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愛してる 〜必ず戻る、必ず守る〜  作者: 凪 景子
第2章
22/59

11話

 終業。更衣室。その日は前日の誕生日にプレゼントされたニットを着ていて、ネックレスが際立っていた。


「カナ。これから古都で飲み会あるけど、来る?」

「今夜はごめんなさい。また誘ってください。お先に失礼します。」


 加波子は急いだ。急ぐ必要もないのに急いだ。工場へ向かっていた。亮のいた工場だ。あるお願いをするために。前に行ったのはもう随分前だ。加波子のことも忘れていているだろう。そんな加波子の願い事など、聞くはずもないだろう。


 しかし加波子は向かう、工場へ。賭けだった。今回こそ本当に、藁をもすがる思いだった。


 工場は何も変わっていなかった。懐かしさに耽ることもなく門を入り階段を上る。引き戸を引く。前と変わらない事務員がいた。


「いらっしゃい…あなた、どこかで…。」

「はい、以前何度かお邪魔いたしました。不躾ですが、社長さん、いらっしゃいますでしょうか?」

「少々お待ちください、こちらへどうぞ。」


 ソファへ案内され、お茶を持ってきてくれた。加波子が軽く頭を下げると、社長が現れた。加波子は立ち上がる。


「お久しぶりです!社長さん!」


 挨拶をし深々と頭を下げる。


「ああ、お嬢ちゃんか。元気にしてたかい。」


 社長は加波子のことを覚えていてくれた。


「はい、おかげ様で。」


 ソファに座る2人。少しの沈黙。


「あいつのことかい?」


 話は社長から切り出した。


「はい…。」

「話すことは何もねぇよ。帰るんだ、お嬢ちゃん。」


 立ち上がろうとする社長に加波子は叫ぶ。


「待ってください!今日はお願いしたいことがあって参りました!どうか話だけでも聞いてもらえませんか!お願いします!お願いします!!」


 社長はソファに座り直す。


「なんだ…、どうしたんだい。」

「社長さん、静岡に行ってもらえないでしょうか?彼がそこにいるんです。私じゃだめなんです。面会を拒否されるんです。手紙を出しても返事なんか来ないし。彼が今どうしているのか…、さっぱりわからないんです…。」


 黙って聞く社長。後ろのドアから誰か入ってきた。航だ。


「お疲れ様です。」

「おーお疲れ。ちょうどよかった。お前ちょっとこっち来い。」


 社長が手招きする。加波子に気づく航。加波子は軽く頭を下げる。航も加波子を覚えていたようだ。


「久しぶりだな、元気にしてたか?」

「はい。」

「…そーは見えねぇけどな。」


 ボソッと言う航。


「で、社長、何かあったんですか?」

「お前、そのお嬢ちゃんの代わりに亮に会ってきてやってくれないか。場所は静岡らしい。」

「亮?静岡?」

「刑務所だよ。社長の俺が行くより、一番仲が良かったお前が行ったほうが亮も和むだろう。頼んだぞ。」


 航の肩をポンっと叩き、そう言って社長は去っていった。


「社長さん、ありがとうございます!」


 加波子は立ち上がり、頭を下げた。


 航は加波子を門まで送る。


「お願いします、どうか…。」

「あんた痩せたな。そんなにあいつが好きか?」


 憔悴した加波子は何も言わない。航はそんな加波子がひどく気の毒に思えた。


「行ってきてやるよ。だからちゃんと飯食って待ってろ。」

「ありがとうございます。よろしくお願いします。それで…。」

「なんだよ。」

「もし、面会できたとしても、私のことは何も言わないでください。お願いします。」

「何でだよ?」


 加波子は答えづらそうに答える。


「私とは無関係、航さんが航さんの意志で会いに来た、彼にそう思って欲しんです。」


 腑に落ちない航。しかし、華奢な加波子がさらに痩せ、心までもしぼんだように見えた加波子に、航は何も言えなかった。


「…わかったよ…。気をつけて帰れよ。」


 加波子は頭を下げて工場を去る。


 それから加波子は待った。航から、何かから、どこかからの連絡を。1日、2日、3日。その夜、加波子のスマホが鳴る。航からの着信だ。急いで出る加波子。


「もしもし!」

「おう、今日会ってきたぞ、あいつに。」

「それで…!」

「あいつ、何も変わってなかったよ。髪は短くなってたけどな。体もどこも悪くないみたいだ。でも囚人服着てたから、さすがに元気そうには見えなかったけどな。でも、それ以外は何にも変わってなかった。世間話して笑って。何も変わらねぇよ、あいつはあいつのままだ。」

「そうですか…よかった…!本当に、本当にありがとうございました!」

「ああ、あいつ顔色も悪くなかったぞ。でも元々血色いいやつじゃねぇか。それから、言うなって言われてたけど言ったよ、あんたのこと。」

「え?」

「言わない訳にはいかないだろ。帰り際ちょろっと言って帰ったきた。」

「そんな…。」

「とにかくもう心配すんな。あいつは大丈夫だ。じゃあな。」

「あ!」


 電話が切れた。


 亮は亮のまま。何も変わっていない。心から安心を感じた加波子。


 封印していた引き出しをゆっくり開ける。1枚のメモ用紙。亮からのメッセージ、亮の字。


 亮に傷つき、亮に癒される。綺麗事なんかじゃない。遠くても、確信はなくても、自分の気持ちは確かだ。改めて認識した加波子。


「変わってないって…よかった…。」


 亮の字に向かって呟く。


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