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余命3ヶ月

彼女は、しばらくの間、ぼくを見つめたあと、ふいと目を背け、そのまま飛び降りた。


嫌な音が下の方から響いた。


ぼくは強烈な日差しに照らされながら、凍えるような寒さを感じた。


なんで?


いや、彼女はもとから死ぬ気だったのだから、当然の流れなのだろうが、ぼくは頭のどこかで、こちらが顔を出せば、自然と思いとどまるのではないかと感じていたのだ。


下で騒ぎがおこり、警官たちが非常階段を登ってくる。ぼくは彼らに肩を掴まれたところで我に帰り、すばやくホテルの朝食ビュッフェ会場に作った復元ポイントに戻った。


すぐにホテルを出て、猛ダッシュで例のビルの前に立つ。ぼくはここで、自分の頬を三度叩いた。くそ、痛い。


しかし、これで復元ポイントが作成された。


切れた息を落ち着かせながら、非常階段を登る。


さっきは黙りこくっていたのか悪かったのかもしれない。

何か話さないと。


屋上にあがり、彼女が振り向いたところで、「こんにちは」と微笑んだ。


彼女は飛び降りた。


失敗。


このあと、十三回失敗が続き、十四回目で彼女はようやく飛び降りを思いとどまった。


⭐︎⭐︎⭐︎


十四回目、ぼくは屋上に上がるや否や、さらなる全力疾走で彼女に駆け寄り、一気に柵を跨いで、隣に立った。


そして、ホテルマンから借りてきた荷造り用のビニール紐で自分と彼女の手首を結びつけた。


間髪入れずにいう。


「君が落ちれば、ぼくも死ぬ」


この言葉が鍵なのだ。


ぼくは彼女の飛び降り攻撃を喰らったときの記憶をさらい、彼女の視線のなかに〝申し訳なさ〟を感じた。


なら、ぼくを巻き込むことが確実な状況にすればいい。


彼女はぼくを見つめたあと、小さく頷いた。


「わかりました。死ぬのはやめます」


ぼくは深く息を吐いた。


「ありがとう」


「なんでお礼をいうんですか?」


「なぜって、君が死ななくて嬉しいからだよ」


そう。ぼくはようやくやり遂げたのだ。

この子を救うことができた。


彼女が眉を顰めた。


「そもそも、あなたはどなたなんですか?」


「ぼくはーー」君に殺されかけた男だ、とはいえない。「ただの通りがかりだよ。君が飛び降りようとしてるのが見えたから、止めに来たんだ」


「そう。勇気があるんですね」


彼女は若干迷惑そうだった。


カラスが3羽、路上から空に向かって羽ばたいていく。

ゴミ収集車が通りの角を曲がって消えて行く。


ぼくはいった。

「なにがあったのか知らないけど死んじゃだめだ。ぼくなら君の力になれる。君の悩みを解決できると思う」


ぼくは思った。乗りかかった船だ。この子の問題を処理してあげよう。

ぼくにできないことはない。彼女は自殺することがなくなり、ぼくは気持ちよく一日を過ごせる。


彼女は無機質な表情でいった。

「わたしの悩みを解決する? わたしは病気なんです。あと三ヶ月も生きられません。あなたにどうにかできるとは思えないんですが」



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