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余命一週間

半グレたちはぼくのマンションに大挙して押しかけてきたが、ぼくはドアの鍵をディスクグラインダーで破壊された瞬間に二日前に用意しておいた復元ポイントに飛んだ。


それから、研究所内に超突貫で自室を用意させ、大量の警備員を雇った。


単身、半グレたちに立ち向かうという選択肢もあった。時の復元を適切に使えば、義父と対決した時のように全員叩きのめせたろう。しかし、そんなことで精神疲労するのは、まさに無駄というものだ。


研究の進展にとって、なにより重要なのはぼくの復元能力だったからだ。


当然だが、創薬研究はたびたび障害にぶちあたった。

Aの薬剤とBの薬剤、どちらが正解か。

Aの論文とBの論文、どちらを頼りにすべきか。

研究者Aと研究者B、どちらを新規に雇うべきか。


研究者たちは、何日かかけてそれらの問題の答えを発見する。


そのタイミングで、ぼくがその正解の記憶を保持したまま、問題が発生した時間に戻る。そして、正しい道筋を彼らに伝えるのだ。


もちろん、はじめのうち、研究者たちはぼくの言葉をおおいに疑った。ぼくは莫大な資金を持つスポンサーだが、同時に高校にすら通っていない子供なのだから無理もない。


しかし、ぼくの言葉を信用したチームがどんどん成果をあげるに連れ、彼らの態度も変わった。また、ぼく自身の知識も加速度的に深まり、彼らと対等に会話できるほどになっていた。


プロジェクトがスタートして一ヶ月半ほどで、ぼくは所内で〝人類最高の天才〟と目されるまでになっていた。


そして、優里に残された時間が残り一ヶ月を切った。


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


「あなたって何者なの? どれほどのお金持ちならこんなことができるわけ?」


優里は、研究所内に作られた特別病室のなかで、絹張りのクッションにもたれていた。窓の外では、植栽師たちが何処かの山から持ってきた楡の木を、重機を使って植樹していた。


ぼくは自販機で買った瓶のコーラを一口飲んだ。

いまやぼくの資産は、どこかの国の政府機関に暗殺されてもおかしくないほどの額になっていた。安全に口にできる飲み物は、瓶詰めのものだけだ。


「世界一のお金持ちだよ」


だが、どれほどの資産を投入しても見通しは絶望的だった。


彼女の病を治すには、彼女の遺伝子そのものを変化させる必要がある。


が、それを実現するには、何百何千という技術的ブレイクスルーが必要だ。


遺伝子を解析するためのシーケンサーの開発、

レトロウイルスによる遺伝子転写機構の解明、

遺伝子を切り貼りするための酵素の発見、

彼女の病を克服するための遺伝子式の発見、

じっさいにウイルスに遺伝子を組み込むための超高精度な顕微鏡とマニピュレーターの開発、

なにより、膨大なシミュレーションをこなすための超高性能なスパコンの開発。


ぼくがどれほど小刻みに復元を繰り返し、研究を加速してたとしても、残り一月で実用段階まで持ってくるのは不可能だ。


優里がいった。

「それで、わたしが治る可能性はちょっぴりくらいでてきた?」


「もちろん。だって、ぼくと君は未来で子供を育ててるわけだから」


彼女が何とも言えない顔で笑った。


研究は猛烈な勢いで進んだが、求められるレベルには遥か遠く、彼女の余命は残り一週間を切った。


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