7話 従者と老師
「こ、これは‥‥」
「見事な人質を取られましたなぁ、博士殿」
「いえ、どちらかと言えば人質ではなく、草質ですね」
「おおその通りじゃな〜」
「ーーーどっちでもいいわッ!!」
手紙を丸めて、ルイの後ろから覗き見していた2人の頭を叩く。
痛いです、いいこと言うじゃないか〜お主、名は? などと話している阿保どもはほっといて、不味いなとルイは頭を抱えた。
(これってぜってえ、オレと姫たちの顔合わせじゃねーか!!)
今まではあまり相手にせず、すっぽかしていたけれど、今日という今日はそうも行かない。
なんとなんと、自分が今喉から手が出るほど欲しい薬草が人質ならぬ、草質されてしまっている。
だからこれは絶対に行かなくてならないとわかっているのだが、嫌だ。
めちゃくちゃ会いたくない、あの姫たち。
めんどくさっ
「なんでいつも通り、もはや褒美じゃない食い物じゃないんだよ」
ルイの独り言に老人は立派な髭を撫でた。
「知らんけどさすがに、毎度不味い死ぬ送るな馬鹿と言われてしまえば、デーヴィットの坊主も贈り物の種類を変えようと思うのではないかの」
「だって不味いし死にそうになるしで大変だからよ。毎回胃が泣いてて可哀想だろ」
不思議そうな顔をするセオドールを見て、ルイは腹をさすりながら、老人は遠い目をしながら説明する。
「そっか。お前食ったことないんだもんな」
「良いですな。羨ましい、アレを食べたことないとは」
あのくそデーヴィットはな、オレが事件に突っ込んで、犯人捕まえたりしたら必ずと言っていいほど、くっそ不味いクッソ死にそうな、いやもう死んだ方がマシなほどのもはや食べ物じゃないやつを持ってくるんだ。
わしもルイにひと口でいいからと、食べさせられたが‥‥いやはや、あれは食べるようの物質できてはおらんな。あれを食べて1ヶ月は悶え苦しんだことよ、ホホホッ
蜂蜜ゴーヤプリンとか、紫芋と海藻とサソリの揚げ物とか。
林檎と蜜柑でいい感じなのに、何故かそこにナスを加えたアイスとか、チョコとバニラシャーベットのお味噌汁とかの。
全く、辛いのか甘いのか苦いのか酸っぱいのかわからなくて、舌は後味が悪く、胃もはじめての組み合わせでーーー
中略
ーーーと言うかあれが美味しいと思ってオレに送ってくるあいつの味覚どうかしてるよ。
確かにやばいのぉ〜死んでしまうのぉ〜
なんか前にも見たことあるような、とても長い文句を聞かされる羽目となったセオドールである。(約30分)
それらをまとめてみると、王はルイが事件解決のたびに感謝の意を込めて自分の気に入った食べ物を贈るんだそうだ。ルイは一人暮らしであまり料理もしないから丁度いいと思ったらしいが、食べてみるとびっくり。とっても不味い。ここまで素材の味を綺麗に駄目にする食べ物は初めて食べたらしい。しかし食べ物には罪なしということで、結局は贈られた物全部完食するらしいが、舌も胃も不味すぎて死ぬらしい。
「そんな恐ろしい食べ物よりも、王宮のディナーに招待される方が嫌なんですか?」
「あったりまえだ。お前、知らないだろ?構うのがめんどくさ過ぎてヤバいと有名なあの姫たちを」
「ええと。双子の姫だけど、似ていなくて少し早めに生まれた長女の姫はおっとりとした性格。次女の姫は好奇心旺盛だとは聞きましたよ」
少し悩んで、セオドールは答えた。
「そんな可愛いもんじゃねぇ」
ルイは神妙な趣きで首を振った。
「あいつら双子は悪魔だよ。今から行くんだからよくよく覚えておけよ」
「あ、結局行くんですね」
「草質取られてんだしな。料理も動かずタダで美味い飯が食える」
「成る程」
「それじゃあ、わしが乗ってきた馬車があるからそれに乗って行くぞい」
こうして博士と従者は王宮で不服ながらもディナーをご馳走することになった。
まさか、ここからあんな話に繋がるとは誰も思っていなかったので、ふたりは少しの不安(不満も1割)と好奇心を胸に抱き、いざ王が待つ、王宮へ向かった。
「腰痛え」
「痛いです」
「お前らよりも、年寄りで二度も乗ってるわしの方が痛いのぉ」
ルイの家が奥深くにあった為、道が舗装されていないガッタンゴットン上下左右に揺れる道を、通り腰を大変痛めて通りながら。