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東京へ

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


運転手は、目の前に駅があるのにどうしてタクシーで?と訝しんだが、先払いで三万円を渡すと、大人しく車を発進させた。


これはこれで目立つ行為かとも思ったが、これ以上わずかでも地元に留まりたくなかった。


一時間半で金沢駅に着いた。


ぼくは、駅前ロータリーで、また別のタクシーに乗り込んだ。


今度は隣の県の県庁所在地を告げる。


これを繰り返し、一度山形県まで出たのちに、東北新幹線を使って東京に向かった。


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


東京駅に着いたのは、当日の二十三時過ぎ。


ぼくは強ばる体をほぐしながら、新幹線改札を出ると、山手線で池袋駅に向かった。


なんとなく、渋谷、新宿、池袋の三大繁華街のどれかに行きたかったのだ。


池袋駅西口そばの漫画喫茶に腰を落ち着けたときには、二十四時を回っていた。


そのまま泥のように眠った。


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


翌朝、二百円出してシャワーを使った。

湯は最高温度にしても生ぬるく、どこかべたついていたが、どうにかひとごこちついた。

一晩分の料金を精算してから、松屋で三百五十円の納藤定食をかっこむ。


それからユニクロで着替えを買い込んだ。

百貨店のトイレで新品に着替えたあと、漫画喫茶以外の住居を手に入れようと決めた。


あんな温いシャワーはもうごめんだ。


ただ、ぼくは十六歳。親の承諾なしに家を借りることができない。


まず、協力してくれる大人を見つけなければならない。


そして、見つけるのは容易なことだった。


⭐︎⭐︎⭐︎


ぼくは道ゆく人々に片っ端から声をかけた。


はじめのうちは、恥ずかしくてなんども口ごもったが、どんなに酷い失敗をしてもタイムリープすればいいと考えれば耐えられた。


「すみません、ぼく田舎から出てきたんですけど、部屋が借りたいんです」

「親も親戚もみんな亡くなっちゃって」

「ぼくの代わりに借りていただくか、保証人をお願い出来ませんか?」


お目当ての人物は二百四十人を超えたあたりで見つかった。


三十代の大企業勤めのOLで、つい最近、不動産投資で大失敗をしたという。三千万円出して田町駅近くの中古マンションを一部屋購入したのだが、想定した家賃で借り手が見つからない。


彼女が必要としている家賃は、月十五万円。

それを下回ればローンの支払額に届かない。

このままでは来月にでも銀行に部屋を取られる。


ぼくは二十万円で借りさせてください!と叫んだ。

ただし、家賃は現金手渡し。もちろん保証人はつけられない。


彼女は眉を寄せた。


当たり前だ。ぼくはどう見ても未成年なのだから。どう考えても何らかの法に抵触する。


ぼくは「まず敷金として三十万円入れます」といった。


これは失敗だった。彼女は首を横に振って歩き去った。


やり直しだ。


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


ぼくは「お姉さん。お願いだから助けてください」といった。


彼女の中で、可哀想な少年を助けるという善行が、法律違反と釣り合った。


こうして、ぼくは部屋を手に入れた。



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