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未来が見える少年

「病気?」


「そう。指定難病で治療法は存在しません」


彼女が悲しげに笑った。


「ごめんなさい。あなたの親切は嬉しかったです」


くそ。だめだ。これじゃあ、ぼくが離れたら彼女はまた自殺する。


ぼくはいった。


「ぼくなら、どんな病気でも治せます」


は? なにをいうんだぼくは。


「ぼくにはお金があるんです。どんな不可能も可能にできるくらいのお金が」


「いくらお金があっても病気までは」


「それが大丈夫なんです。ぼくがどうしてお金持ちかわかりますか? 未来が見えるからです。そして、ぼくには君が元気になって家族を作っている未来が見える」


彼女は小さく息を吐いた。


「ありがとう。あなたは本当に優しいですね」


まるで信じてない。


ぼくはきいた。

「ところで、お名前は?」


「優里、です」


「歳は?」


「十七ですけど」


「あ、ぼくよりひとつ上なんですね。好きな食べ物はなんですか?」


「モンブランですけど。あの、この質問はなんなんですか?」


「あなたを助けるための質問です」


ぼくはもうしばらく問答を続けてから、さきほどビルの下に作った復元ポイントに戻った。


落下防止策を乗り越え、手首同士を結え、まったく同じ会話をして未来予知のくだりまで進める。


そして、いった。

「ぼくは未来が見えるんですよ、優里さん」


彼女がびくりと震えた。


「え?」


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


じつをいうと、ぼくは彼女を完全に説得しきるまでに、さらに数回のタイムリープを必要とした。


彼女の名前を言い当てたときは、シンプルにストーカーではないかと疑われた。入院している病院の関係者だと思われたこともあった。


結局、彼女が次に発しようとしている言葉や、眼下を行き交う人々の動きまでを完全に言い当てて、彼女はようやくぼくの〝予知〟をある程度信じてくれた。


ぼくの体感で三時間近くにおよぶやりとりで、優里の現況はほぼ把握できた。


立花優里、十七歳。実家は長野県、両親とは幼い頃に死別し、養護施設で暮らしていた。


十五歳のときに、非常に稀な遺伝子疾患を発病し、症状は急激に悪化している。


池袋に付属病院を抱える大学が、研究への協力を条件に入院を許してくれたが、治癒の見込みはない。


自身で医学書を読み込んで知ったことだが、まもなく歩くことすら困難になり、意識は混濁、何もわからないまま苦しみ抜いて死ぬことになる。


それくらいなら、こんな素敵に晴れた日に人生を終わらせるのも悪くない。


どうせ生きていたところで看取ってくれる家族もいないのだし。


寂しげに微笑む彼女を見て、ぼくは思わず口にしていた。


「なら、ぼくと結婚してください」


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