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5話 ふたりと人攫い 2


ルイはそう、セオドールへ告げるとひとりでスタスタと歩き出してしまった。


「え、ちょっ」


セオドールは手を伸ばし、ルイの手を掴むが、それは呆気なく振り払われた。

彼は銀の瞳を見つめる。


「オレはお前に守られるよりも先に行っちまうぞ。困ったなぁ、お前がデーヴィットの言いつけを本当に守りたくても守られるべき対象が自分から率先して危ねぇ場所に行っちゃうんだもん。じゃあどうする?それじゃあどうしようもできない?ーーーいいや。オレが殺されるよりも前にオレを殺そうとするもん全部倒せばお前の勝ちだな」


セオドールは目を大きく見開いた。

この人は元々僕を使うために連れてきたんだと知る。

彼は自分が王に使われているのだと思っていた。当たり前だ、セオドールがこの場所にいるのは王の命によるものだから。しかし、本当の本当は陛下の名に従うセオドールさえどうすれば自分の思い通りに動くのか熟考し、上手く誘導していたのは彼、ルイだった。


全ては自分が楽をするために。


考えてみれば、彼は「り合いたい」と言っていたけれど少年の性格上、戦って呆気なく散る者は好きではなく、限界でも粘って粘って戦いを楽しませてくれる者が好きそうである。


つまり、邪魔な弱き者はセオドールに任せて、ルイはアジトのどこかにいるボスと戦うつもりなのだろう。

幸いなことにさっき縛り上げた男がボスがいる場所を吐いたから、強い者がいる所へは一直線で行けてしまう。


「わかりました。今はあなたの思い通りになりましょう」


「おう?」


「‥‥しかし、あまり僕のことを舐めては駄目ですよ」


ルイはセオドールの表情を見て面白そうに笑った。




彼が人のことを言えないほどに悪い顔をしていたからである。




*****





また、赤い花びらが散った。

いくつかの叫び声が聞こえるがそんなことはもう気にしない。


「て、てめえ‥覚えてろッッギャアアア!!!」


「うわっあっああああああ!!!!」


さらに周りに大輪の血色の花が咲き誇る。

それでもセオドールは気にしない。別に死にはしない程度の傷なのだから。


まるで踊るように人攫い達を切っていく彼を見て、「おいおいおいーーっ」と心の中で叫ぶは、その先を走るルイだった。


(あの心配性のデーヴィットが寄越すんだから使える奴だと思っていたが、ここまで強いとは聞いてねぇぞ。まじでこれ笑えない冗談だわ)


ルイは、あたりに血が飛び散っているのにあの美青年の持つ、妙な色気というか、人を惹きつける何かがあるのは目の錯覚か何かか?と乾いた笑いを浮かべた。こんなことを言うのは失礼だと随分承知だけれど、似合っているなぁとついつい見入ってしまう。


瞬間、少年は隣から異臭を漂わせる男がナイフを持って振りかざそうとするの人が出てきて、適当に氷魔法で凍らせた。


「そういえばオレ、ボスの部屋に行くんだった」



ルイはそう呟くと、魔力を体に纏わせ身体強化をして階段を一気に駆け登る。このままじゃセオドールに追いつかれ、お楽しみの戦闘が邪魔されること間違いなしである。


(ぜってー追いつかれるもんか)


セオドールの『‥‥しかし、あまり僕のことを舐めては駄目ですよ』という、あの言葉。これは今の現状を見るにルイがボスと戦うよりも前に彼が他の悪党を片付けてルイの相手を奪い去るつもりだと思われる。


 そんなことはさせないと対抗心を人一倍燃やしながら最上階へ。

とはいえ、自分たちが居たのが地下の最下層なので、最上階でも地上一階。お天道様がやっとこんにちわできる高さになった。


「おい、ボスはいるか〜」


足で行儀悪くドアを蹴破り、さっきとは比べものにならないほどの豪華な部屋へと足を踏み入れた。

一階下はセメントだったというのに、大理石の床になって、壁には高級そうな絵が三枚ほど飾られていた。

正面を見据えると、黒の四角いテーブルに金の椅子。さらには赤いカーペットに赤いカーテンが顔をのぞかせている。


そして椅子にどっかりと腰を下ろしている者こそ、最近多発している人攫いのボスだった。


「お前、何用があってここに入ってきた」


低く轟くような声にビリビリと空気が痺れるが、ルイは対して怖がっている様子はない。

それよりも心底嫌に嬉しそうな顔をしていた。


「用?そんなものねーよ。オレはお前と遊びに来たんだ」


「遊びだと?」


「ああ、俺たちを邪魔する者は‥多分いない、と思うが、いない。‥‥‥多分。お前の子分共はオレの‥‥何だ?んー、ま、家来みたいなもんに片付けられてるから来れるはずはねーしな」


「‥‥‥そうか」


「そうそう」


今まで俯いていたボスが前を見た。

それは楽観的に喋るルイを明らかに嫌悪感を抱いている表情で少しだけ、ルイは驚いた。


「へぇ。悪者にも絆はあるんだな、意外」


その言葉に肩を大きく揺らしたかと思うとボスは立ち上がり怒鳴った。


「当たり前だ!!俺の家族に手ぇ出しやがってっ生きて帰れると思うなよ!!」


「うっわ、悪党あるあるの良い子ぶるやつの発言〜」


男の言葉を聞く限り、彼にも彼なりの正義とやらがあるのだろう。だが、彼らによって人生を狂わされたまだ幼い少年少女達が大勢いるのだ。

彼らがしていることは、彼らのような悲しい未来を歩む子供を増やしている訳で、それがわかってしまえばお前らが一丁前に正義感振り回してんじゃねぇよ!!と怒りが湧いた。

ルイは別に正義感とかはないが、『人攫い』関係にはただならぬ思いがある。

その為、彼らの思いに寄り添うことはしたくもないし、できない。 

って言うかそれより戦いたい!!


やはり力こそ正義である。←(考えの放棄の末)


ボスの体は巨大でとても腕力のある体つき。

つまり、拳を作り床を叩きつけると大穴が二つ現れるということであって‥‥


「ひょえ。危ねぇな」


ひらりと避けたその場所には巨大なクレーターのようなものが出来上がっていた。

その穴の直径は約10メートル。

でっかと小さく呟くルイである。


大男はその後もなりふり構わずどこもかしこもクレーターを作り続けるが、そんなもの速度はないのできっちり避けることさえできればこちらの勝ちだ。


ルイは身体強化をした瞬発性を生かし、ボスの背中に乗ると氷魔法を発動。

呆気なく、ボスは生き埋めならぬ、生き固めされてしまった。


何分か氷の塊を見守るものの出てくる気配はないのできっと魔法を解かす能力を持つ魔道具は持っていないのだろう。

ルイは面白くないとため息をついた。


人攫いのボスなのだから強いのだろうと思ったが、大したことはなく、どちらかと言えば従者になることをご所望のセオドールの方がよっぽど興味のある存在だ。


少し経ってから、氷の塊の上に座ってうたた寝をしていたルイに駆け寄るセオドールの心配そうな顔を見て、もう一度「面白くない」と呟く。

(あの数をもう戦闘不能にしてきたのか)

彼の予想以上の強さに驚愕するのを隠しながら、自分の胸にある密かな胸騒ぎに気付いて髪をかき回した。


「おもし?え、は?ーーーんん?」


「はぁ‥‥‥くそぅぅぅ!!!」



(ーーーこれじゃ手放したくなくなるじゃねーか、こんなおもしれぇ奴)


首を傾げる美青年の額を小突きながら、不満そうに頬を膨らませる今日このごろの彼である。




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