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愛してる 〜必ず戻る、必ず守る〜  作者: 凪 景子
第1章
8/59

8話

 翌日。出社する加波子は少し眠気が残っていた。


 お昼。喫茶室・ジョリン。加波子は、朝から具合の悪そうだった友江が心配だった。


「先輩、大丈夫ですか?すごく顔色悪いですよ?昨日何かあったんですか?」

「何って、ただの二日酔いよ…。あー飲み過ぎた…。」

「何か無茶なことでもしたんじゃないですか?半休使います?それなら私から部長に言っておきますけど。」


 加波子を睨む友江。


「あんた、昨日何かあったでしょ。私見たわよ、更衣室で。アクセサリーは付けない主義のあんたがネックレスしてるじゃない!何なのよ、あれは!ちゃんと説明しなさいよ!」

「先輩どこ見てるんですか?!ひっど…。」


 友江は睨み続ける。仕方なく答える加波子。


「あれも自分で買ったんです!誕生日にも自分でコート買ったの、先輩知ってるじゃないですか。…いいじゃないですか、ネックレスも買ったって…。」

「カナ!今日だけは付き合って!」

「え??」


 終業。友江と向かった先は居酒屋・古都こと。会社の近くで社員の行きつけ、溜まり場だ。店は広くはないが、老舗旅館のような雰囲気で女将さんのセンスが光る。その女将さんはとても明るく、女将さん自身も輝いているような人だ。加波子はアルコールを受け付けない体質。だからあまり来たことはない。


「今日だけは予定のない子が誰もいなくて…あんたしかいなかったのよ!ありがとう!カナ!」

「そんな、私がいつも暇みたいに言わないでください。」


 ふてくされる加波子をお構いなしに友江は続ける。


「だって今日、一応クリスマスじゃない?独りでいたくないじゃない。」

「そーゆーもんですか?」

「そーゆーもんなの!あんたにはわからないか…。」

「じゃあ、そーゆーもんってやつ、教えてくださいよ!今夜はとことん付き合います!あ、でもくれぐれも飲み過ぎないようにしてくださいね!」


 加波子は友江の話にとことん付き合った。友江の話はいつも楽しい。いつ何を聞いても楽しかった。友江は加波子にはない、積極性や社交性を持っている。自分には縁のない話だからこそ、新鮮に感じ、楽しかったのかもしれない。


 終電が近づき帰る準備をする。外に出た加波子は前日のような寒さを感じた。


「さむ…今日もすごく寒いですね…。」

「何言ってるの。今夜は暖かいほうよ?」


 翌日。加波子は熱を出し仕事を休んだ。前日の寒気は悪寒だった。近くの診療所へ行き薬を処方してもらい、大量のスポーツ飲料を買って部屋に帰る。


 スマホが鳴る。友江からだ。業務連絡と詫びの返信をし、横になる。再びスマホが鳴る。今度は亮からだった。


 大丈夫か?


 心配もしてくれてラインまでしてくれて、嬉しいのに熱が邪魔をしてぼーっとする。


 熱が出ました

 でも病院行ってきたので大丈夫です


 薬が効き始め、加波子は眠る。その日は1日安静にしていた。気づけば外は暗くなっていた。インターホンが鳴る。


「…はーい…。」


 ふらつきながら玄関に向かう加波子。ドアの覗き窓からは何も見えない。でも確かにインターホンは鳴った。恐る恐る鍵を開けドアを少し開ける。なぜかドアが重い。その重いドアを少しずつ押してみる。


 ドン ゴロン


 何かに当たった音がした。そこにはスーパーの大きなビニール袋がふたつ。中には大量のスポーツ飲料が入っていた。加波子は驚いたが何となく感づいた。もしかして、と。


 加波子は慌てて袋と一緒に部屋に入る。重たい袋ふたつ、床に置く。ぼーっと見ていたら、ひとつの袋の中に紙が見えた。レシートには見えない正方形の紙。袋から出し、初めに見えたのは『相原工場(株)』のプリント。そしてその上に何か書かれている。


  早く治せ

     亮

 

 亮からのメッセージだった。短いメッセージ。しかし飛び上がるほど嬉しい加波子。胸が膨らむ。両手でしっかり持ち、短い文章、1字ずつ読む。そして見る、亮の字を。


「亮さん…こういう字、書くんだ…。」


 達筆でもなければ汚くもない、ごく普通な男性が書くような字。特別丁寧でもないが決して殴り書きでもない。その亮の字に見惚れる加波子。ぼーっと見た後、慌ててラインする。


  ありがとうございます

  早く治します


 スマホが鳴る。亮からのラインだ。


  お大事に


 亮の見舞い、亮の思いやり、亮のらしさが愛おしくなる加波子。亮からのメッセージをベッドのサイドテーブルに置いて、加波子は眠りにつく。


 やさしく並ぶペットボトルたちと一緒に。



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