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これは『僕』の物語

〈新世紀〉二足型装甲騎兵ナロウズ 〜地下で目覚める希望の光〜

作者: イトウ モリ

楽しんでいただけたら嬉しいです。

 ガショーン、ガショーン、ガ、ガガ……ガガガ………。


 ガショーン。ショーン。……ョーン……。……ン。


 あ……。止まった……。


「うわ……。マジかぁ……」


 僕の二足型装甲騎兵(ナロウズ)は、エネルギー切れの寸前だ。


 どうしよう。こんな地下ダンジョンの真っ暗なところで動けなくなるなんて。大ピンチ確定だ。


 さすがに地上に出るために、適当なものを1個投稿しておこうかな……。

 あんまり、ポイント稼ぎのための投稿って好きじゃないんだけど……。


 ナロウズのわずかなエネルギーを執筆プログラムへ集中させる。


 せめて10ポイントあれば……地上には生還できる気がする。


 誰か一人だけでも僕の作品を見つけてくれれば……!

 そしてその人が僕の作品をいいと思ってくれれば……!

 そしてできればゆるゆるガバガバで満点プレゼントしてくれる人に……!


 あ、欲を言えば、ブックマークのもう2ポイントあれば……!


 そうすればダンジョンの入口までは確実に辿り着ける。


 僕は大急ぎで短めの詩を投稿した。その後はひたすら省エネモードで待機する。


 誰か……! 人助けと思ってポイントを……!


 ここに地下でエネルギー切れになってるバカがいるかもしれないと想像力を働かせてくれる誰か……!


 ポイントがないと地下で野垂れ死にしてしまうバカがいるかもしれないと想像してくれる誰か……!


 しょうがないからナロウズの動力を恵んであげてもいいよと思ってポイント募金してくれる誰か……!


 ギブミー! ポインツ!! カモンベイベー!!



 ……。


 だが僕の願いもむなしく、投稿された詩は、そこそこ閲覧されているにも関わらずポイントがつく気配はない。


 ……ダメか。


 もうナロウズをここに置いて、自力で地上に帰ろうかな。


 でもたぶん、そのあとはもう――、置いていったこいつのところに戻ることはないかもしれない。


 2台目を持つのは違法だから……、ナロウズを失った僕はもう……物語を執筆することも、それを誰かに見せることもないのかもしれない……。


 まあどっちにしろ、町に戻って充電もできないし、ポイントも入らなければ、ナロウズの電源は入らない。

 そうなればもう次の執筆もできない。


 おしまい、か。



 ピ―――――――――――――――。



 むなしくエネルギーゼロの警告音が響く。


 僕とナロウズのお別れの時間だ。


 ごめんねナロウズ、君に乗りながら物語を書いている時間が、僕は大好きだったよ。


 ごめんねナロウズ、僕が人ウケしない作品ばかり書くやつで。


 僕がもうちょっと流行りものを上手に取り入れる器用なやつだったら、こんな真っ暗な地下底辺ダンジョンの中でスクラップになることもなかったのに。


 スターユーザーのナロウズみたいに最新型とまでいかなくても、ケーブルレスで、八頭身で、エントリープラグとかついてて、星が輝くイケてるフォルムのボディで、塔の上のダンジョンで光をたくさん浴びながら活躍できてたのかもしれないのにね。


 せめて二頭身から三頭身くらいにバージョンアップしてあげたかったけど……ポイント稼げなくて、何もカスタマイズしてあげられなかった。ごめんねナロウズ。


 僕は少しだけ目を潤ませながら、ナロウズのハッチを開けて、コックピットのキャノピーをうんしょと持ち上げた。


「よかった。間に合ったわ」


 地下ダンジョンの中がまぶしく輝く。


 この光は……スターユーザーだ! でもおかしい。

 こんな輝きを持つユーザーが、こんな地下になんか来るはずない。


「なんで……、スターユーザーがこんなところにいるんですか?」


 最新型ナロウズのキャノピーが電動で上昇し、中からきれいなお姉さんが顔を出した。


「ちょっとあなたらしくない詩が投稿されていたから。

 もしかしたら地下でエネルギー切れになって困ってるんじゃないかしらって思って探しに来たのよ」


 スターユーザーが、僕なんかの作品を読んでいる?


 僕が疑いのまなざしを向けていることに気づいたお姉さんは、ふふっと笑った。


「あなたの今書いてる新作長編、私好きよ。

 早く続きが読みたいの。こんなところでナロウズを廃棄なんてさせないわ」


「……え? あの新作はまだ……投稿なんてしてないけど……」


「ふふ、私は人呼んで『ブラックスコッパー・魔美』!

 公開・非公開に関わらずありとあらゆる文字を読みたいという欲求が抑えられない活字中毒エスパーなの。

 だからあなたの作品もシステムをちょちょいとイジって、ちょちょいと……」


「え? 待ってください! それって普通にハッキン……」


 ヒュン! シュパーーーーン!!!


「おだまりボウヤ。それ以上は口にしない方があなたのためよ?」


「お姉さん!? そのムチは一体どこから!?」


 このお姉さんはどうやらスターユーザーであるとともに、エスパーの力を持つハッカーでもあるようだ。そしてムチの使い手らしい。


「……でも、ありがとうございます。

 僕の作品は万人ウケしないものばかりなので、一人でも気に入ってくれた人がいるって分かって、なんか安心しました。僕の作品を好きって言ってくれて嬉しかったです。ありがとうございます」


「ふふ、かわいいボウヤ。待ってなさい? 今イイコトをしてあげる」


 お姉さんが自分のナロウズを操作してしばらくすると、僕のナロウズにエネルギーが充電されていく。


「お姉さん!? ポイント入れてくれたの?」


「こんな地下で野垂れ死にされたら、続きが読めなくて気になるじゃないの。

 特別サービスよ? 私、人に気軽にポイント入れるような安い女じゃないんだから」


 僕のナロウズが息を吹き返す。


「ありがとう! お姉さん! これで僕、町まで帰れるよ!」


「ふふ、喜んでくれて嬉しいわ。じゃあ……これもおまけね」


 ナロウズのディスプレイにメッセージの表記。

 僕の活動報告にお姉さんがメッセージをくれたんだ……!


   『新作、楽しみにしてます』


 僕の胸が、あたたかさで満たされていく。



 ――ウィィィィィン! ガガガガガガ!!


 ナロウズが今まで聞いたこともない音を立てている。


 キュピーン! 【バージョンアップ完了!】



「お、お姉さん!? 僕のナロウズが成長した!?」


「あら、知らなかったの? ナロウズとあなたはシンクロしてるのよ。今のはあなたのモチベーションエネルギーが上昇したことでナロウズが進化したの。ナロウズのステータスを見てごらんなさい?」


「す、すごいよ! 僕のナロウズ、三頭身になったよ!

 足が伸びたんだ! すごい! 歩行速度が時速5メートルから、10メートルになったよ!

 しかも一回に充電できるエネルギー量が3倍に!? すごい! これで今までより遠くに行けるぞ!

 うわ! 僕のコックピットキャノピーがUVカットになってる! 僕、日に当たるとすぐに赤く腫れちゃう体質だから、日差しが強い日は外に出られなかったんだ!

 これで晴れの日でも、ナロウズと外へ行けるよ!」


「そう、良かったわね。これで一人で帰れるわね? なら、私はもう行くわ」


「待って、お姉さん! ……あの、また……会えますか……?」


 お姉さんは、とても魅力的な笑みを浮かべて僕を振り返った。


「私を満足させる作品を書いてごらんなさい、ボウヤ。そしたら、また会いに来てあげる」


「わかりました! 僕、がんばります!

 今度はエネルギー切れとか、そういう理由とかじゃなくて、ちゃんとお姉さんが面白いと思ってポイントをつけてくれる作品……がんばって書きます!! だから……! また……僕の作品……読みに来てください……!」


「楽しみにしてるわ、ボウヤ」


 お姉さんの乗った最新型ナロウズは、まったく無駄な動きも音もせずに地下ダンジョンから撤退していった。


「よーし! 僕たちも帰ろうか、ナロウズ!」


 ウィーン! ガシャ! ガシャ! ガシャ!


 三頭身になり、足が少しだけ長くなった僕のナロウズは、ここに来たときの倍の速度で地下ダンジョンの上階を目指し始めた。


 町に戻ったら早速ナロウズをコンセントにつないで、新作の執筆を開始しよう。


 僕の心は、ナロウズの足取りと同じくらい軽くなっていた。




 

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― 新着の感想 ―
[良い点] ナロウズのアップグレードが、か、かわいい…… 主人公くんもかわいい! きゅんきゅんしてしまいます。 だからこそ、がんばれー! と思ってしまうのです。 執筆・投稿して、ポイントがパワーにな…
[良い点] ちょっと変則的なんですが、先に感想を書いてしまいます! まず企画参加ありがとうございます! ポイントはたしかに、書き手のエネルギーですよね! 目に見える応援であるし、そこからやる気という…
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