1話 博士と従者
はじめまして、鏡菜です。
3作目でまだまだ下手っぴなので、内容の辻褄が合わなくても優しい目で見守ってくださると助かります。
「!!いってぇな。ったく大事な商品だったら天の羽衣を触れるかのように優しく扱ってほしいもんだっつーの。移動すらろくにできない三流がよ」
「ちょっ、博士!!何煽ってるんですか。もしかしたら逆上して襲ってくるかもしれませんよ」
「どうせ聞こえないんだから大丈夫だろ?」
フンと鼻を鳴らす小柄な少年が、偉そうにふんぞり返す様子を見て、ため息を吐きながらも溢れんばかりの色気をダダ漏れにしている青年。
きっとここが湿っぽく陰気で施錠された荷車の中でなければ、どこぞの貴族の坊ちゃんとその従者であろうと思えるような、思わずため息をついてしまうような美少年と美青年だった。
ただし声さえ聞かなければ、の話である。
「赤くなってんじゃん、最っ悪」
「じゃあもう帰りましょうよ〜」
「それはもっと最悪。ってか負けた気して苛つくだろ」
少年の手首には先程、荷車に押し込まれるられる際に人攫いに悪態付いたせいで、鞭で名一杯叩かれたので真っ赤に腫れ上がっていた。
彼はそこを、手首は縛られ使えないので舌でペロリと舐めると何事もなかったかのように雪のような真っ白の肌が現れる。
貴族と見間違えるような美貌と所作を持つ少年だか、言葉使いと服がどう見ても孤児だと言わんばかりのものばかり。
特に言葉使いはヤバかった。
乱雑に移動を始める荷車の居心地がとても悪くて、お尻をさすりながら青年はまた一つ、ため息を吐く。
只今、なぜ彼等がこんな場所で時間を持て余しているのか。
それは今から数時間前に遡るのだったーーー。
****
コトリ
今流行りの優しい香りの紅茶とは違い、香ばしいが少し苦味のある匂いが部屋に漂った。
カップに注がれたコーヒーを机に置こうとするものの、山のように積まれた書類が邪魔になることに気づき、少年は絹のように柔らかな短い髪をぐしゃりと掻き上げる。
「‥‥‥チッ」
一通り唸った後、指をすいっと振って紙束を空いたスペースに移動させ、椅子の上で足を組み、入れ立てのコーヒーを啜った。
行儀が良いとは言い切れない座り方だが、顔の美貌とふとした時に目を奪われる美しい所作でまるで貴族と見間違えてしまうほどだ。
その者の名は、ルイ。
性を持たないため貴族ではない。しかし14歳と幼いながらも魔法学において国から博士号を頂戴している。
否。ルイ曰く、「貰ってやった」らしい。
口の悪さはこの国一番。しかし魔法の知識の膨大さと頭の回転の良さはこの国一番どころか、世界一である。その為か、性悪な性格でありながら国王の信頼を得ている特殊人物でもあったりしている。
だが、最近になって王はルイのあまりの優秀さに、他国に行かれては自国の魔法学が発展せずに困ってしまうと考え、ルイを王国に留めさせるため、王女との縁談をいちいち話の間に入れ込んでくるらしいのだが、それが無愛想なルイの機嫌の悪さに拍車をかけているという。
ルイはコーヒーを飲み干し、さて今日も魔法学の論文を書こうと椅子から飛び降りた。必要な書物は背の低い自分の身長を軽々と越える高さなので、梯子に登って取ろうと手を伸ばしたその時。
「あと、っもう少し」
不意にドアからノック音が聞こえてきた。
それは滅多に鳴ることがなかったので、ルイにとって想定外のことに驚き、彼は梯子から手を離してしまう。
「えーーー」
捕まえようにも気づいた時にはもう遅く。
背中から落ちていく浮遊感で、木目の床に体が叩きつけられると察して咄嗟に目を瞑る。
「しまっっーーー」
「大丈夫、ですか」
だが、身体に触れたのはのは硬い床ではなく人の肌だった。
視界に最初に入ってきたのは靡く金髪に不釣り合いな月夜の漆黒のような瞳。
自分の現状に頭が追いつけず、数秒フリーズしてしまったが、見たこともない男にまさかのお姫様抱っこをされていると気づき、慌てて肩を叩く。
「おい、早く降ろせ。オレはお姫サマじゃねーんだよ。不愉快だ」
「そうですね。すみません、配慮が足りておらず」
にこやかに謝るその姿は、偽物なのだと瞬間的にわかった。
(こいつ、目は笑ってねーじゃん)
やるなら徹底的にやる派のルイにとって「未完成」は最も不愉快な存在である。
(うっぜー、こいつの存在自体がうぜー)
男の気に食わない行動に彼は目を細めた。
「めんどいことはお断り」のルイの元に早くも波乱の風ではなく、大嵐が吹き荒れているのだった。
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