引き込んだ。
「え……え、え?」
顔が水の中に入って息苦しさの中で、なんとか私は顔を海面から出した。
「なにするの……!溺れるかと思ったじゃん!」
「でも、冷たくて気持ちいいでしょ?」
それはそうだった。
服のまま入ったから肌にべったり付いてしまってるけど、冷たい海水は今までの憂鬱な気分を少し吹き飛ばしていた。
「それはそうだけど……」
「ね?それに、少し顔色が良くなってるじゃん。だから、私は今後の人生の事を考えたほうがいいと思う。悩み続けたら、いつか壊れるよ……」
本当にその通りだと思った。
戦争が終わってから、私は人として生活できてるか分からないほど、呆然と過ごしていた。
「だから、新しい人生を生きようよ」
「……うん」
友達が伸ばした手を私は掴んだ。
そして、ゆっくりと浜辺へと歩いていく。
多くの犠牲を生んだ戦争が終わり、残された少女達は選択を迫られる。
だけど、それは決して苦しみばかりではない。
少女達は幸せな人生を歩むために、選択を続けていく。