五寸釘
ある日の会社。隣席の同僚に声を掛けた。
「どうした、元気ないな」
「ああ‥‥昨日、彼女と別れた」
だからか。あんなにお似合いだったのに。
「手ひどく振られたよ、あ~あ」
「それは‥‥なんと言ったらいいか」
女なんてみんなそうさ、いやいや、君に相応しい女性がきっと現れるよ。
でもどんな台詞も、今は逆効果だろう、どうしたもんか。
「あのう、よかったら、これ‥‥」
えっと、誰だっけ、確か現地採用された、暗い、おっと失礼、落ち着いた物静かな女性社員だ。
「な、何ですか、これ」
お、ちょっと気が紛れたか。
「五寸釘です」
そんなもの、なぜ持っている? なぜ持ち歩いている?
「会社の裏の、無人駅の向こうの神社なら、夜は、人通りはありません」
「ああ、有難う」
単線のローカル線の走る音が遠くに聞こえた。
そして数日後。
出勤した朝、何だか騒がしい。
「大変な事になりましたね」
噂好きの女子職員が話しかけてきた。
「え、何のこと?」
「知らないんですか、ニュースサイトを見てください!」
「うん、ちょっと待って」
スマホでニュースをチェックする。
ポータルサイトのトップに見覚えある我が社の全景が‥‥。新聞なら一面というところだろう。記事の文面に目を通す。
あいつ、何てことを。彼女‥‥いや、元彼女を夜の神社に呼び出して、五寸釘で刺殺、だと。いや、待てよ。
「その五寸釘は!?」
「違う!」
机を叩く音に一瞬、沈黙が広がり視線が集まる。
「私は、そんなつもりで渡したんじゃない!」
そうだ、その五寸釘は彼女が渡したものだったんだ。でも、その使い方は‥‥。
「あいつ、知らなかったのか、丑の刻参りを‥‥」
https://youtu.be/bgoLdBXBbg4